オークとの戦闘
人の目に付かない様に、森に囲まれて建てられた野営地の様な小さな集落にて
血に濡れ所々凹んでいる中世時代のフルプレートアーマーに身を包め、その手にはショートソードを握っている一人の男と、
派手な戦化粧を顔に付け、その男より頭一つか二つ分程大きい2m程の体格と緑色の肌を持つ斧を振りかざした巨漢のオークが、
周りに血に濡れた多数のオークの死体が散乱している中戦い続けている。
長年愛用し続けてきた剣が、目の前の醜悪な面構えをしたオークの緑色の喉に突き刺さる。
「グガッ・・・・・!!き・・・・貴様・・・・・!!」
ここにいるどのオークよりも派手な戦化粧を顔に付けたオークは手に持っていた斧の柄を痛みからか手放し、
血飛沫を上げながらも喉元に突き刺さり続けている剣の刀身に手をかける。
既に血によって赤く染まりあげられている剣だが、敵が剣の刀身に刀傷も厭わず剣を抜き取ろうとしている為、
噴き出る血によって更に赤く染まり続ける。
「お・・・お前は・・・・な・・・何故・・・・俺・・・を・・・・俺たちを・・・・こ・・・殺す・・・・!!」
目の前の敵から目を背けずに、フルフェイスヘルメットの隙間から周囲の状況を再確認する。
周りには幾つもの血に塗れた死体が無造作に転がり、大地を赤く染め上げている。
体付きから雌のオーク、一般的なオークの体格よりも一回り小さい非戦闘員のオークも居た筈だ。
恐らく、着こんでいる金属製のプレートアーマーにも無数の血痕がこびり付いているだろう。
しかし、喉元に剣が生えている状態だというのにまだ話せるとは・・・存外このオークはタフな様だ。恐らくはこの部族を束ねる長だろう。
もう二度と、その立派な牙を生え揃えた口から出る声が聞こえない様、剣の柄に力を込める。
喉元に刺さった剣先が、所々血に濡れている緑色をした肌の内側に隠れた朱肉色の肉と隠れ見える白い骨を掻き分けながら奥へと差し込まれる。
「ガァァ!!」
ズブズブ・・・・剣先を目の前の醜悪な化け物へと押し込む度にオークはくぐもった悲鳴と血飛沫を喉と口から垂れ流す。
「・・・って・・・・やる・・・・・・」
オークは目を見開き、こちらを見つめる。その目からは深い後悔と憤怒の炎が灯っている事が、誰の目からも明らかだろう。
もう体力も無いのか、刀身にかかっているか細い力が弱まり続けて来た事が握っている柄から伝わる。
「呪って・・・・やるぞ・・・・!!にんげ」
最後の言葉を聞き終える前に、真っ赤な剣先がオークの長のうなじから少ない肉片と大量の血飛沫と共に飛び出る。
断末魔とも言えない呪詛を吐き終える前に、決して刀身から手を離さぬまま、漸く息絶えた。
突き刺さった剣の柄を握り締め、抜き取ろうとするが死後硬直したオークの手に憚られ抜き取れない。
ポタポタと刀身から赤い雫が垂れ落ち、地面には小さな血溜まりが出来ていた。
何度か抜き取ろうと試したが、予想以上に力が強い。
このままでは無理だと判断し、
一度柄から手を離すと腰のベルトにぶら下げているダガーナイフに手をかける。
鞘からダガーを抜き取ると、
手入れが行き届いている鋼鉄の刀身がキラリと日光に反射する。
改めて周りを見渡してみると、殺した数は目の前の奴を合わせると8人と言った所だろうか。
ダガーを右手に手に持ったまま刺し貫いたオークの長、その腕を確認しやすい様に仰向けに寝かせる。
剣を取り戻したかったが、それよりも先にやるべき事があった。
立ち膝をつき、先程まで殺し合いをし続けて来た長の顔をヘルムの隙間から拝見する。
断末魔の声すら出す事が出来ずに、頭上から照りつく日光のおかげで細部まで良く見えるその表情からは、
一人の人間に負けたという後悔、仲間を殺された深い絶望、そして怒り。
ありとあらゆる負の感情が入り混じった、見る者によっては威圧される程の凄まじい表情だ。
しかし、だからと言って今これから行う事をやめる訳にはいかない。
目を瞑り、殺してきたオーク達に哀悼の為の黙祷を捧げる。
そして黙祷を終えると、ダガーを握り締め、
長の頭部と胴体部分を繋いでいる剣が刺し貫かれている血染めの首へと向けて
ダガーナイフを、振り下ろす。