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Episode.Ⅱ 西東京探偵団~街の闇を暴く者~

 西東京郊外の寂びれたオフィスビル。そこの三階に『西東京探偵事務所』の看板はあった。


 ガチャリ─────────────────。


 開いた扉の隙間から、外の空気が流れ込む。


 「悪い、ちょっと遅れた」


 シグマが扉を開けると、中には六人の男女がいた。中に入ると、シグマは入り口付近の壁に取り付けられたフックにハットを掛けた。


 「珍しいね、シグマが遅刻なんて」


 その内の一人、前髪に黄色のメッシュを入れた青年が言った。


 彼は東雲 葵。探偵団のメンバーの一人だ。シグマとは同い年、十八歳の青年である。


 「急に依頼受ける事になったんだ」


 シグマは革張りのソファーに腰を下ろしながら言った。


 「それで、代金はしっかり受け取ったの?」


 一番奥に座っている、黒いロングヘアーの少女が口を開く。


 「え・・・・・ああ、貰った」


 シグマは僅かに視線を彼女から外す。しかし少女は目を細め、冷徹な視線をシグマにぶつけて言った。


 「嘘は良くないわよ?」


 「いっ!!」


 シグマの肩がビクン、と跳ね上がる。そしてシグマは観念したように深く溜め息を吐いた。


 「やっぱり、そうだと思った」


 彼女は呆れたように言い放った。


 彼女の名はノッテ・ビアンカ。この探偵団のリーダーである。弱冠十五歳にして天才的な頭脳の持ち主。加えて先ほどのように、彼女は”百パーセント嘘を見抜ける”という特技を持っている。ポーカーフェイスの達人である葵でさえも出し抜けないほどの精度を誇っている。


 「アンタ、一体何度言えば分かるの!安請負いにも程があるわよ?」


 長髪をポニーテールにまとめた女性、峰崎桜子はまくし立てるようにしてシグマに迫る。彼女の家は超大金持ちらしく、人一倍金にうるさいのはそれが原因かもしれない。ちなみに、現在は両親との不仲により絶賛家出中で、ここでの賃金で大学に通っている。


 「分かったよ、サクラ。次はしっかり受け取るから。それよりジンさん、左肘の調子が悪いんだ。見てくれないか?」


 シグマは桜子の隣にいる七部丈のシャツを着た男性に言った。


 「ああ、分かった」


 彼はそう言って立ち上がり、シグマに向かって右手を差し出した。


 彼は古閑仁一。二十七歳のフリーターで、探偵団のメンバーでは最年長。主にメカニックを担当しており、シグマの義体を定期的にメンテナンスしている。


 シグマは自分の左肩のジョイント部分を切り離し、左腕を仁一に手渡した。


 「・・・・・・・・・・・・・・やっぱ片腕無いのって気持ち悪いな」


 「落ち着かないんならこれ付けとくか?予備の義手」


 仁一はそう言って別の左腕を差し出した。人体の肩口から指先までを切り取ったような、球体関節がむき出しの左腕。シグマはそれを受け取ると、自分の身体と結合させた。そして肩を回す。


 「ん・・・・・・・・・動かしやすい。前はもっと引っかかる感じがあったんだけど・・・・・・・・・・・」


 シグマがそう呟くと、仁一は笑顔で言った。


 「だろ?いいオイル仕入れたんだ。そいつをこっちにも注してやるから待ってな」


 彼はそう言って扉の奥へ姿を消した。


 「何であたしは『サクラ』で、ジンが『ジンさん』なのよ!!あたしだって年上じゃない」


 桜子は腕を組んで頬を膨れさせる。


 「まあまあ、桜子さん。そう拗ねないで。お菓子食べなよ」


 少し短めの、赤茶毛の少女は桜子の肩を叩き、ビニールに包まれた一口大のチョコレートを渡す。


 「秋奈ぁ~、あんたはいい子だねぇ~」


 桜子は秋奈の肩をがっしり掴むと、彼女を思い切り抱きしめた。どれほど力を込めているのか知らないが、秋奈が桜子の肩をしきりに叩いている。


 「ん・・・・・・・・・・んだよ、煩いな・・・・・・・・・・・・・・・」


 ソファに身体を沈めて寝ていた青年は、目を擦りながらゆっくりと上体を起こす。緑色の髪をかき上げると、テーブルに置いてあった髪留めを掴み、慣れた手つきで装着する。


 彼の名前はミキト。シグマと同様に、これがフルネームである。その経歴の一切が謎に包まれており─────────────と言うか数年前から以前の記憶が無く、覚えていることと言えば記憶喪失以前よく食べていたであろうお菓子の名前だけだったという。そんな彼は探偵団随一の狙撃技術を持つ最強のスナイパーだ。


