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山間の神殿 1

混じりけのない白一色の髪を高く結った威厳のある老婦人と、その背後に控えるお付きの人達だろう、やはりある程度年配のご婦人達が俺の目に映る。


その後ろには、ヨーロッパの森の中にでもありそうな古い貴族の屋敷といった小さな古城が建っていた。古城の背後は聳え立つ崖だ。うっそうとした木々といい確かにここは山間(やまあい)の小さな神殿と称して間違いない場所だった。


「はじめてお目にかかります。ユウ様。この国の前王妃ユイフィニア・ロダ・ミアンと申します。我が民がお世話になっております。」


背筋のスッと伸びた女性が、俺に向かって優雅な礼をする姿は見惚れるような気品がある。

頭を下げられた俺と、エイベット卿やコヴィをはじめとする騎士達、ティツァまでもがびっくりして目を見開いた。


王太后程の地位のある人がなんで俺なんかに頭を下げるんだ?


「流石おばばさまだな。ユウのことを知っておられたか。」


アディが嬉しそうに笑う。


「『神の賜いし御力』のお導きでお前達はユウ様と出会えたのです。私にわからぬはずがないでしょう?」


そう言えば、王太后様はリーファよりも力の強い巫女なのだという話だった。


しかし残念ながら、俺がアディと出会ったのはネットの[よろず相談サイト]である。神様と一緒にしたら流石に(ばち)が当たるだろう。

アディが現代日本のネットにアクセスできたのは、『神の賜いし御力』のおかげかもしれないが、俺はそれにたまたま答えただけの一般人なんだ。俺と『神の賜いし御力』とかは何の関係もありはしない。


変な誤解は早めに解いておいた方が良いだろうと、俺は慌てて口を開く。


「俺は大したことは何もしていませんから。……あ、はじめまして。ユウ サカガミといいます。アディやリーファさんには仲良くしてもらっています。」


俺が「リーファさん」と言った途端、リーファの瞳が悲しそうに曇る。


だって仕方がないじゃないか。俺だって若い男なんだ。どこの誰ともわからない胡散臭い男がアディはともかく可愛い孫娘(リーファ)を呼捨てにしているだなんて知ったら王太后様だって面白くないに決まっている。


少なくとも俺のばあちゃんは、姉貴が最初に連れて来た彼氏が姉貴を呼捨てにした途端、もの凄い顔をして彼氏を睨み付けていた。例え2人きりの時にどう呼んでいようとも、相手の家族の前でそのくらいの気配りができない男なんて最低なんだそうだ。

俺に、そんな輩にだけはなるなと言い聞かせてくれたけど、ようやくその忠告を活かせる場面に辿り着いたぞ、ばあちゃん!


……あぁ、ばあちゃんに今の俺の雄姿を一目見せたかった。





今度田舎に帰ったら聞かせてやろう。


もちろん、俺のばあちゃんは存命だ。元気でピンピンしている。田舎暮らしで、今目の前の王太后様には似ても似つかないけれど、何故か目の輝きだけは似ているような気がした。




キレイな青い、でもばあちゃんの小さな黒い目と同じ光を宿した美しい瞳が、俺を楽しそうに見る。

どうやら俺の第一印象は王太后様のお気に召していただけたようだった。


「お疲れでしょう。どうぞ入ってお休みください。――――アディ、リーファ、エイベット、あなた達は他の方達と一緒に神殿で(みそぎ)をしてからお出でなさい。念入りにするように。」


そう言うと王太后様は、俺だけを連れて屋内に入ろうとした。


エイベット卿が慌てたように声を上げる。


「なっ!?――――お待ちください。そいつ、っと、ユウ様は、禊は?」


禊って、お祭りの前に身を清めるために冷たい水を浴びたりするあれのことだよな?

王太后様の住んでいるここって小さな神殿って聞いたけど、そんな入る前に禊がいるような神聖な場所なのか?


「ユウ様は異世界人です。禊をしていただくのは違うでしょう。」


王太后様は、エイベット卿の申し立てをばっさり切り捨てる。


いや、別に俺は禊くらいやれって言われればやりますよ?流石に冷水を頭からぶっかけられるのとか、滝に打たれるとかいうのはお断りしたいけど、簡単なやつなら俺に宗教上のこだわりはないからな。



しかし、王太后様は俺にそんな発言をさせるヒマも与えず、さっさと俺を中へと招く。王太后様付きのキリッとしたおばちゃん達が、丁寧な所作ながらぐずぐずするなと言わんばかりに俺を追い立てた。


流石のアディもびっくりしてポカンと俺を見送っている。


「護衛を――――」


俺に付いて来ようとしたコヴィが、おばちゃん達に「禊をして来なさい!」と追い払われていた。





(……ひょっとして、俺拉致(らち)られたのか?)


そんな疑問が浮かんだのは、俺が屋内の奥まった一室に連れ込まれた後の事だった。


小さめな城のはずなのに何故かバカみたいに広く見えるその部屋に、王太后様は真っ直ぐ入って行く。自然に俺も続いて入って、その俺の後ろで重厚なドアがバタンと閉められたのだ。


俺は思わず立ち止まる。


天井が高いし、壁が遠い。


(構造的におかしくないか?)


この城の外見でこの部屋は有り得ないだろう。

そう言えばこの城の背後が高い崖だった事を思い出す。


(まさか、この部屋は崖の中なのか?)


それが一番しっくりくる答えのような気がした。間違ってもこの部屋が『神の賜いし御力』とやらのおかげで有り得ない空間を保っているなんていうオカルト現象はごめんこうむりたい。



「ユウ様、こちらへ。」



声がビクつくくらい大きく響いた。


広々とした部屋に俺と王太后様の2人きりである。


「!?」


と思ったら……違った。王太后様の向かった部屋の奥に小さな影がある。


本当に小さいそれが、人の座った姿だということが、近づいて見てはじめてわかった。

しかも、その人には丸くて小さな耳とふさふさの尻尾が付いている。



(獣人!?)



なんでこんなところに?と思うより何より、ちんまりと座るその姿から目を離せない。

マントのフードを背中に降ろし、俺を見上げる顔には深いしわが刻まれている。


かなりの年齢を思わせる獣人女性。




大バ○さま、キタ━━(゜д゜;)))━━!!



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