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暗闇グルメ  作者: 八花月
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1. 謎の女

 人だかりの山が出来ている。

 地方局とはいえ、TVが来ると、やはりまだ人は集まるのだ。

『やっぱり来るんじゃなかったかな』

 峻は、普段それほどTV番組など見ないのだが、撮影というものに多少興味はあった。

 場所が近所だったというのも大きい。

 列の後ろの方で背伸びしているのだが、建物の中までは見えなかった。

 この場所からはわかりにくいが、 どうやら、庭の戸を全て開け放っており、座敷を解放しているようだ。

 裏の垣根の方から回り込んでみる事にした。

 勝手知ったる他人の家である。

 家の住人とはそれほど交流がないが近所であり、それなりに土地勘があるというのが峻の強みではあった。

「?」

 何か、異様なものを見た、と思って峻は立ち止る。

 パッと見、何か黒い塊のように見えた。

 生垣の向うにひょこっと、丸いものが突き出ている。

 奇妙なリズムで、揺れるように左右に動いていた。

『あ、人の頭か』

 ようやく気付いた。

 同時に首が回って肌色が見える。

 眼が合った。

 向うもビックリしている。

 ガサガサッと派手は音を立てて、どこかに消えていった。

 顔は良く見えなかったが、髪が長かったので女ではないだろうか。

 あの驚き方を見ると、自分と目的は一緒だったのかもしれない、と峻は思った。

 そろそろと垣に沿って進み、簡易な戸のついている所まで来た。

 人がいないのを確認し、そっと戸の根元の蝶番のあたりを押してみる。

 こうすると、普通に開けるより力がいるが、音がしにくいのだ。

 裏口に人はいなかった。

 他人の家の敷地なので当たり前といえば当たり前であるが、野次馬もいない。

『まあ、俺は一応家が知り合いだし……』 

 ご近所のよしみ、みたいなものに甘えている自分に少し罪悪感を抱きつつ、峻はこっそり建物の表側に回っていく。

 表に近づくと、人々のざわめきが大きく聞こえてきた。

 まだ始まらないのかよぉー。

 暑いんだよぉー。

 等、しまらない掛け声が飛び交っている。

 TV局は、特に困った様子もなく、何か反応する気もないようだった。

 この場所では、中の様子を窺う事が出来ない。

 もうちょっと、もうちょっと……と思いながら、そろそろと歩を進めていると、

「あ、峻じゃねえか」

 と、声がかけられた。

 しまった、と思い急いで身を隠そうとするが、もう遅い。

 見物人の中に知り合いがいたようだ。

「そんな所で何やってるんだよ」

『安ちゃんだ……』

 昔、近所で小さな古本屋をやっていた、安山という男だった。

 最近、峻は会っていなかったのだが、まだこの辺に住んでいたらしい。

「峻?」

「幡野さんとこの……」 

「あ、『幡野峻はたのしゅん』くん!?」

「あの?」

 何があの、なのかよくわからないが、見つかってしまった。

 だんだん騒ぎが大きくなると、TV局の人間も放っておけなくなるらしく、原因を探そうとする。

「ちょっと、困りますよ」 

 渋面を作って、峻の元に雑用らしい男がやってきた。ADとかいうやつだろうか。

 この家の家主に言われるならともかく、TV局に文句を言われるというのも、何だかちょっと釈然としない。

 と思っていると、

「おーい峻、参加しに来たのか?」 

 と野次が飛んだ。

 安山である。

 これはちょっと、予想外の展開だ。

 色々面倒な事になりそうなので不本意ではあるが、峻はさっさと謝って逃げようとした。

「ああ、なるほど!」

「そうか、峻なら確かに……」

 見物人の間で、何か不穏な声が上がっている。

 峻の脳裏にさっ、と嫌な予感がよぎった。

「あの、関係者……の方なんですか?」 

 ADの態度がほんの少し神妙になる。

「いや、全然……」

 峻は、即座に否定の素振りを示した。全く関係者の方ではないので、当然といえば当然である。

「お前も参加すればいいじゃないか、峻」

 安山が呑気な声をかけてきた。

「ちょっと安ちゃん! 黙ってて!」

覚えてたんか! と安山が声を張り上げて返事をする。『俺の事を覚えていたのか』という意味だろう。

 見物人の間で、どっと笑いが起きる。いい気なものだ。

「結局、あなたはなんなんです?」

 苛々した様子で、ADが口を開いた。

 峻としては、このADの気持ちもわからないではない。

「もう帰りますから」

が、段々面倒になってきた感はある。

 なのでこんなぶっきらぼうに答えになってしまった。

「峻……幡野さんのところの峻君か?!」

 座敷から大声が聞こえてくる。

 峻は、聞き覚えがない声だ、と瞬間的に思った。


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