 「よう、ミキト。相変わらず寝てんのな」


 「ミーティングの時は起きてるんだからいいだろ・・・・・・・・・?」


 シグマがテーブルの上に置かれた小さな籠の中に入っているお菓子を摘み上げながら言った。


 「・・・・・・・・・・一応それ全部俺のなんだけどなぁ」


 「いいじゃねぇかよ。まだまだストックあるんだろ?」


 「まあそうだけどさ・・・・・・・・・・・」


 ミキトは不承不承と言った感じだったが、それ以上は何も言おうとしなかった。


 「そう言えば、ベンはもう寝たのかな?」


 葵がビアンカに問う。ビアンカはいつの間に淹れたのか、ミルクティーを飲みながら言った。


 「一時間ほど前に寝たわ。私もそろそろ寝ようかしら」


 「ああ、そうだ。ビアンカ、泊まってっていいか?バイクだから寒いんだ」


 「問題ないわ。寝室はいつものところを使ってちょうだい」


 すると、秋奈がシグマを見て言った。


 「そう言えばシグマ、いつものあのコートはどうしたの?」


 「知り合いに譲った。俺もそろそろ変えようかと思ってたし」


 「へぇ~、珍しいこともあるもんだね」


 葵が意外そうに言った。それにシグマが溜め息をついて返す。


 「そうでもないだろ。俺だって他人に物譲ることくらいあるさ。言ってないだけでな」


 そうこう雑談をしていると、奥の部屋の扉が音を立てて開いた。


 「シグマ、終ったぞ」


 仁一はシグマに彼の左腕を差し出した。


 「サンキュー、相変わらず仕事が速いな」


 シグマは自分の左腕を受け取った。そして、予備の左腕と入れ替える。装着後、肩を回したり肘を曲げたり、捻ったりしてみる。


 「うん、こっちの方がしっくりくる。いつも悪いな」


 それに仁一は笑顔で答えた。


 「いやいや、これが俺の仕事だからな。それに、俺がみんなに貢献できるのはこれくらいだからよ」


 そんなことはない、とシグマは心の中で思った。彼曰く、どこぞのメカニックマンより仁一のほうが信頼できるらしい。仁一は以前合法でも非合法でも車やバイクから義体やアンドロイドまで、幅広い機械類のメカニックマンとして働いていたことがある。その確かな経験と知識、技術がシグマにとってはとても心強いのだ。


 「それより、今日の昼に依頼が来たの。明日朝、依頼人が来るわ。昼に全員集合して会議。それからどうするかは追って伝えるわ」


 その場にいた全員が各々の返事を返した。


 「んじゃ、俺そろそろ寝る。また明日な」


 シグマは立ち上がると、まっすぐに寝室に向かった。




*    *




 眩い朝日がカーテンをすり抜け、寝室に差し込む。瞼を閉じているのに、網膜に直接情報を叩きこまれるような不快感がある。


 「ん、あぁ・・・・・・・・・・・」


 重たい瞼を持ち上げ、目を擦りながらベッドを這い出る。


 「おはよ・・・・・・・・・・・・」


 廊下から扉を開けてリビングに入ると、そこのソファにはビアンカと見知らぬ女性が座っていた。


 「彼女が依頼者?」


 シグマがビアンカに問う。ビアンカは小さく頷いた。すると、ビアンカが思い出したように口を開けて立ち上がった。


 「そうだ、今朝食作ってあげるから」


 ビアンカのその言葉に、シグマの靄のかかった意識が覚醒し、跳ね上げたように首が巡り彼女の方を見る。


 彼女は今まさにエプロンを取り出そうとしていた。それを見ると同時に、シグマの防衛本能が思考速度を追い越して、ほとんど脊髄反射で手を伸ばさせる。


 「だぁぁぁーーーー!!待て、待て!飯くらい自分で作る!だからな?ほら、依頼者と大事な話があるんだろ?」


 「ちょ、何なの!?」


 シグマはビアンカの肩を掴み、座っていたソファへと無理矢理押し戻した。ビアンカは不満そうな表情を浮かべたが、すぐに依頼人との会話を再開させた。


 深く安堵の息を吐き、シグマは冷蔵庫を開けて中から食パンを取り出し、トースターに突っ込んだ。そして薬缶に入ったお湯の温度を確かめる。確認した後にコーヒーメーカーを起動させ、豆と湯をメーカーに入れる。


