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ロダ帝国

ロダ帝国は、建国10年の若い国だ。


何でも初代の国王はアディのお祖父さんで、アディ達は海を越えてこの大陸に渡って来たのだそうだった。


「両親は航海の途中で亡くなった。」


滅茶苦茶重い話に、俺はどう言っていいのかわからずに出されたお茶を一口、口に含む。

黒いお茶は何となく一杯目のプーアル茶みたいなかび臭い味がした。姉貴がダイエットに嵌っていた時に散々飲まされたやつと同じ味だ。こういう発酵茶は、一杯目は捨てて二杯目を飲むのが美味しいのだと後でアディにこっそり教えておこう。アディも口をつけていないところを見れば、きっとこのお茶が苦手なのだろうと思う。




―――元々アディ達の居た海の向こうの国は、肌に鱗のある歩くトカゲみたいな種族が支配しているのだそうだった。


歩くトカゲってどんなファンタジーだよって思うけど、今現在の俺の状況がファンタジーそのままなもんだから笑うに笑えない。

駅前で待ち合わせをしていたと思ったら異世界の王様に引きずり込まれましたなんて、厨二病にしたってヒド過ぎる妄想だと思う。

俺は自分の身の丈にあった設定が好きなんだ。


若干混乱している俺が、アディのファンタジー過ぎる説明をお茶しながら呆然と聞いていたりするのも仕方ないことだろう。




アディの話によれば、身体能力の劣る人間は向こうの国では虐げられていて、追われるようにこっちの大陸に逃げてきたのだそうだった。


「有鱗種は水が苦手だからな。海を渡ってしまえば奴らは追いかけて来られない。」


……いや、俺水の上を滑るように泳ぐヘビとか見た事あるぞ。こっちの世界じゃ違うのか?それともその有鱗種ってのは、サラマンダーみたいなものなんだろうか?


……ヤバい、変なゲーム知識で凄い生き物を想像してしまいそうだ。

アディの話に集中しよう。




船団を率いての航海は数か月にも及び、多くの犠牲を出しながら苦難の果てに辿り着いた新天地がこの大陸だった。

河口から少し遡った地に国を築いてロダと名付けたとアディは誇らしそうに話す。


アディのお祖父さんは、人々を率いて海を渡った責任者で、そのまま国王になったから国名もアディの家名のロダになったそうだ。


「国を興して10年。なんとか形になってきたところで祖父が急死した。仕方なく直系の俺が後継者となったんだが、俺は今までもっぱら国の外敵の排除にばかり力を尽くしてきていたから、内政などさっぱりわからなくてな。途方に暮れて巫女を通して神託を願っていたらユウに出会えたんだ。」


嬉しそうにアディは笑う。



「……神託。」



俺は二の句が継げなかった。

あれは神託なんかじゃない!ネットのよろず相談だぞ。俺だってゲームの攻略相談だと思っていたから気軽に答えていたんであって、これがモノホンの国の内政だなんて知っていたら絶対相談なんか乗らなかった。


(怖えぇっ……)


そんな重要事、ネットで相談なんかするんじゃねぇよっ!




「……ひょっとして、上下水道の整備とか本当にやったのか?」


俺の恐る恐るの質問にアディはきっぱりと頷いた。


「あぁ。まだほんの一部だけだが施工した区域に住む住民からは感謝の声が上がっている。バスや電車というものがどんなものかはよくわからなかったんだが、馬車を大型化して定期的に運行させ低価で誰もが利用できるようにしたらみんな便利になったと喜んでいる。」




―――俺の顔は情けなくも引き攣った。


流石、専制君主国家……アディの実行力半端ねぇ。

俺がゲーム感覚で提案したあれこれが現実に国の施策となっているなんて、有り得ない。



「―――しかし、あの“学校”というものは本当に必要なのでしょうか?文字を書くこともなければ複雑な計算をする必要もない農民達にまで教育を施す利を何も感じられませんが。」



そう言ったのは、アディの背後に立って俺を胡散臭そうに見ているおっさんだった。


「控えよ!エイべット卿。」


エイべット卿というのはアディの母方のいとこだか、はとこだかで、アディの内政面の補佐……つまりは大臣の1人らしかった。


彼はアディの叱責に黙って頭を下げたが、俺に向けられた視線には、はっきりと敵意がこもっている。


まぁ、当然だよな。俺みたいな得体の知れない男に自分達の大事な王様がホイホイされているんだから、面白くないに決まっている。

しかも俺ってば、他人を畏敬させるようなオーラを何にも持っていないし。



だというのに、アディは熱く俺を擁護した。



「―――ユウは俺を導き、先の疫病の際は死に瀕した我が国民を救ってくれた救世主だ。ユウの言葉に疑念を抱く事など俺が許さない。」



俺はその言葉に頭を抱えたくなった。


(おいおい、それはダメだろう?)


俺はそんな救世主なんてものになりたくないぞ。




「アディ―――」


俺が「アディ」と呼びかけた途端、エイベット卿の眉が深く顰められ、扉近くに立っているいかつい騎士達の手が剣にかかる。俺が目覚めた時もそうだったのだが、彼らは自分達の王様を呼捨てにされるのが気に入らないらしい。


その気持ちはよくわかる。俺だって本当は一国の国王を呼捨てになんてしたくないからな。でもアディ自身が今まで通りに呼べと頼んできたんだ。

これは絶対俺のせいじゃない。


だから俺はちょっとビビりながらも言葉を続ける。



「―――アディ、他人の意見を頭ごなしに封じるのはダメだ。特に大事な政策を決める際は、周囲の意見に耳を傾けてなくてはいけないと思うぞ。俺なんかの言葉よりこの国の人の声を大切にするべきだ。……それともアディは独裁者になりたいのか?」



俺はアディに心から忠告した。


……何より俺の精神の平安のためにぜひそうして欲しいと願う。


俺はイヤだぞ。

自分の言葉一つで、一国が動くような状況は。



アディはキラキラと輝く青い目で俺を見てきた。


「ユウ。やっぱりユウは俺の思った通りの男だ。ユウはいつでも俺に適切な助言をくれる。しかもそれをひけらかしもしない。ユウ、お前は俺の最高の友だ!」


感極まったアディは俺の肩をガシッと掴んだ。


(あぁ。)と俺は思う。


それはどこからどう見ても、ネットで俺と相談のやりとりをしていたアディだった。



(……素直で、良い奴過ぎる。)



こんな良い奴が王様で、この国は本当に大丈夫なのか?と心配になってきた。


周囲を見渡せば、何故かエイべット卿も兵士も驚いたような顔で俺を見ている。


止めてくれ。俺の顔はそんな注視に耐えられるような造りじゃない。




この状況を何とかして欲しいと思った俺の願が通じたのか、この時ドアをノックする音が響いた。


警護の騎士が慌ててドアの外を確かめてから振り返る。


「巫女姫様が陛下とユウ殿にお目通りを願っておられます。」


「通せ。」


短いアディの返事を受けてドアが大きく開かれた。



「!?」



入って来た人物を見て、俺は息をのむ。


白銀の髪。

赤い唇。

青い瞳。

透きとおるような白い肌。




―――それは、俺が夢で見た少女だった。




美少女、キタ━━━(゜(゜∀(゜∀゜(☆∀☆)゜∀゜)∀゜)゜)━━━!!!



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