2. 初顔合わせ
声の後に人が出てくる。
少し毛に白いものの見え始めた、初老の男だった。
「峻君! 君も参加してくれるのか!?」
男は眼を輝かせて言う。
峻は、良く見てみたが、はっきりと面識があるかどうか思い出せない。
近所なので、会ったことが全然ない、という事もなさそうではある。
「参加しろよー」
安山が無責任に声を上げる。
「そうだよー。峻ちゃん昔は有名だっただろ?」
「そうそう、霊感がある、って」
さらに声がかかった。
「霊感?」
ADが反応する。眼の底が、少し光ったような気がした。
「是非お願いするよ! 頼む」
初老の男が走りよってきて、小さい頭を峻に向かって下げた。
だんだん峻の記憶がよみがえってくる。
確か小さい時分に、この人はウチに来た事があった。
『親父の知り合いだったかな……』
誰か家族の知り合いだったことは間違いない。そもそも峻の家は知り合いが多いのだ。
『あっ、そうか……』
思い出した。
祭りの日に峻の家では、接待で御馳走がでる。
人が集まって飲み食いするのだが、その時この人は峻の家に来ていた。
確か、酔っ払って遊んでくれたはずだ。
爪楊枝や紙片やゴムを使って、簡単な玩具を作ってくれたりした。
困った。
思い出してしまうと断りにくい。
峻は、ADの人間に見つかった時点でさっさと逃げ出すべきだったのだ。
「しかし、急に参加者が増えるっていうのもねえ」
ADが口をひん曲げてボヤいている。
「いいよ! 入れてやれ!」
向うから偉そうな声が聞こえてきた。
ADの神妙な様子から見て、どうもこの現場の偉いさんらしい。
しかし……とかなんとか、ADはモゴモゴ口を動かしていたが、
「ここの家主さんも、是非にってお願いしてるんだからいいだろうが!」
鶴の一声、というやつだろう。
早速峻は、座敷に上がる事が出来た。
「ありがとう……」
男は涙を出さんばかりに喜んでいる。
これでいよいよ逃げられなくなった。
座敷には三人座っていた。
タレントらしき人間と、あとの二人は何か独特な風貌をしている。
一人は安物の青い背広を着て、手に大きな数珠を持っていた。三重くらいにして、手に巻いている。
峻が入ると、その男はこちらを見てニッと笑った。
もう一人の方は、上から下まで黒づくめだ。
開け放しているとはいえ、室内でなのであるが、黒い帽子も被っていた。つば広である。
『なんかコスプレみたいだ……』
峻は、屋内で帽子を取らない事に関して、少し不快感を持った。
わりとこういう事が気になる方なのだ。
黒づくめの方は、峻を見ない。
俯き加減で、誰とも眼を会わせなかった。
薄く、口元が歪んだ気がする。
何か峻に思う所があるのだろうか?
『……背広の方は本物だな』
久しくなかった緊張感が、峻を襲う。
本能的に、何かの気配を感じ取ったのだ。
「じゃー、そろそろ始めるかー!」
大きな声で、言いながらさっきの偉そうな男が入ってきた。
察するにこの男が、良く聞く『番組ディレクター』というものなのだろう。
何となく、カラ元気っぽい。