表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

孤立

この年、長野オリンピックがあった。

地元開催ともあって、僕の住んでいた町もお祭り騒ぎだった。

僕も、ブラウン菅に噛り付いて見ていた。

その影響で、スキーがやりたくなって、祖母に相談してみた。

でも、お金がないから、と一蹴された。

それでも、どうしてもあの感じを体験してみたくて、板は段ボール、ストックは木の枝で、コースは、庭に雪でちょっとした山を作って滑ってみた。

意外と楽しかったし、滑れた。

得意になった僕は、学校で自慢した。

「スキーやってるの?」

「そうだよ!しかも僕んちで出来るんだ!」

「今日、遊び行っていい?」

こんなやりとりだったと思う。

友達を家に呼んだのは初めてだった。

僕は、浮かれていた。

その日、3人の友達が来て遊んで帰って行った。


次の日、学校に行くとみんなよそよそしかった。

ビンボーというあだ名が付いていた。

この日から、僕はいじめの対象になった。

僕が触るとビンボー菌とやらが付き、家がボロボロになったり、お金がなくなったりするらしい。

最初は、からかわられている、ただ、そう思っていた。

しかし、ビンボー菌の感染力はすごかった。

通学路で、すれ違うだけで叩かれたり、雪の中に顔を押しつけられたり、氷の入った雪玉をあてられたり、辛かった。

特に、雪の中に顔を押しけられて僕を押し付けた奴が、ビンボー菌ついたと他の子と追いかけっこをはじめるのは悔しかった。


僕は、悔しくて、悔しくて新雪の中から石を探して、それを拾って雪から顔を出して振り返りざまにそいつらに投げつけた。


当たったのは、全然関係のない子だった。

その子は、頭から血を流していた。


ここからは鮮明に覚えている。

一瞬、ビンボー菌をなすりつけ回っている子たちも止まり、静かになった後、その子が泣き始め、大騒ぎになった。


近くのコンビニ店員が、その子の親に電話して迎えが来た。

その子の親は泣いていた。

そのまま、その子は病院に行った。

後で知ったが4針縫ったそうだ。


僕をいじめた奴らは、やべえ、やべえと言って帰って行った。

その場に僕は、ひとり残された。

ずっと、赤く染まった雪をみていた。

日が沈むまでそれをみていた。


暗くなってから家に帰った。

とりあえず、怒られると思った。

でも、怒られなかった。

まだ、バレていなかった。

こんな時間まで何処にいたの?

それしか言われなかったから咄嗟に嘘をついた。

「雪合戦してたら暗くなっちゃった。」

嘘はバレなかった。


次の日、学校には怪我をした子は来ていなかった。

ただ、みんな知っていた。

その子が来てなかったこともあり、殺人者扱いされた。

でも、担任や祖母にはバレていなかった。

このままいけると思った。


その次の日、頭にネットを巻いてその子は登校してきた。

不審に思った、担任が事情を聴き、そこから大騒ぎになった。


僕とその子、祖母とその子の親、あと担任と学年主任と教頭で話になった。

相手の親は、僕の家の事情を知っていた。

だから、騒ぎにしたくなかったし、僕の祖母がかわいそうだからと言っていた。


僕はこの重い空気が嫌で、周りを見渡すと祖母は、泣いていた。

その子も泣いていた。

それを見て僕は、笑っていた。

感情がわからなかった。

笑うしか出来なかった。

それを見て、学年主任に怒鳴られたが、その様が可笑しくて気づいたら声をだして笑っていた。

気づいたら祖母の手が飛んできて、頬を叩かれた。

痛くて最初は泣いた。

そのうち、いろんな感情が湧いてきて、そこで初めて「ごめんなさい。」と謝った。

その子は、すぐに許してくれた。

その後、僕は部屋を出て廊下で待たされた。

中でどんな話をしていたかはわからない。

しばらくして、呼ばれて祖母と頭を下げその場を後にした。

祖母は帰りのタクシーの中でずっと泣いていた。

話かけても返事をしてくれなかった。


その日の夜、改めて菓子折りを持ってその子の家に謝りにいった。

相手の両親の顔は、まだ怒っている様に見えたが許してくれた。

家に帰ってから、祖母に言われた。

「フィリピン人の子だから野蛮なんじゃ。」

意味はわからなかったが、酷く冷たい言葉に感じた。

突き放された気がした。

それからは暫く話さなかった。


学校では、石を投げた経緯をずっと聞かれた。

授業にでず、別の空いてる教室でえんえんと聞かれた。

僕は、いじめられて悔しかったと答えたが、友達を悪者にするな、嘘はついちゃダメだよ、と信じて貰えなかった。

僕のいないホームルームで、いじめについて聞いたみたいだが、誰もいじめがあったと言わなかったようだ。

信じてもらえなくて、祖母に連絡が言った。

本当のことを言ってくれない。と。

祖母とは、あれ以来、口をきいてなかったから僕は完全に孤立した。

自分が悪かったのは、十分理解していた。

だから余計辛かった。


時間が経って経緯など聞かれなくなって、普段通り授業に出る様になった。

教室で物が無くなったりしたら疑われたりする様になったが、普通に学校に行って普通に帰ることができた。


でも、僕の周りには誰もいなかった。

いじめもエスカレートしていった。

でも、誰にも言えなかった。

祖母にも言えなくて、ひとりだった。


気づいたらリュックにお菓子など詰めていた。

僕は、東京を目指して家を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