4、少女と不良2
咲は困っていた。
火葬場を見つけるために自分は歩いていたつもりであった。
咲の求める火葬場の条件、
それは、火をつけても人に迷惑が掛からない広い場所。
確かにここはある程度の広さがあり、火をつけても人にはあまり迷惑にはならなさそうである。
しかし重要なモノがそこには欠けていた。
母が居なかった。
父が居なかった。
弟が居なかった。
親戚達が居なかった。
居るのは見知らぬ茶や赤や金など色とりどりの髪の男達だけである。
それに、先程からずっと全員が自分の事を見ている(睨んでいる)のは多分気のせいではないだろう。
(……ここじゃなかった。じゃあ…多分私…)
「…まよった」
ポツリと声に出して呟くと、その状況が酷く現実味を帯びてきて咲は突然心細さに襲われた。
しかし、感情表現が苦手な咲は、多少の事で気持ちが表に現れることはない。
咲の心情は常に感情を伴わなかった。
故に、咲は愛想がない、無表情な子供であると思われがちであった。
しかし、咲は無表情なその表情に似合わず、感情の幅の豊かな子供なのだ。
だから、無表情の下で咲は今とても不安と心細さに襲われていた。
その表情は何の感情の色も映していなかったが、咲は確かに家族から一人置いていかれ、見知らぬ場所で孤独を感じている。
そんな孤独と不安の中、どうしようかと思案し立ち尽くしている咲の周りが、徐々に突然現れた異分子たる咲の存在に多少ざわつき始めた。
「つーかさ、なんだあのガキ?」
「迷子か?」
「なんか手に持ってやがんぜー。」
しかし、咲にはそんな周りの声は一切聞こえていなかった。
ただ、不安で寂しくて、少しだけ泣きたい衝動を口をいつく結ぶ事でこらえていた。
母がいない。
父がいない。
弟がいない。
知っている人がいない。
自分は今、一人ぼっちだ。
どうすれば、家族に会えるのか。
どこに向かえばよいのか。
「(…どうしよう。もう道…わかんない)」
周りが自分の事でざわついている事など気にする事なく咲は自分の思考に浸り続けた。
これからどうすればよいのか。
全く先の読めない不安の中、必死に打開策を小学生の咲は思案し続ける。
わからない事だらけの中、咲は一つだけ自分のすべき最後の手段に思い及んだ。
わかっている事はただ一つ。
自分は迷子であり、家族がいる場所はわからない。
ただ、向かった場所のヒントはある。
「(…わからないなら聞けばいいのかな)」
幸い周りには沢山の大人(咲から見れば)が居るし大丈夫だろう、そう結論付け咲は周りをざっと見渡した。
カラフルな頭でひたすら自分を見て(睨んで)いる男達。
加えて手前には体中血だらけでグッタリしてる人までいる。
誰に聞くべきだろうか。
その時、咲の脳内ではある方程式が成り立っていた。
髪の色が違う
=外人
=言葉が通じない
=聞けない
小学生の咲の脳内は髪の色の違いは同じく意志疎通が無理であると結論付けた。
そうなれば尋ねる相手は一人に絞られてしまう。
一番奥に座って、やはり自分の事を見て(睨んで)いる黒い髪の男である。
咲はボーっとしていた目線をしっかり黒髪の男にあわせる。
すると、相手は少し驚いたように目を見開いた。
そして、咲はしっかりした足取りで男に近づいて行く。
周りのざわつきが一際大きくなる。
咲は男の目の前で足を止めた。
すると座っている男と丁度目線の高さが同じくらいになる。
そして咲は、口を開いた。
「ここら辺に人を燃やして灰にする場所はありませんか」
「………は?」
「お母さんにこれを届けないといけないから」
咲はそう言うと、脇に抱えていた祖母の遺影を男の前へと突き出した。
そこにはやはり笑顔の祖母が写っていた。