 「で、彼女は?」


 傍にあった椅子に座りこみながらビアンカに尋ねる。ビアンカはシグマに、クリアファイルに挟まれた書類を投げ渡した。


 「荻原夏樹、二十三歳。・・・・・・・・・・・・・・・・・職場絡みの依頼か?」


 シグマがそう言うと、荻原は目を見開いた。


 「どうして分かったんですか?」


 「んや・・・・・・・・・・・何となくだ。勘だな」


 そこからしばらくビアンカと荻原の会話を聞いていると、トースターが音を立ててパンを吐き出した。シグマはそれを掴むと皿に載せ、カウンターに置いてあるバターナイフとマーガリンを取った。


 焼きたてのトーストにマーガリンを塗り、蜂蜜を少し載せる。


 「いただきます」


 シグマは静かに言いながら手を合わせると、口を大きく開け、食パンを齧った。パリッという音が聞こえると、柔らかくしっとりした生地が舌に当たる。


 食パンを二、三口食べた所で、コーヒーメーカーの電源が音を立てて消えた。シグマはマグカップを取り、コーヒーを注ぐ。


 「よく冷ましてから飲みなさいよ」


 ビアンカが視線を向けずに言った。


 「分かってる・・・・・・・・あっつ!!」


 ビアンカが溜め息をつき、呆れたような表情を見せた。


 「一応聞くけど、自分が猫舌だって自覚しているのよね?」


 「いいじゃねぇかよ、コーヒーはアイスよりホット派なんだ」


 「猫舌なのに?」


 「うるせぇな・・・・・・・・・・」


 シグマはそう言ってパンを齧る。


 「あの~、すいません。お話続けてもいいですか?」


 「ああ、ごめんなさい。どうぞ」


 二人は話を再開させた。シグマは朝食を食べながら、その話を聞いていた。


 「──────────────ようするに、兵器製造と売却を止めさせればいいんだな?」


 「そうです。中には殺人ウイルスなんてのもあるとか無いとか・・・・・・・・・・・・・」


 「なるほど。それは見過ごせないわね・・・・・・・・・・・・」


 すると、荻原はテーブルに手を叩きつけた。


 「お願いします!お金ならちゃんと払います。だから、だから止めてください!!」


 ビアンカとシグマが目を合わせる。


 「分かったわ。この依頼、私達西東京探偵団が全力で解決するわ」


 その言葉を聞いた荻原は、何度も深く頭を下げた。


 「ベン、お昼の作戦会議までの時間にミツバ重工の情報をありったけ集めて」


 すると、壁に設置されているスピーカーの隣の小さなテレビが独りでに起動した。画面の向こうには中途半端に伸びた、ボサボサの金髪少年が毛布に包まっていた。


 『もう既にやってるよ。ぱっと見、表立ってはそんな話は見当たらないけど、噂程度のものならちょこちょこ目につくね。会議までには全然間に合うよ』


 「そう。会議にはあなたも参加して欲しいから、それまでゆっくりして」


 荻原が頷くと、ビアンカが微笑んだ。


 基本無表情で冷たいビアンカだが、時々ああやって笑顔を見せる。彼女と言えど、根っこは普通に可愛らしい十五歳の少女なのだろう。


 「紹介が遅れたわね。そちらの猫舌はシグマ。彼は探偵と殺し屋を掛け持ちしているの。根は優しい子だから、怯えなくて平気よ」


 「シグマさんですね、よろしくお願いします」


 「ああ、よろしく」


 シグマは時計をちらりと見た。現在時刻は八時四十二分三十三秒。時間の余裕はあるから、恐らく会議には間に合うだろう。


 「ビアンカ、ちょっとデパート行ってくる」


 「新しいコート買いに行くの?」


 「ああ。さすがにあれがないと締まらないからな」


 シグマはバイクの鍵を手に取り、返事をした。


 「そう。だったら彼女を連れて行けば?さすがに退屈でしょうし」


 ビアンカは視線を荻原へと向ける。


 「え?あ、あの、いいんですか?」


 荻原が狼狽えたように言う。シグマは一瞬考えた後、了承した。


 「昼前には戻ってくる」


 シグマは事務所の扉を開け、外に出た。まだ朝方だというのに途轍もなく厳しい日差しだった。頭上からの太陽光線と、それが黒いアスファルトに反射した反射光。上下からグリルされているようだ。


