『 青年 と バディ 』
「テストを始めるぞ」
「ん……藪から棒にどうしたのさ?」
明朝、危険という事でほぼ全ての遊具が撤去され、だだっ広くなった公園の中『彼』は意気揚揚と発言し、『彼』の隣で欠伸をしながらぶっきら棒に答えた青年は背に背負ったバックからフリスビーを取り出した。
「はぁ……いまいち雰囲気が分かってないな、雰囲気というのは重要だぞ?……早く投げろ」
『彼』はそんな青年の言葉に溜息をついたかと思えば青年の周りをうろつきながらフリスビーを投げるように催促し始めた。こんな場所で、僕の周りをうろうろ回っているような奴に雰囲気も何もないだろうと青年は愚痴を漏らしてしまうのを堪えて、手に持っていたフリスビーを前方に向かって投げた。それを待ちわびていた『彼』は弓から放たれた矢のように飛び出し、フリスビーに文字通り食らいついた。
「ワシら、バディとは何だ!!」
『彼』は食らいついたフリスビーを自身の首のスナップをかけ、フリスビーを青年に投げ返し青年に問い掛けた。相変わらず器用な事をするな、と思いつつ投げ返されたフリスビーを受け取った青年はポケットから取り出したハンカチで『彼』が食らいついた時の唾液を拭き取り、苦い顔になりながら「……ヒトと動物の生まれながれにしての運命共同体」と呟いた。
「……ワシは良い生徒を持ったよ……つまらぬ……」『彼』は青年の呟きが聞こえたのかそう言った後、その場に丸まるようにうずくまった。
つまらないのは青年も同感だった、この質問に対する答えを求めて、どの参考書を漁ろうが、どの教授に尋ねても、まるで照らし合わせたかのような答えが返ってくるからだ。
「正しい筈、なんだけどね」
「ふん……そんな事分かっておる」
口では分かっていても、気味の悪さは何時も纏わり付いていた、そんな青年の気持ちを感じとったのか『彼』も賛同するかのように一つ鼻息を鳴らしながら答えた。
「……僕のバディ、長い長い距離を走り抜ける事の出来るシベリアン・ハスキーの君はこの程度の問題もきっと走り抜けるんだろうね」
「……まぁ、及第点はやろう」
『彼』の機嫌を取り戻すように軽くおだてながらフリスビーを『彼』に投げると、『彼』は少し機嫌を取り戻したのか立ち上がると、自慢の雪のように白い尻尾を振りながら先程と同じようにフリスビーを捕らえた。
「しかし、満点には至らぬな、ワシを種別で呼ぶなどと失礼とは思わぬか?人間?」
調子を取り戻したのか捕らえたフリスビーを直ぐに青年に投げ返してから吠えるように『彼』は言った。本当に喜怒哀楽がハッキリしているというか、感情が豊かというか……青年はバディである『彼』の顔を見てコレを口にすれば今度は怒るんだろうなと思い、上がってくる頬を必死に片手で隠しながら投げ返されたフリスビーを受け取った。
「ごめん、悪気はないよ、ナッツ」
「寛大なワシがバディで良かったな、芽吹」
簡単にフリスビーに付いたナッツの唾液を拭き取った青年、高峰芽吹はそう言いながらナッツに向かってフリスビーを投げ、ナッツは自分の満足のいく答えが帰って来たのか先程以上に尻尾を揺らしながらフリスビーに向かって食らいついた。
ーーー「芽吹よ、そろそろ集合場所に向かって良いのではないか?」
「え?、あぁ、そうだね、それじゃあ行こっか」
先程迄時間を気にせずフリスビーで遊んでいたように見えたナッツから時間を気にしていた発言を受けた芽吹は少し面を食らったが、直ぐに公園に建てられた時計台の時間を確認すると約束した集合場所へと足を運んだ。