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もしものその後 (ユウを一番待ち望んでいたのがアディだったら)3

落ち着いて考えてみれば、俺がショックを受ける必要はどこにもなかった。


与えられた自分の部屋のベッドで目を覚まし、天井の木目を睨みながら俺は眉間にしわを寄せる。


(別にアディが結婚するからって、今の俺には関係ないだろう? 確かに俺はアディと――――俺を一番待ち望んでいる者と結ばれる体に変えられたけど、でも、だからってアディが俺と結婚する必要なんかないんだ)


アディは男で、俺も男だった。俺たちの間にあったのは友情で、恋愛感情じゃない。


(俺が女になったのは、ヴィヴォのいらぬおせっかいで、アディのせいじゃまったくないからな。……うん。そう考えれば、アディが結婚するってのは、いい話だよな。俺に責任感じて“俺と結婚する”なんて血迷わない内で、本当に良かった)


うんうんと、俺は心の中で頷く。

なんだか胸がモヤモヤして、喉の辺りが苦しいようなおかしな感じがするのは――――アディの結婚が100(パー)政略結婚だからだろう。


(相手が無鱗の有隣種ってなんだ? そりゃサウリアがあんなに美少年だったんだから、アディのお相手も美人は美人なのかもしれないけれど……有隣種と人間じゃ子供はできないだろう?)


有隣種は卵生だってヴィヴォは言っていた。卵生と胎生の間に子供なんてできないはずだ。俺と結婚しないのは、全然、まったく、OKだけど、アディが政略結婚だなんて俺には納得できなかった。


(だいたい、アディは国王なんだからお世継ぎは必ずいるんだよな? 人間の側室でも迎えるのか?)


見ている範囲では、この世界は一夫一婦制だ。

それとも、王さまだったら側室くらいいても普通なんだろうか?

いや、前王――――アディのおじいちゃんに側室がいたとはとても思えない。


(そんなもん作ったら、即王太后さまから離婚されていたよな)


うん。絶対有り得ない! 俺に(性格が)似ているという前王さまに側室なんて、どう考えてもムリだ。


……でも、アディなら大丈夫なのかもしれない。

なんといってもアディはイケメンで、しかも、熱血漢で良い奴だ。

あ、考えたらムカムカしてきた。


(チクショウ! 美人の奥さんに側室までいるなんて! イケメン爆死しろ!)


俺は心の中で、アディの藁人形に釘を打ち込んだ。気分はすっかり丑の刻参りで、想像の中の俺は、頭にロウソクを立てた鉄輪をかぶっている。……それにしても、いつも思うんだが、あの丑の刻参りって頭が熱くないんだろうか? ロウソクのロウが髪に垂れたりしたら、そこだけハゲそうな気もするよな? ……いや。別に本気でするつもりはないから心配する必要もないんだけど。



話が逸れてしまった。

えっと? 俺は、いったいなんでこんなに怒っていたんだ?


あ、ああ! そうだ。アディの政略結婚だ。俺をふる(・・)っていうのに、政略結婚なんて許せないだろう!


いや、まだ(・・)ふられてないけれど!


(って、まだ(・・)ってなんだよ……)


俺は自分で自分にツッコんだ。

……疲れる。




思考がぐちゃぐちゃになった俺は、とりあえずアディの結婚については、考えないことに決めた。


(どのみち俺には関係ない話だ……)


そう思う。

それよりも、考えるべきなのは、あのスパイと思わしき有隣種のことだろう。


(えっと、「三日後」と「婚約」の他にはなんて言っていたんだったかな? ……確か、「屋根」と「弓」と「報酬」だったか?)


う~んと、考え込む。

俺の大好きだった『火サス』――――火曜サスペンス○ラマ的な推理を働かせれば、

有隣種のスパイである彼らが、「三日後」のアディの「婚約式」で、「屋根」の上から「弓」でアディを狙って暗殺し、「報酬」を得るって流れなんじゃないだろうか……


(ベタすぎないか?)


いや、火サスのベタは王道だ!

あ? 誰だ、古いなんていう奴は。……古くていいんだよ! 古くてベタな火サスが、俺は安心できて好きだったんだ! ハラハラドキドキの先の読めない展開なんて、ビビりの俺に耐えられるはずがないだろう? 俺は推理小説だって犯人を先に確認してから読む派なんだぞ!


ああ、また話が逸れてしまった。

やっぱり、俺に沈思黙考は無理だよな。……いや、脳内でワタワタしているだけで、口には出ていないから、これも一種の沈思黙考ってやつなのかもしれないが。


まあいい。なんだっけ? ……ああ、そう。ベタな展開になるかならないかってことだけど――――



今から考えても仕方なくないか?