 「あっち~・・・・・・・・・・・・もう夏だな」


 シグマはシャツの襟元をパタパタさせる。そして、腕に抱えたヘルメットを荻原に向かって投げた。


 シグマはバイクのエンジンを掛けると、ハンドルにかけてあるヘルメットをかぶった。


 「ほれ、乗りな」


 シグマが後部座席を親指で指すと、荻原は後部座席に跨りシグマの腰に腕を回した。


 「ちゃんと掴まってろよ?」


 そう言いながら、シグマはハンドルを思い切り捻った。バイクは爆音を発しながら前進していった。


 「あの、シグマ・・・・・“くん”?それとも“さん”?」


 「お好きにどうぞ。それに敬語も要らねぇよ。あんたの方が年上だろ」


 シグマがそう返すと、荻原は一拍空けて言った。


 「じゃあ、シグマくん・・・・・・・・・はさ、殺し屋なんでしょ?怖くないの?」


 「そりゃあ怖いさ。当たり前だろう」


 荻原は驚いた表情を見せた。が、無論シグマには見えていない。


 「俺は全身義体だけどさ、怖いもんだぜ?」


 「機械の身体なのに?」


 「機械だからって不死身なわけじゃない。義体だろうが生身だろうが、賭けてるのは同じ、自分の命なんだからよ」


 「へぇ~・・・・・」


 荻原は無意識のうちに黙り込んでしまった。シグマが全身義体であることにも驚いたが、なにより驚いたのは機械の身体は死にも朽ちもしないだろうと、何となしに思っていたことだった。そんな気配を感じ取ったからか、シグマはそれ以上何も言うこともなく、ただ国道を走り抜けていた。


