第7話「交錯の基地」
@坂東帝国群馬県旧桜大池町―上空
4月1日坂東標準時刻1302時
谷田ノリヒサ 大尉
ズバッ!!
視界の隅で紅の光が瞬く。
ドカン!!
クラックゥのビームがヘリのエンジンを貫通し、エンジンで爆発が起こる。
降下し始める機体。
コックピットの液晶画面が赤いWARNINGの表示で埋め尽くされる。
――エンジン火災発生、燃料供給停止
――ローター損傷、高度低下
――オートローテーションを推奨
窓の外では第11分隊のメンバーが援護しようと近寄るのが見えた。
まずい、自分のために魔女を危険にさらすわけにはいかない。
「危険だ!!近寄るな!!」
〈りょ……了解〉
〈た……隊長?〉
「この後の指揮は北大尉がとれ!!」
〈了解……です。〉
「後は……頼む」
ヘリの姿勢をかろうじて安定させ、軟着陸できそうな場所を探す。
軟着陸できそうな場所は無さそうだ。
諦めると、ヘリの体勢を維持しながら降下する。
あちこちで舗装のアスファルトがはがれた道路が迫る。
なるべくアスファルトがはげてない、平坦な地面を探す。
ガシャン!!
ヘリの下部が潰れ、衝撃を吸収する。
護身用の|坂東42式サブマシンガン《SMG》を持って割れた窓から飛び出す。
その直後、
ボン!!
エンジンで爆発。
さらにヘリの航空燃料に引火し、ヘリが爆発する。
衝撃波が背中に襲いかかり、ぼろ切れのように吹き飛ばされる。
そのまま数メートルは地面を転がり、壁にぶつかって止まる。
脇腹に沸く激痛。
(……しまった!!)
脇腹にCDぐらいのおおきさの破片が深々と突き刺さっている。
内臓も傷ついているかもしれない。
(………これまでか)
意識が急激に薄れていく。
思いの外、傷は深いようだ。
もう自立するのも辛くなってきた。
――そういや、ここは桜大池だったな。
……ピピッピピッピピピ
ぼんやりとしてきた頭でふとそんなことを考えていたらどこからか無機質な電子音が聞こえてきた。
壁にもたれ掛かる。しかし、そのままの姿勢を維持するのが辛くなってずるずると座り込む。
糸が切れるように意識が切れ……
気が付くと、ベットに寝ていた。
ピピッピピッピピピピピピピピピピ………
枕元の時計が電子音を鳴らし続けている。
時計のボタンを押して電子音を止める。
恐る恐る脇腹に手を持っていく。
新しい傷はなく、半年近く前のアシカガ作戦のときの傷の痕があるだけだ。
「夢か……」
上体を起こしてから頭を振って悪夢を追い出す。
アシカガ作戦のとき、自分が乗っていた観測ヘリが撃墜された。
脇腹に破片を受け、死も覚悟した。
しかし同時に奇妙な満足感も感じていた。
復讐を終え、「あの日」の場所で死ぬ。
復讐のみを目的に生きてきた自分にとってその目的を達成し、始まりの場所で死ぬ。
これほど自分にちょうどいい死に場所はないと感じていた。
しかし、死ななかった。
傷は深くなく、瘴気は発現した魔力に打ち払われた。
そして、あの通信を受けた。
「生きろ」と。
誰が、どこから放ったのかもわからない。
ただ、「生きろ」と。
符丁もない、その通信。
もしかしたら、そんな通信はなかったのかもしれない。
あのとき、自分ののヘッドセットには通信機が接続されてなく、緊急用の発信機が内蔵されていただけだったのだから。
あの時、あてもなく半日間さ迷ったことで、忘れていた「生きたい」という心を思い出したのだ。
でも、なんのために、生きていくか、これからどうするかはまだわからない。
だから、この部隊への配属を希望したのだ。
坂東から離れ、クラックゥによって隔絶されたここへ。
ここなら、坂東では見えなかったものが見えてくるかもしれないと思って。
@北海道共和国U109歩兵団基地―図書室
8月25日北海道標準時刻1300時
美唄ナイエ 大尉
気がつくともう八月の終わりである。
ノリヒサが配属されてからもう2ヶ月だ。
その間にノリヒサはぐんぐんと腕をあげた。
空で注意が常に周囲に向いているのはかなり良い。
常に周囲に敵がいないか、味方の位置、コンディションに気を配っている。航空機動歩兵になってからたった4ヶ月の人間とは思えないくらいに優秀だ。おそらく、部隊指揮官としての経験がそうさせているのだろう。
ただ、地上では異様なくらいに間が抜けているのだが。
窓の外は雨だ。
雨はあまり好きではない。
びしょ濡れになって泣いたあの日を思い出すのだ。
煙をあげる故郷。
瓦礫と化した家。
ビームに消えた思い出。
廃墟。
ジリリリリリリッ!