事件が起こるのは三日後で、今の俺にはなんにもできない。

証拠は何もなく、あるのは耳が聞こえず話もできないという設定の俺の有り得ない証言だけ。


(しかも、内容もあの五つの単語だけだし)


あんなものの意味はいくらでも変えられる。


例えば――――「三日後」王さまの「婚約式」を「屋根」の上から見て、その後射的(しゃてき)の屋台で「弓」をひいて「報酬」をゲットしようぜ!――――なんて、友人同士が遊ぶ計画だっていう解釈も成り立つ。


(ハハ、ホントにこっちの方がそれらしいよな)


少なくとも、俺の火サスかぶれの推理より数倍納得できる。

他の奴らだってそう思うだろう。


枕の上で首を横に振った俺は、大きく息を吐き出し、よっこらしょと起き上がった。

時間を確認すれば、今は夕飯の書入れ時で、食堂は大忙しな頃だ。

大した仕事はできないが、それでも俺は猫の手ぐらいの助けにはなれる。


(いくら考えてもどうにもならないことを悩んでいるより、下でおばちゃんとおっちゃんの手伝いをする方が建設的だよな)


立ち上がった俺は、鏡をのぞき、ケモミミ付きのカツラを整えた。背中越しに振り返り、付けたまま寝ていたことでちょっとヘタれてしまった尻尾をフワフワに直す。


(この尻尾が、俺じゃなく可愛い女の子に付いていたら最高なのにな)


鏡の中で、姉貴に似た顔が、情けない表情で俺を見返してきた。


(顔は姉貴になったけど、俺の本質は変わらないな)


以前この世界にトリップした時も、俺は最後の最後まで、自分には何もできないと、自分で自分に言い訳し、動かないでいた。

その結果、国が滅びそうになり、ようやくそれで覚悟を決めたのだけど――――


あの時、猛烈に反省し、少しは前向きに生きられる男になったと思っていた俺は、……やっぱりここで同じことを繰り返していた。


(うぅっ、情けねぇ)


もしもここにあの時の俺がいたのなら、大声で今の俺を叱りつけただろう。


『何をグズグズしているんだ! 早く城に行って、正体を明かして、アディに警告するんだ!』


――――うん。わかっちゃいるよ。

多分それが最善だ。例え俺の火サス推理が外れていて、あの有隣種2人がたんに射的で遊ぼうとしていたんだとしても、危険が1%でもあるのなら、俺は警告しに行かなきゃいけない。


わかってはいるんだが……


姉貴の顔が俺を見る。

いや、姉貴じゃない。女になった俺の顔だ。


ヴィヴォは、俺を一番待ち望む者と添い遂げられる体に変えると言った。

つまり、俺はアディと結婚できる体になったんだ。



(チクショウッ! 行けるかよ!)



男だった俺が女になって結婚できるって現実を突きつけられる場所に、そうおいそれと近づけるわけがない!

ヘタレと笑わば笑え!

そんな簡単に割り切れるもんか!

文句があるなら、お前も一度男から女になってみろ!

ここでホイホイとアディの前に出て行けるようなら、それは絶対俺じゃない!!


両手を腰に当てた鏡の中の俺は、ふんぞり返ってフンと鼻息を荒くした。




(……怖ぇぇっ、姉貴が怒っているみたいだ)


鏡の中の自分から、俺は恐々目を逸らす。

大きく三度目の息を吐いた。


(食堂の手伝いに行こう)


自分のヘタレぶりをこれでもかと思い知らされた俺は、しょんぼりと肩を落とし、スゴスゴと階下へ向かう。

誰より俺自身が自分の情けなさをわかっていた。



でも……とにもかくにも、俺には時間が必要だった。


(少なくとも、あと三日ある)


その三日間、一人で考えよう。

頼れる者はいないんだ。

アディはもちろん、リーファや、フィフィ、ティツァなんかにも、まだ俺は会うわけにはいかない。



決意し部屋を出た俺は、コトコトと階段を下りはじめる。

階下の食堂が見えはじめたところで、丁度食堂の扉が開いて、お客さんが入ってきた音がした。


「すみません。なんでもいいですから手早く食べられるものをいただけませんか?」


聞き覚えのある可愛い女の子の声が、耳を打つ。



(え?)



「まあ、“フィフィ”さま。お久しぶりですね」


嬉しそうなおばちゃんの声が聞こえる。

俺は、咄嗟に階下から見えない位置に引っ込んだ。


食堂に入って来たのは、間違いなく俺の知っている獣人の少女のフィフィのようだった。

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