会話
僕が、幼稚園の年長にあがったころ、ずっと続いていた無言電話はピタリととまった。
最近では、夜中や早朝などにも掛かってくるようになり、一度、父が受話器をとって「いい加減にしろ」と怒鳴りちらしてからその頻度が上がって次第にエスカレートしていった。
それが一週間近くやんでいた。
僕ら家族は、父の怒鳴りの効果が出たのだと思っていた。
日曜日の夕飯の時に
「パパすごいね。」
「当たり前だろ!パパは凄いんだぞ。」
家族四人で楽しく会話をしたのを覚えている。
今、思えば家族四人で食べた最後の夕飯だった。
いつもと変わらない朝だった。
仕事に行く父を玄関先で見送り、僕は幼稚園バスをバス停で母と待っていた。
いつもは、バタバタしてバスに待っててもらうことが多かったが、この日は十分前ぐらいにはバス停についていた。
この時、母とした会話は今でも鮮明に覚えている。
「うんちがね、うんちがね」
僕は当時、前日した大便の話をするのが好きだった。
父には、汚いと怒られるので母に話していた。
母は、ニコニコして聞いてくれていた。
僕の話が終わった後、少し間が空いて母が、僕に話かけた。
「幼稚園でいじめられてない?」
「ううん、大丈夫。」
「ママが、外人だから。大丈夫?」
「うん。」
「もし、いじめられてもママが守ってあげるから、言ったよ。」
「大丈夫だよー。」
少しカタコトに照れながら、強く頭を母に撫でられた。
しばらくして、バスが来て僕は窓際に座り母に手を振った。
母は、他の子のお母さん達が帰っていくのを横目に見えなくなるまで手を振ってくれていた。
これが、母との最後の会話になった。