その思考を中断させるかのごとく基地全体に敵襲警報の非常ベルが鳴り響く。
座っていた椅子を蹴倒し、脱兎のごとく作戦準備室に向かう。
作戦準備室に着いた時、すでに自分以外の基地内にいるメンバーは全員揃っていた。
「今回は大型爆撃型1機が南06区域を北西に進行中。狙いは札幌~新千歳あたりと思われます」
ライコが報告してくる。
「国分中尉と仙石中尉は基地にて待機。それ以外は迎撃任務にあたります」
「了解!」
ノリヒサが的確な指示。
作戦準備室に置いてあるゴアテックス製のオレンジのレインウェアに袖を通す。
さらに通信機が組み込まれたヘッドセットをつけ、喉頭式マイクを喉に密着させ、有機モニターをセットする。
そのまま廊下の反対側の整備室に飛び込む。
函館設計局HK21-3A戦闘鞄を装着、起動させる。
エンジンが暖まってきたところで、ヘッケルコッホHK21A機関銃を持つ。
近接戦用のカッターナイフは飛行鞄のベルトに挟む。
オレンジ色の点線が引かれた発進エリアに移動。
〈発進!!〉
ノリヒサが号令をとばす。
エンジンの出力を最大。
滑走路に出ると、横殴りの雨が襲いかかってくる。
風でレインウェアのフードがばさばさと煽られる。
〈離陸!!〉
先頭のノリヒサが体を起こし、離陸。
ノリヒサの|49式22型《49式艦上戦闘鞄22型》は破格の出力を誇るマ49魔導エンジンを2機装備しているが、反面、重量が50キロ以下の軽量機が多い第2世代型飛行鞄の中では空虚重量75キロと非常に重いため、離陸などではこうせざるを得ないのだ。
離陸。
ノリヒサに続いて激しい横風に煽られながら高度を上げていく。
〈敵は雲の下にいる!!雲の下をこのまま進む!!〉
「了解」
〈了解〉
編隊を組み、三点スリングをつけたHK21Aを構える。
ひんやりとした感触のはずだが、雨で手が冷えてあまりひんやりとはしない。
右の肩にストックを密着させ、右手で支える。
もう1丁も同様にして左手で構える。
そして、固有魔法の全方位三次元探査を発動。
仲間の位置が手に取るように分かる。
しかし、雨のせいか、遠くが解りづらい。
そして――見つけた。
明らかに人工の飛翔体とは違う独特の“雰囲気”を放っている。
「クラックゥを発見。方位1-7-0、距離1万、高度3000、大型爆撃型」
〈よし、高度を4000まで上げろ〉
「了解」
体を起こし、高度を上げていく。
編隊を密集させる。
雲の中に入る。
〈高度4000に到達しました。〉
〈よし、フォーメーションC、カウントと同時に山口が急降下攻撃。それに続いて久留米が突入、クラックゥの翼を切り裂く。他は上空からそれを支援〉
「了解」
〈了解!〉
そして、クラックゥの直上。
「……3.2.1、ファイヤ!」
ドフン
ハヤブサの坂東40式対装甲ライフルが火を噴く。
雲の向こうで発射炎が瞬いた。
そして背面に入って急降下。
それに追随するように緩降下で高度を下げ、雲の下に出る。
ちょうどクラックゥの前方の上空に出た。
クラックゥに30ミリを叩き込んだハヤブサはFFU15のアフターバーナーを点火、固有魔法の速度制御で加速しながらクラックゥの後方に離脱。
