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移民と先住民

「そうだ。この大陸には先住民が居た。」


建国10年にしては国の規模が大きい事を不思議に思い、問い詰めた俺にアディはあっさりとそう認めた。

アディにしてみれば、むしろ俺がそれを知らなかった事の方が不思議らしい。


「言っていなかったか?」


言われていたら、いくら俺だって覚えていたはずだ。頭は普通のはずなんだ。成績、中の上が俺のテストの定位置だ。


「まあ、わざわざ言う程の事でもないしな。」


海を渡ってきたアディ達とこの大陸に以前から住んでいた先住民の間に、実はほとんど違いは無かった。

そもそも、先住民と呼ばれる人々もルーツを探ればアディ達と一緒なのだそうだ。彼らのルーツは、ここでもアディ達の住んでいた場所でもなく、今は失われた大陸が人間という種族の本当の故郷なのだと伝えられている。


(すげぇ。ムー大陸かアトランティスか?)


どこの世界にも似たような伝説はあるんだなと俺は思う。


当然言語も生活習慣も決定的な違いはなく、アディ達の方が文明や文化が進んでいたために、必然的に先住民はアディのお祖父さんの創った国、ロダに統一されたのだそうだった。


「――――差別とかはないんだな?」


「もちろんだ。」


アディはきっぱり頷く。

国を創ったのがアディ達だから現在の政治の中枢や支配階級に移民が多いのは仕方がないが、努力すれば先住民でも偉くなれるし、先住民だからという差別はしないとアディは言った。

論より証拠で、俺とリーファのデートを邪魔した2人の騎士の内、黒髪の男の方は先住民だった。しかも軍でもけっこうお偉いさんだそうだ。


先住民には黒髪黒目が多いらしかった。


「人種差別は、法令でも禁止している。」


アディの笑顔には一片の曇りもない。




……そう、アディ達にとって、獣人は人間ではなかった。


アディ達が移住してくる以前から獣人は人間の労働力として使われていて、その認識は俺達にとっての馬や牛、犬等の使役動物と同じだ。


俺が階段で道を譲った話を聞いたアディは目を丸くして「ユウらしい」と一頻(ひとしき)り笑った。


「確かに耳と尻尾がなければ、俺達に似ているからな。」


アディの言葉にエイベック卿は顔を真っ赤にして怒る。


「我らを獣人と一緒にするなど(もっ)ての外です!」


多分、俺がサルやチンパンジーと一緒にされるような感覚なんだろうな。サルもチンパンジーも賢いが一緒にされたらやっぱり俺でも凹む。


アディやリーファ、そして嫌々ながらエイベック卿の話を聞いてまとめた結果、どうやら獣人というのは俺達の世界で言う“霊長目ヒト科のヒト以外”という分類のようだった。

知能が高く、道具を使用し、集団生活もできて簡単な言語も理解する。

……だけど決して人間では有り得ない生物。


(ボノボだったか?もの凄く頭が良くて、ゲームなんかもするサルがいたけれど、やっぱりあれを人間と同じだとは思えないもんな。)


たかが耳と尻尾、されど耳と尻尾だった。




俺はその事に納得して……俺の心の奥にひっかかった“何か”に蓋をした。

うん、俺の勘なんか当たった事ないし。勘違いしたあげく大騒ぎを起こすようなイタイ奴にはなりたくない。




「それにしても、よくすんなり受け入れてもらえたな?」


俺は純粋に興味から疑問を呈した。

いくら同じ人種だったからといって、移民と先住民が何の争いも起こさず統一されるなんて、もの凄い奇跡だ。


「彼らは我らを――――『神の賜いし御力』を持つロダの一族を待っていたのですから。」


芝居がかった身振りでエイベック卿が感動的に(のたま)う。


俺のテンションはダダ下がりだ。……聞かなきゃ良かった。


苦笑しながらアディが説明してくれる。




なんでもこの大陸には古い言い伝えがあって、その中で『いつの日にか、この地に金と銀の光を纏いし者が降り立ち、全ての人々を救うだろう』と予言されていたのだそうだった。

アディのお祖父さんはアディそっくりな金髪で、その妻であるお祖母さんはリーファそっくりな銀髪なんだそうだ。


「彼らは祖父母をその予言の救世主だと思ったんだ。」



(ナウ○カか?!)