 しばらくすると、様々な高さの建物が見えてきた。西東京の郊外から中心街へと入りつつあるのだ。




*     *




 「着いた、ここだ」


 シグマがバイクを止めた場所は、西東京でも有名なデパートだった。


 「あ、ここ来たかったんですよ」


 「確かちょっと前に改装したとか・・・・・・・・・・・・やっぱ人多いな」


 そう言いつつも、二人はデパートに入り込んだ。


 中では色とりどりのチラシや看板で溢れており、ついつい目移りしてしまう。新装開店して間もないので、どこの専門店もセール商品を店先に出して客を呼び込んでいる。


 「なんかいいのないかな・・・・・・・・・・」


 シグマは焦点をあちこちに移動させる。が、いまいちこれといった物が見当たらない。


 「あ、こんなのどうですか?」


 荻原が茶色いコートを手に持ち、シグマに向かって歩いてきた。シグマは無言でコートの生地を触る。


 「ん~、そうだな・・・・・・・・・・・これはちょっとデリケートな生地だな。もう少し硬めのがいいんだけど」


 シグマがそう言うと、荻原は別のを探してきます、と言って再び探しに出た。そしてシグマは再び辺りを見回す。


 「やっぱ夏だから、売ってるとしても薄手のコートしかないか。そもそもコート自体もほぼ無いしなぁ・・・・・・・・・・・・・」


 別の店に行こうとした瞬間、後ろから声がした。


 「シグマくん、こんなのどう?」


 荻原が手にしていたのはこげ茶色の、表面にポケットが色々ある楽しいコートだった。


 シグマは試しに腕を通し、肩を回す。次は腕を上下に動かす。身体を捻り、肘を曲げる。


 「いい・・・・・・・・・・・・・・気に入った」


 シグマがそう言うと、荻原の表情は一気に明るくなった。


 「よかった、気に入ってくれて」


 シグマはこれを即購入すると、タグを切り捨てて羽織った。そして小さく頷くと、慣れた手つきでズボンのポケットに忍ばせていた銃をコートの内側に仕舞い込んだ。


 「・・・・・・・・・・やっぱり、殺し屋なんだね」


 荻原はその一部始終を見て言った。


 「アンドロイドやサイボーグのパーツ作る工場で兵器開発されてるような世の中だぜ?これくらい、護身用としては普通だろ」


 シグマは当然のように言った。そしてシグマの言う工場がどの工場か、荻原にはすぐに理解できた。



 ────────────────自分の働いている工場だ。



 「─────────────でも、安心しな」


 荻原は我に返ってシグマを見た。


 「アンタの依頼は、必ず解決するからよ」


 シグマのその一言に、荻原は妙な安堵感を覚えた。そして、自然と笑みをこぼした。




*     *




 「ただいま」


 事務所の扉を開けると、冷えた空気が外に漏れ出した。


 「すっずし~!!」


 「フフ、外は暑いだろうし冷やしておいたわ。ついでに飲み物も」


 ビアンカはそう言って、テーブルにカップを並べていた。


 「あぁ、ありがとうございますぅ」


 荻原は外の暑さですっかりくたびれていた。


 「汗臭いのは嫌いだから、シャワー浴びてちょうだい。奥の扉を出て、右側二つ目の扉よ」


 荻原はその指示を小声で繰り返し、扉の奥に消えた。


 「あら、そのコート素敵じゃない」


 「ん、ああ。彼女が選んでくれた。生地も丈夫だし、これなら少々ハードな任務も大丈夫だろ」


 シグマはコートの生地を撫でながら言った。




*     *




 「みんな集まったことだし、作戦会議を始めるわ」


 ビアンカは真っ白なスクリーンを天井から下ろし、プロジェクターの電源を入れた。


 「依頼内容は工場内での武装製造の停止。まずミツバ重工の本社ビル」


 ビアンカは手に持ったリモコンでスクリーンに映し出す画像を切り替える。


 「ミツバ重工の本社ビルは西東京南部。ここから車で約一時間。本社ビル地下の工場でパーツ製造を行う工場があるのだけど─────────────」


 作戦会議はこれから一同が赴くミツバ重工の本社ビルと、隣接する工場施設の間取り図やセキュリティの話から始まった。


 『ねえ、ビアンカ。ちょっといい?』


 スピーカーがノイズ混じりに、ベンジャミンの声を吐き出した。


 「どうしたの、ベン」


 『僕なりに作戦を考えたんだけど、いいかな?』


 「ええ。聞かせてちょうだい」


 『三つのチームに分かれるんだ。まず、陽動チーム。次に潜入チーム、それと突入チーム。陽動チームが本社ビルに行って、社員たちの気を引く。その隙に潜入チームが本社ビルに潜入、兵器製造の証拠を掴む。証拠が掴めたら突入チームが工場内に突入。兵器製造の関係者をとっちめるって作戦。どうかな?』


 「なるほど。悪くないわね」


 ビアンカは深く頷いた。探偵団の作戦立案を務めているのは主にこの二人だ。残る問題は、誰がどのチームで活動するかだ。


 『陽動チームなんだけどね、あの辺りには昔からちょっとした“祟り”があったらしいんだ。何でも、物に意思を宿して復讐しに来るなんてのが。それを利用したいんだ』


 ベンジャミンはリビングのテレビに図を映し出した。


 『陽動チームはジンとサクラ。二人は機械に強い方でしょ?陽動チームは派手に暴れまくって少しでも多くの人の注意を引き付けて』


 ベンジャミンは会話に合わせて図を動かす。


 『次に潜入チーム。これはシグマと葵。説明は随時伝える。突入チームは秋奈とミキト。二人は工場内に潜入。僕が兵器製造の区画まで誘導する。潜入チームの合図があったら製造ラインに突入。実物の証拠を押さえるんだ。ここまで大丈夫?』


 全員がそれぞれ頷く。そしてベンジャミンの説明とともに会議も終盤へと差し掛かっていった。


 ベンジャミンが全ての説明を終えると、再び確認を取った。


 『これでいい?』


 一同は無言で頷く。


 「決まりね。それでは、任務を開始する」


 ビアンカがそう言うと、各々席を立ち、テーブルや足元に置いてあった銃やその他の道具を装備し始める。ビアンカは自分の机のもとへと赴き、一番下の引き出しからから銃を取り出した。


 「ベン、私は何をすればいいのかしら?」


 『そうだね。君は突入チームに同伴してくれないか?あの二人じゃ心配なんだ』


 「分かったわ」


 ビアンカはコートを羽織って事務所の鍵を手に取った。


 「あなたはここにいて。依頼人になにかあったら大変だから」


 ビアンカを最後に、全員が事務所を出て行った。


 事務所内には、エアコンのくぐもった音が木霊するばかりだった。

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