爆撃型の実弾兵器発射機がハヤブサに攻撃しようとするが、亜音速で動くハヤブサに一発もかすらない。
さらにフタコが急降下。
超電磁機関銃を構え、機体の中央、コアがあるあたりに集中して弾丸を浴びせかける。
その様子を頭の中で把握したままクラックゥとすれ違いにならないよう、足を前につきだして急減速。
そのまま背面に入り、方向転換。
下方にいるクラックゥに7.62ミリNATTO弾を叩き込む。
クラックゥの表面でつぎつぎと火花が上がる。
〈ふふふふふふふふふふふふふっふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ〉
フタコが不思議なメロディーを口ずさみながら超電磁機関銃を下ろし、鉈でクラックゥの主翼を切り裂く。
クラックゥがバランスを崩し、降下していく。
普通だったら途中でクラックゥがバランスをうまくとって、体勢を取り戻すだろうが、そうならずにクラックゥはきりもみしながら降下していく。
そして、機体が白く膨らみ、空気に光となって溶けていく。
〈クラックゥの撃墜を確認。ヒダカアローズ、全機周辺を哨戒しながら帰投する!〉
「了解」
〈了解!!〉
そのとき、視界の端で何かが動いた。
突然放たれるビーム。
シールドを張りそこねる。
体をひねる。
エンジンの推力が無理矢理ねじ曲げられ、体がスピン。世界が回転する。
急激な機動でビームを避ける。
今度は逆の向きに体をひねり、スピンを止める。
〈はうっ!!〉
〈少佐?〉
横を見ると、ノリヒサの口から血が垂れている。
「大丈夫?」
〈大丈夫だ問題ない。それよりショウコ、クラックゥを〉
〈……了解〉
ショウコがM134ミニガンを構え、上空から雲を割って現れた小型クラックゥに毎分3000発の速度で7.62ミリNATTO弾を叩き込む。
羽をもがれ、穴だらけにされるクラックゥ。
その隙に接近しようとしたもう1機のクラックゥにはシデンコが右手で持った金属バットで容赦なく制裁を加え、左手で持った坂東49式5.56ミリ軽機関銃で銃撃を加える。
ショウコとシデンコの昔からの定番戦法だ。
〈敵、撃墜を……確認。これより帰投する〉
ノリヒサが冷静に周囲にクラックゥがいないかを確かめながら帰投を始める。
しかし、その声にはいつもの覇気が欠けていた。
@北海道共和国U109歩兵団基地―医務室
8月26日北海道標準時刻0530時
谷田ノリヒサ 少佐
「……ここは?」
ふと目を覚ますとまだ夜が明けきってない海が広がる窓辺のベットに寝かされていた。
左右を見回すと心電図が表示されている機械と点滴。
(たしか……基地に帰還して……あぁ、“昏睡”か…)
“昏睡”とは、魔力因子保有者の体に大きなダメージがあったとき、半日から数日間深い眠りに落ちるものだ。
どうやら、クラックゥのビームを至近距離で受けたダメージは予想外に大きかったようだ。
シールドで直撃を避けられたのは不幸中の幸いだった。
直撃してたら人間としての形すら残っていなかっただろう。
コンコン!!