俺の頭の中で『その者、蒼き衣を……』うんぬんというセリフが流れたのは条件反射のようなものだろう。

宮○アニメのヒロインは、俺の永遠の憧れだ。個人的にはル○ン三世のクラ○スがイイ。『私も連れてって……』なんて言われたら、俺は間違いなく「はい!」と答えるだろう。



……思いっきり思考が脱線してしまった。


素朴な先住民が、やってきた移民を自分達の救世主伝説と合わせて信じて受け入れてしまうという話は、どこかで聞いた事があるような気がした。信心深い人々ならなおさらそういった傾向は強いだろう。

しかもこの世界の『神の賜いし御力』は、想像の産物ではなく現実にあるときている。

他の誰でもない“俺”がその御力の証明だってのは、笑えないが。


アディ達は本当に運が良かったのだと思う。移住して来て侵略者にも略奪者にもならず国家を築けるなんて、もの凄い僥倖だ。


虐げられ迫害される側の立場になる可能性だってあったんだから。



もちろん俺は、事がそんなに簡単じゃなかっただろうって事だってちゃんとわかっているさ。

アディの[よろず相談サイト]への最初の相談は、【民の好感度が上がりません。】だった。


(きっといろいろ苦労しているんだよな。)


思い悩んだ末に、神様のお導きとはいえ見知らぬ“誰か”に相談するくらいだ。



俺より少し年上なだけなのに統治者としての苦労を背負うアディの肩を、俺はついポンポンと叩いてやった。


途端にガチャガチャと周囲から物騒な音が響く。

部屋の警護に当たっている騎士達が、今にも剣を抜こうとしてアディに視線で止められて固まっていた。中の1人はついさっき話題に上がった先住民出身の黒髪の男だ。こいつの剣はほとんど抜けかけている。

流石実力でのし上がった男。反射神経が素晴らしい。


「なんだ、ユウ。疲れたのか?」


アディが顔を覗きこんでくる。


(……近過ぎる。)


超至近距離の美形の顔に、俺は顔を引きつらせた。

これがリーファだったら全然文句はないんだが。


階段の昇降が原因の筋肉痛のために椅子に座りっぱなしの俺が疲れるはずがないだろう。


現状、長椅子から立てない俺の右隣にはアディが、正面にはリーファが座っている。

王様と並んで座っているというとんでもない事態に、繊細な俺の胃は先刻よりキリキリと悲鳴を上げていた。足さえ筋肉痛でなかったら、絶対直立不動で立っているのにと俺は思う。


……エイベック卿と騎士達の視線に殺されそうだった。


「いや。筋肉痛が治ったら王都を案内してもらおうかなと思って。」


城内の案内ができなかったからと、アディは王都の案内は何が何でも自分がするのだと主張していた。

当然俺はひたすら固辞していたのだが……


周囲の視線にビビりながらも、日々統治で疲れているアディのために、王都案内と言う名の息抜きに付き合ってやっても良いかなと、この時の俺は思った。

きっとアディは正々堂々と公務をサボれる口実が欲しいのだろう。

俺がアディの立場なら、喉から手が出る程欲しいに決まっている。


アディは、美し過ぎて俺の目がつぶれてしまいそうな満面の笑顔を向けてきた。


「本当か?ユウ、約束だぞ!――――ああ。ユウに案内したい場所が沢山ある。整備した上下水道も見せたいし、公共交通機関についても意見が欲しい。学校の建設予定地の相談もしたいし……そうだ!この前の疫病の際に必要だと言っていた保健所と先進的な医療機関の件だが――――」




……アディは、もの凄く元気だった。

半引きこもりの俺には信じられないテンションだ。


意欲満々の働きものの王様なんて、有りなのか?



俺は、自分のうかつな発言をちょっぴり後悔したのだった。

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