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幽霊船

俺の視線に少しは非を感じたのだろう、慌ててエイベット卿が話題を変えようとする。


「陛下、昨日の事件の事ですが……」


そういえば昨日アディは、何か面倒な事件が起こったと言って夕飯に来なかったのだった。


「そうだ。アディ、お前一緒に来て良かったのか?」


何か事がある時に責任者がいないというのは、いろんな面で支障が出る。

俺は今更ながらにアディがこんな所に居る事を心配した。


「ああ。大丈夫だ。ユウが心配するには及ばない。」


アディは安心させるように笑って大きく頷く。



なんでも昨日の事件は、海で漁師が幽霊船を見たと騒いだのだそうだった。



「幽霊船……」



俺はポカンと口を開ける。


(異世界すげぇ。幽霊船まで出るのか。パイレーツ・オブ・カリ○アンか?)


俺は脳内で木造船なのに海の中に潜れるという信じられない幽霊船を思い出した。


しかしどうやら現実は違うようだ。


「はっきりと見たわけではないらしい。なんとなくそんなような影を見たと訴えて来た。おそらく蜃気楼か何かを見間違えたのだろうが放って置くわけにもいかないからな。詳しい調査を命じて、昨晩はその結果を聞いていたんだ。」


調査の結果、海には何の異常もなかったそうだ。しかもよくよく話を聞けば幽霊船を見たと言い張る漁師は、普段から酒を浴びるように飲んでいる男で、幻覚を見るのかちょくちょく似たような騒ぎを起こすのだという。


「流石に城まで訴え出てきた事は今までなかったからな、こちらもそんな男とは思ってもみなかったんだが……男の村の村長が平身低頭して謝ってきたよ。」


それはずいぶん傍迷惑な漁師だ。


(たいへんだったんだな、アディ。)


しかし、俺の同情心はアディの次の一言で吹っ飛んだ。



「何より許し難いのは、そいつのせいでユウと一緒に夕食がとれなかった事だ。百叩きにしてやろうかと思ったんだが……」



いや、それはいろいろとダメだろう。


「――――アディ、緊急時と思われる時の報告に正確さを求めちゃダメだ。一分一秒を争うと思われる報告は何よりまず報告するという事に意義がある。事の真偽や詳しい情報の把握なんか後回しでかまわないんだ。」


……と、先日俺の大学院の教授が言っていた。

最近災害とか多いからな。ボトムーアップ方式の緊急連絡体制が必要なんだとさ。



「流石は、ユウだな。」


アディは嬉しそうに笑う。


ちなみにその酔っ払いと村長は、なんのお咎めもなしで帰したそうだ。それどころか今後は、正しい情報をいち早く持って来た場合には報償を払うと約束までしてやったのだそうだった。



「ユウならきっとそうしろと言うと思ったからな。」



……買いかぶり過ぎだろう。



アディは本当に良い奴だった。立派に王様をしていそうなのに、なんでこいつの目は俺に対する時だけ変なフィルターがかかるのだろう。

残念な美形ってこういう奴を言うのか?


「それよりユウ、さっきの土地改良の話だが――――」


……非常に不本意な事だが、俺はエイベット卿と目を合わせ一緒にドッとため息をついた。


箱馬車は、俺の気分を他所に、小麦モドキ畑の中を快調に走って行った。





“アディとリーファに話しを促されてはつい語ってしまい、エイベット卿の冷たい視線に心が折れる”という、まるで拷問のような悪循環を何度か繰り返した後に、箱馬車の旅がようやく終わる。


俺とエイベット卿は、はからずもまた同時に大きな安堵のため息をついた。

2人で心底嫌そうに睨みあい、またまた同時に視線を逸らす。


「ユウ。いつの間にエイベット卿とそんなに仲良くなったんだ。」


どこをどう見たらそんな誤解ができるんだ?

アディ、お前の頭の中には、年中花が咲いているのか?


「エイベットおじさまは、なかなか気難しい方なのに。ユウ様はやはり凄いです。」


リーファは親戚だというエイベット卿を、私的な場所では“おじさま”と呼んでいた。

美少女の“おじさま”呼び、萌える!クソッ。羨ましくなんか……ちょっぴりしか無いぞ。


そして、リーファ。君の頭の中にもお花畑があるんだね。

……イイ。美少女だし何でも許す。美少女にお花畑最高です!


「エイベットおじさまも、やっとユウ様の素晴らしさをわかってくださったのですね。」


エイベット卿は、もの凄く深いしわを眉間に刻んだ。


リーファのお花畑は、最凶……いや、最強かもしれない。おっさんの不機嫌顔を正面から受け止めてニコニコしている。俺ならビビって逃げ出すレベルだ。


(流石、巫女姫……すげぇ。)






「――――アディ、リーファ。あなた達はまだエイベットにそんな顔をさせているの?」


困った子達ねと、俺の後ろから声がかかったのは丁度その時だった。


エイベット卿とコヴィをはじめとした騎士達が一斉に礼をとる。

ティツァやフィフィといった獣人達もその場に跪き頭を下げた。


「おばばさま!」


「おばあさま。お久しぶりです。」


アディとリーファが、花が咲いたように笑う。


俺はあわてて振り返った。





そこに居たのは、吉○小百合もかくやと言うような品の良い白髪の老婦人だった。



(……なんだ。大バ○さまじゃないのか。)



当然、ゆばー○さまでもなかった。



王太后様に対する俺の第一印象の感想は、たいへん失礼なものだった。




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