すると、ドアがノックされた。
「はい」
ドアを開けて入ってきたのはナイエである。
「大丈夫?」
「肯定だ。魔力がなかったらこの程度じゃ済まなかった」
「そうね。…まぁ、明日の朝まではベットにいることになると思うわ」
「了解した。……も、申し訳ないが、あ、後で執務室にあるMCPをとってきて欲しいのだが。ほほほ報告書を書くのと他の地域の情報を入手したいので」
ややどもりながらナイエに欲しいものを伝える。
「報告書は大丈夫よ。もう書いてあるから。…ほかに必要なものある?あるなら用意するけど」
「否定だ。MCPさえあれば問題ない」
「じゃあ、病人を満喫するといいわ。たまには休みも必要よ」
「あ、ありがとう」
「じゃ、あとでね」
ナイエはそのまま医務室を出ていく。
こころなしか、部屋のなかが寂しくなった気がした。
@北海道共和国U109歩兵団基地―医務室
8月31日北海道標準時刻0730時
谷田ノリヒサ 少佐
「うぐっ……ひっく……私がうっかりしていたから谷田少佐がこんなことに……」
フタコがしゃくりあげながら泣く。そのせいか他の隊員は黙ってしまっている。
「フタコ、フタコ、少佐の怪我はフタコのせいじゃないよ」
ハヤブサがフォローをいれる。
「そうですよ、久留米さん。あれは間違いなく谷田少佐のミスですよ」
レイコはさりげなくひどいことを言う。いやまあそうなんですけどね。
「まぁまぁ、みなさん。少佐は当分動けませんがクラックゥは休んでくれません。気を抜かず頑張ってゆきましょう」
質問責めになりそうな状態だったのをナイエがうまく制止する。
まあ……少し休ませてもらうか
と、思っていたら脇腹がまた痛んだ。
@北海道共和国U109歩兵団基地ー医務室
8月31日北海道標準時刻1500時
谷田ノリヒサ 少佐
昼前に痩せぎすの軍医が来て、ほぼ全快のお墨付きをもらったが、念のため今日は寝てたほうがいいと言われ、ベットに上半身を起こした状態で自分のMCPに表示された「坂東日報web」の記事に目を通すことにする。
記事によると、坂東では8月20日に新型のクラックゥ20機が千葉~川崎のコンビナート地帯を爆撃し、ガスタンクなどが爆発し100人以上の死者が出たのを皮切りに毎日、巨大爆撃型クラックゥの大編隊が襲来し、大被害が出ているという。新型は爆撃型の発展改良型と見られ、巨大爆撃型と命名されたらしい。
当初は沿岸部に限られた爆撃は圧倒的な数にいわせて内陸部の川口基地や松戸基地まで爆撃を加えているという。
格納庫をすべて地下にした川口基地はいざ知らす、格納庫が地上にある松戸基地では機体に大きな被害が出ているという。そのため、一部の機体を北部の羽生基地や百里空港に疎開させるらしい。
もっとも、川口基地も宿舎が崩壊するなどの被害が出て、滑走路も含めてすべての基地機能を地下に設置することが検討されているらしいが。
コンコン!
すると、部屋にノックの音が響いた。
「はい」
ガチャリ
(?)
反射的に首を傾げてしまう。
一瞬、見たことのない人物が入ってきた気がした。しかし、すぐにイチコだと気付く。
だが雰囲気がいつものイチコとは違う。
いつものイチコは例えるなら日なたに放置されて柔らかくなったアイスクリームのようだが、今はそんな柔らかい雰囲気の彼女ではなかった。――アイスクリームに例えるなら日向に放置していて一回溶けてしまったアイスクリームを冷凍庫でガチガチに凍らせたような雰囲気である。我ながら、わかりにくい例えだ。
ともかく、そんな冷たい張り詰めた雰囲気を纏ったイチコは部屋にはいってくるなりいきなり話を始めた。
「あなたは……どこの出身?」
「……へ?し、質問の意味がよくわからん」
あまりに唐突だったために戸惑ってしまう。自分が知る江戸川少尉はこんな質問はしない。
「質問の意味なんてどうでもいい。あなたは、どこの出身?」
イチコは普段の様子からは想像がつかないほど強い調子で同じ質問を繰り返した。
「しゅ、出身は…………さささ桜大池だが?」
「…そう。でも、あなたの本当の出身はそこではない。ちがう?」
「そ、そうだ……ぁ」
そんなはずはない。イチコがあのことを知っているはずはない。あのことを知っている人間はほとんどいない。
すぐに否定したくなるが、あまりに図星なのでとっさに肯定してしまった。これでは訂正できない。
「そう…」
そう言ったっきり、イチコは急に黙り込んでなにやら考え始める。
流石に混乱してくる。
あのことは比較的親しくしている枕崎や鷹崎にも教えていないはずだ。――それが、なぜ知られている?
