節目
雪がまだ残っていた。
僕は幼稚園の卒園式に出席していた。
僕はキョロキョロしていた。
会場の後ろにある保護者席を見ると、ハンカチで顔を半分覆って涙している母親達や、カメラをまわして我が子を撮影している父親達がいた。
その中に祖母はいなかった。
前日、僕は祖母に「明日は、お歌がんばるから来てね。」と言った。
祖母は大きく頷いて、「頑張って。ちゃんと行くからさ。」
でも、来なかった。
途中で来るのかもしれないとずっと保護者席をキョロキョロして、何度も振り返った。
結局、最後まで来なかった。
幼稚園の門の前で、周りの子達が家族で写真を撮っている横を一人で歩いて帰った。
泣いていた。
幼稚園から家までかなり距離があったが、ずっとずっと泣いていた。
途中、何人か親切な人が「大丈夫?」と声をかけてくれた。
でも、話掛けられたくなくて聞こえないふりをした。
帰ってから祖母に「嘘つき!」って言ってやると、ずっとそんなことを考えていた。
家に着いた頃には、夕方近くになっていた。
絶対文句を言ってやると思って、玄関のチャイムを鳴らしたが反応がなかったので、扉に手をやると鍵がかかっていなかった。
怒っていた僕の感情はどこかに飛んで行った。いろんな記憶が蘇って、暫く体が動かなかった。
玄関の扉を完全に開けきった時、目に飛び込んできたのは、うつ伏せに倒れた祖母だった。