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昔語り 2

戦いが戦いを呼び、誰かが勝てば敗けた者の恨みがまた戦を引き起こす。


「終わりのない戦いの一番の被害者は、手足のように使われ、あるいは楯とされた人と有鱗種じゃ。ついに彼らは我らから逃げ出した。」


当然の事だろう。逃亡先はこの大陸のみならず海を越えた他の大陸や島にも広がったという。


「人は知らぬが、この大陸の遥か奥地には逃れ住んだ有鱗種の国がある。元来有鱗種は水が苦手で海を渡るなど余程追い詰められなければできぬ種族なのじゃ。なのにその当時の有鱗種の一部は海を渡って逃げた。」


その逃げた有鱗種達の築いた国が、アディ達が元居た場所だったのだろう。人間も有鱗種も獣人の支配を厭って海を渡ったはずなのに、その先で今度は有鱗種が人間を支配したのだ。


やりきれない話に、俺の心は暗く沈む。



「我らが自身の愚かさと、『神』の御力の恐ろしさを思い知ったのもその件が元じゃ。」



戦争は人や有鱗種のみでなく、獣人……元々力が弱いフィフィのような種族の獣人達にも被害を及ぼした。その結果逃げ出した者達は、3種族が数の多少はあっても混在して逃げて行ったのだが、中にたった1つ、人間のみが移り住んだ島があったのだそうだ。


「人間が、自分達が逃げ出した事を忘れ、自分達の本当の故郷――――ルーツはこの場所だと思い込んだ島じゃ。」


他種族を決して近づけず人間以外を全て排除したその島。



「……それは、『神』の意志に反した行いじゃった。」



この世界の神は、実態の無い無形の存在だ。光であり闇であり、大気であり風である。水や炎も神と呼べるものだ。

形は無くしかし意志のある神が、己が力を振り分け生みだしたのが有形の存在だった。


この世界の創世神話をヴィヴォは語る。


――――――――


はじめに神は、無の中に大地を創った

そして、

光と水より人の子を生み

闇と炎より鱗持つ子を生み

風と最初に創りし大地より、獣人の子を生んだ

最後に神は告げた

調和(・・)せよ」

それがこの世界の在りし理由である


――――――――



「どの種族の巫女も知っているはずの創世神話の本当の恐ろしさを知ったのが、戦いの果てに人が人のみで生きる国を築いた時じゃった。」


人という労働力が減少し困った獣人達が、再び人を自分達の支配下に置くべくその島に攻め入った時に、それは起こったそうだ。



「人だけしかいない島は、調和できなかったのじゃ。」


「へ?」


それはどういう意味だ?

調和できないって、何が?


――――確か、人の居た島は、ムー大陸かアトランティス大陸みたいに失われた島だって言っていなかったか?


(まさか…………)



「神の生みだした様々な生き物が、バランスをとり調和するのがこの世界じゃ。人のみになった島は調和できず、人の属性である水が溢れた。――――空から降る雨と海から押し寄せる水とによってその島は一夜にして海の底に沈んだ。攻め入っていた獣人の船の大半を道連れにして。」



――――やっぱり、ムー大陸だった。

神の怒りをかって一夜にして海底に沈んだ伝説の島。アトランティスも似たような伝説だったはずだ。



「我らの過ちを悔いるにはあまりに大きな犠牲じゃった。『神』の力の前に我らはひれ伏し、己が誤りを悟り、二度と同じ事を繰り返さぬよう自らとその子々孫々までを戒めて、今日に至る。」



うん。よっぽど怖かったんだろうな。島1つ沈めば無理もないか。


多分その島が沈んだのは、地殻変動とか大地震とかの影響なんじゃないかとは思うけれど、それを機に戦争をすっぱり止められるとかって凄いと思う。


『神』という存在を無条件に信じ、怖れ敬うこの世界の住人ならではの事なんだろうけれど、俺はそっちの方こそよっぽどスゴイ奇跡だと感心する。




「我らが悔い改め、3種族全ての巫女で『神』への祈りを捧げた時に、『神』よりお告げがあった。我らの祈りに免じ、今後再び調和が乱れる兆しがあった時には、この世界に救世主を遣わそうと。」


(それが、傍迷惑な救世主伝説かっ!?)



『いつの日にか、再びこの地の調和に危機が迫った時、金と銀の光を従えし者が降り立ち、全ての人々を救うだろう』



それこそが正しい救世主伝説だった。




「では、やはり救世主は、――――ユウは、奴隷となった我ら獣人を人間より解放し、この世界に調和をもたらしてくれる存在なのではないですか!?」


ティツァが勢い込む。


止めてくれ……俺にそんな重責は無理だ。


俺にとって幸いな事に、ヴィヴォは頭を横に振る。



「確かに人は獣人を奴隷としておる。また海の向こうでは、有鱗種がかつての我らのように人を奴隷としておったそうじゃ。我らの犯した過ちが再び繰り返されるのか、そしてそれが調和の乱れる兆しであるのかどうか、わしには判断がつかぬ。救世主が何をどうしてこの世界を救うのかという詳細は『神』の予言にはない。……ただ、『神』は我ら獣人だけの『神』ではあられぬ。光があまねく全てを照らし、闇が全てを包むように、『神』はこの世界に生きとし生ける全てのものの『神』じゃ。己が為のみの願に『神』が応えられることは、ない。」



う〜ん。流石大バ○様、言う事がカッコいい。

要は、――――そんなもんわかるかい!自分の都合の良いように考えてんじゃねえぞっ――――って事なんだろうが、そのまま言ったんじゃ身も蓋もないものな。ヴィヴォみたいに言われたら誰だって「ははぁ〜っ」って畏まってしまいそうだ。


……相変わらず、俺って白けた人間だと思う。



ティツァはそれでも自分の意見を引っ込めたくはないようだったが、それ以上ヴィヴォに逆らうことはなかった。


結果、ティツァとフィフィは俺の守護者として俺を守る存在になったのだった。



フィフィだけで十分なのに。

まあ、口を開けば「殺す!」って言われなくなったのはありがたいけれど。




という訳で、今の俺のこのジェットコースター状態も、決してティツァに脅された上での無理強いではなかった。

王都に戻って来た俺が、ティツァの言っていた不審人物に会いたいって言ったからだ。


だって、気になる。


救世主なんてもんじゃない俺に、大して何かができるとは思わないけれど、その不審人物の話をちょっと聞いて、もし他国のスパイだったりしたらそれとなくアディに忠告するくらいはできるんじゃないだろうか?


(それくらいは、しないとな。)


王太后様公認とはいえ、まるっきり獣人側とツーカーになってしまった俺としては、アディにもの凄く後ろめたかったのだ。





思い出し考えこんでいる間に、俺にとっては永遠に続く責苦のようなジェットコースターも、ようやく終点に着いたようだった。


「降りろ。」


ぶっきらぼうに言うと、ティツァはそれでも俺をそっと降ろしてくれた。ふらつく俺の腕を、「まったく。」と呆れながらも掴まえて支えてくれる。


「あ、ありがとう。」


「――――こっちだ。」


腕を引っ張られて俺はティツァの後を追う。目の前をパタパタ揺れる尻尾が可愛く見えるのは仕方ない事だろう。

笑ったりしないさ。俺だって命は惜しい。



狭い路地をくねくね曲がって、古ぼけた石造りのドアをくぐった途端。



『早く俺をこの国の王の元に連れて行け!手遅れになるぞ。この街が火の海になってもいいのかっ!?』



聞こえてきたのはとんでもない内容の怒鳴り声だった。



…………聞かなかった事にしたら、ダメなんだろうな。

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