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未知との  作者: はいじ
第1章:未知との遭遇

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2、少女と遺影


響き渡るテンポのズレた木魚の音


時々噛んでる和尚さんの念仏


沢山の花が飾ってある祭壇


その真ん中に飾られる満面の笑みの老婆




の遺影。




昨日、午前10時36分


上木咲の祖母は亡くなった。



62歳だった。







「こないだまであんなに元気だったのにねぇ!」


「絶対あの人は100歳まで楽々生きてると思ったわー!」



葬儀を終え、咲の周りでは親戚達が口々にそんな事を言っている。


葬儀中はすすり泣いて居たと思われる人々も、今では久々に会った親戚との束の間の思い出話に花を咲かせて居た。


咲はその脇で先程母親に持たされた祖母の遺影に目を落とした。


満面の笑みをたたえる祖母。


それは亡くなる前日まで祖母が行っていたモンゴル旅行中に撮った写真であった。

写真に写る祖母は何やら奇妙な帽子と民族衣装のようなモノを身につけている。



なんとも祖母らしい遺影だと咲は思った。



祖母は62歳になってもハツラツとしており、じっとしているのが苦手な人であった。

その為、咲は一緒に住んでいても祖母と会う事は殆どなかった。


そんな祖母が一昨日久々に帰って来て咲にモンゴル旅行のお土産を渡して来た。




鮭をくわえた木彫りの小さな熊だった。



それを見た咲の母は、「それモンゴルのお土産じゃないわね……」と、どこか遠い目をしながら言っていたが、祖母は頑としてモンゴルのお土産だと言い張っていた。



熊のくわえている鮭には【必勝】と彫られていた。



ちなみに小3の弟に与えられたお土産は、同じく【必勝】と書かれたしゃもじであった。


蛇足だが、しゃもじの取っ手には宮島と書かれていた。



しかし咲は祖母がモンゴルのお土産と言うのだから木彫りの熊はモンゴルのお土産だと思うし、そう信じていた。

そう、咲は信じていたのだ。

本気で。


咲はどこまでも相手の言葉を疑いなく受け止める子供であった。

それが、明らかに嘘であるような事でも。

咲は、疑う事を知らぬ子なのだ。



まぁ、そこはあまり話に関係はないのだが。



そんな一昨日まで元気だった祖母が、昨日突然亡くなった。



事故だった。



階段を意気揚々と駆け上がっている時、足を滑らせ転倒し、そのまま還らぬ人となった。



死ぬ時まで慌ただしい人であった。



咲が祖母の遺影を見て軽く思い出に浸っている時、隣で咲に寄りかかって寝ていた弟がいつの間に目を覚ましていた。


先程まで寝ていた癖に目はぱっちりと開き早くもこのつまらない空間に足をブラブラさせている。

そして我慢の限界に達したのか弟は母の下に駆け寄り文句を言い始めた。



「お母さん、もう僕飽きた。帰りたい。帰ろう。」


「もう、そんな事言わない。次はね、おばあちゃんを燃やして灰にしに行かなきゃならないのよ」


「え?!」



弟が驚愕の声を上げるのを聞きながら咲も内心驚いていた。



「(もやす……?……二酸化炭素が出て……温暖化になる)」




咲は現在、学校で環境問題について調べていた。

今、地球の抱える切迫した状況に、咲は日々心を痛めていた。



咲が多少ズレた方向に思考を進めていると、自分の着ている黒い服の肩の部分が濡れている事に気付いた。

先程までの状況から考えるに多分それは弟のよだれだ。




「(きたない……)」



咲は無表情で濡れた服を見つめると立ち上がり遺影を持ったまま、トイレへ走った。




それが咲の運命を大きく変えてしまうとも知らずに。









--------------------

咲が弟のよだれをハンカチと水で拭き取ってホールに戻ると、そこには先程までの喧騒はなくシンと静まり返って居た。



「……お母さん?お父さん?」



小さな声は外から聞こえる、車の発車音と盛大に響き渡るトランペットを吹いたような音にかき消された。

慌てて外に出ると、大きく長い車が丁度発車する所であった。


中には笑顔の弟が見える。


しかも、こちらに気付いて大きく手を振っている。



そして車は走り去って行った。



「(牟田……)」



と内心弟の名前を呟き静かに咲も手を振った。

そう、ひっそりと会場の端で車を見送る咲の前方で、たくさんの親戚達も、どこかしんみりとした様子で霊柩車を見送る。

霊柩車が見えなくなってしばらく経つと、彼らも各々自分たちの車に乗り込み、そしてその場を後にしていった。


その間、葬儀場の片隅でひっそりと、静かに立ち尽くす咲に気づく者は誰もおらず。

最終的に、咲はたった一人、祖母の遺影を抱えたままその場に取り残されてしまった。



「…………」



そうして、更にしばらくして咲はやっと気づいた。




自分が家族に置いて行かれた事に。



「(………追いかけないと)」




咲は手に持っていた祖母の遺影を脇にかかえ走り出した。






こうして場面は最初に戻る。

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