イチコは混乱に陥っている自分などお構いなしに話の続きを始める。
「じゃあ本題に入るわ。……クラックゥはこの世界と重なって存在しているもうひとつの世界からやってきた一種の自律兵器のようなものなの」
思わずイチコの目をのぞきこむ。すると、いつものらんらんと輝いている目とは違って、その目はどんよりと暗く、何も映していない。
(……落ち着け、落ち着くんだ。フィボナッチ数列を数えて落ち着くんだ。1、1、2、3、5、8、13、21……よし)
頭の中でフィボナッチ数列を数えているとある程度混乱が収まった。
(まず彼女が言っていること、これはそうとうに突拍子もないことだ。しかし…ヒエンコの話では彼女は全く嘘をつかない、正直な人間だそうだ。ヒエンコが嘘をついている可能性は……ないな。つく理由もない。彼女が大真面目にオカルト話をしにわざわざ病室までやってくるのも考えづらい。それに、こういうオカルト話は前線でクラックゥと直接戦っている人間ほど信じない。確かに、直接戦っていると敵がドイツ第3帝国の置き土産だろうが異星人だろうがアメリカの秘密兵器だろうがダーパの試作品だろうが何でもよくなる。そこに、敵がいる、それが大事になってくるし。……だとすると、彼女の話を否定できる要素はあまりない)
落ち着いて条件を整理すると、話自体は突拍子もないが、否定できる要素はあまりない。
(いや、そんなことはありえん、信じられん。だが……頭ごなしに否定できない。だとしたら……聞いてみる価値はあるかもしれない。聞いて損があるわけでもないし……)
「で?何が言いたいんだ?」
思考がようやくまとまってきたのでイチコに話の続きを促す。
「ここからは本題なのですが、その前に……さっきの話をあなたは信じますか?」
「……できれば、客観的なデータが欲しいのだが」
「無理です。私も持ってません。だいいち、私も当事者です。誰も、傍観者ではありません。……この世界の人間は、誰も…………そう、この世界の人間は誰も……」
やはりというか、イチコも客観的なデータは持ってないようだ。
……だとすれば、イチコは何者なんだろうか?
「……分かった。仕方ない。話としては筋が通っているし、矛盾はない。一応信じさせてもらう」
しかし、イチコの正体を今ここで考えてもどうしようもない。これは後で考えよう。
「分かりました。では最後に助言をいくつか。この歩兵団にはあなたのような能力を持っている人が集まっている。そして最終決戦の時、この隊の人が大きな役割を担うはずです。その時までこの事を覚えておいください。いざとなったら隊長権限で開けられるのファイルの『魔導因子保有者覚醒計画.doc』を見てください。また、このことは他言無用で。じゃあ、さよなら」
それだけいうと彼女はすたすたと部屋をでていった。
話としては筋が通っていた。
しかし、最後の言葉はよくわからない。
このような能力とは何か、最終決戦とは何か、その他諸々。
思考内ではそれらが絡み合い、混ざり、混乱をもたらしていた。
(……このことをひとつひとつ解体して再構成するには時間がかかりそうだ)
ふと窓の外を見ると、霧がたちのぼっていた。
@北海道共和国U109歩兵団基地―医務室前
8月31日北海道標準時刻1531時
美唄ナイエ 大尉
コンコン!
ドアをノックする。
しかし、反応がない。
コンコンコン!!
少し強くして再びドアをノックする。
しかし反応がない。
「入りますよー!」
ドアを開け、入るとノリヒサはベットに上体を起こし、何かを考えていた。
「どうしたの?」
「あ、ああ、あのその、ちょ、ちょっと、か、考え事をな……」
声をかけると、ノリヒサは初めてこちらに気がついたようにおどおどとこちらを向いた。
「これ、差し入れ」
自販機で買ってきた「ファンダ オレンジ」の缶を差し出す。
「あ、ああ。あ、ありがとう」
ノリヒサはぎこちなく腕を伸ばし、その缶を受け取る。
「どうしたの?」
「あ、いや、な、なんでもない。なんでもない」
反応が妙なので聞くと、ノリヒサは、缶を持ったままあわてて腕を振った。
「?」
「じゃ、じゃあ、ののの飲ませてもらうよ」
いそいそとノリヒサが缶のプルタブを引く。
プシュ
「うわわわわ!」
同時に発泡し、飲み口からあふれてきたオレンジ色の炭酸飲料にあわてるノリヒサ。
そりゃそうだ、炭酸飲料の缶を振ったんだから。