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第5話「休日の基地」



@北海道共和国U109歩兵団基地―グラウンド

8月7日北海道標準時刻1000時


国分ライコ 中尉


「はふぅ~」

 ハヤブサが地面に敷いたマットの上に大の字になる。

「な、こうやってただ寝ているだけだって悪くないやろ?」

 ドヤ顔をしたヒエンコもその横に大の字になる。

「ほらほら、イチコもイチコも。」

「……じゃあ」

 イチコがヒエンコが開けた場所に座り込む。

「おっし、日当たり良好地点貰ったところで私のSAN値は下がりはしない。なんだあの太陽は!!目が!!目が!!」

 日当たりの良さそうなところを見つけて寝転ぶと、直射日光で激しく目に悪かった。

 現在地は基地のグラウンド(と、いっても土がむき出しな上に雑草も生えているが)のほぼ北端、玄関の前の植え込みとの境界ぎりぎりの場所だ。涼しい海風が気持ちよい。

「平和だ………」

 直射日光は腕を額に乗せることでなんとか解決し、太陽が放出する赤外線の恩恵を全身に浴びながらつぶやく。

 下手をすればリアル「72時間戦えますか?」になりかねない陸上機動歩兵に比べて、敵を落としたら基地に帰還して休める航空機動歩兵は楽なのだ。

 ……まぁ、御前崎遭遇戦みたいに部隊全滅なんてことになることもあるし、陸上機動歩兵より死亡率とか負傷率が高いのも事実ではあるが。

「しっかし少佐があんなに凄い指揮官だったとはね~」

 ハヤブサがごろごろと左右に転がりながら呟く。

「せやせや。あれなら安心して命を預けられるってもんや」

 ヒエンコも頷く。

「同感」

 確かにその通りだ。

 クラックゥにビームをあえて撃たせ、それの余波で雲を消滅させて位置を確認する。

 なかなかに反則的な作戦ですよ。これ。普通なら飛空母艦型を撃墜させただけで「良い戦法を取った」と評価されるものを爆撃型も撃墜したのだから「めっさ良い戦法を取った」って評価されるレベルである。まあ軍の勤務評価に「めっさ」なんて言葉があったらびっくりするが。まあもはや笑うしかないレベルの反則技だが。

 いや笑うけど、笑うけどね、これを思いつくなんて相当優秀じゃなきゃできないですよ。これ。

 今まで主に陸上機動歩兵を緊急展開させる、つまり「守り」のために使用されていた空挺射出機とロケットブースター、低高度開傘グライダーのセットを浸透戦術、つまり「攻め」の要としてクラックゥの前線の後方に展開させてそこから前線を突破、その後は電撃戦の要領で巧妙にクラックゥを分断し、たった1日半で群馬、茨城県を奪還したアシカガ作戦の立案者にして指揮官である谷田少佐…いや、ノリヒサの面目躍如といった感じだ。

 まあともかくそんな作戦を思い付けるなんて少なくとも無能ではないだろうということで親しみをこめて下の名前で呼びあうことになったわけだ。だって「国分中尉」って言われると背中がむず痒いし。

「赤外線……あったかい」

 ハヤブサが正しいような間違ってるような微妙な発言をする。まああったかいのは赤外線のおかげなのは事実なんですがね。

 ダンダンダン!!

 そんな平和な時間を切り裂くように銃声が響く。

「ん……あぁ、少佐が新しい銃を試してるのか…」

 ヒエンコががさごそと転がりながら呟く。確かに滑走路の端に人が立って銃をかまえている。

「坂東49式25ミリ機関砲だっけ?」

「正確には坂東49式2号3型25ミリ機関砲ね」

 いつのまにか乱入していたレイコが起き上がる。

「そうだ!!たまにはL86改の調整でもするか!」

 そしてレイコはぴょこんと起き上がり、元気に駆けていく。

「青春だなぁ……」

 その後ろ姿を眺めているヒエンコが呟いた。

 なにが青春なんだかまったくわからないが。







谷田ノリヒサ 少佐


 ダンダンダンッ!!

 激しい反動が肩に伝わり、銃口がぶれる。

 水柱が次々と上がる。

 狙いをだんだんと遠くに向けていく。

 それに合わせて水柱もだんだんと遠くに移動していく。

 10秒で装着している100発ドラムマガジンの弾が切れる。

 セーフティーをかけ、スリングを肩から外して両手で銃を持ち、二脚を立てた状態で足元の地面に置く。

「やっぱり反動は大きいな…」

 立ち上がり、足元に置いた坂東49式2号3型25ミリ機関砲を眺めながら呟く。

 坂東49式2号3型25ミリ機関砲は全長1850ミリ、銃身長1500ミリ、重量約26キログラム、口径25ミリ×110、発射速度600発/分~900発/分で、航空機動歩兵が装備する武装では最も重武装に分類されるタイプである。

「あ、実弾訓練をしたいんですが」

「ん?」

 すると、唐突に後ろから声をかけられ、振り向くとレイコがいた。

「じゃあ書類を………OK。」

 レイコが出した書類にサインをして場所を譲る。

 レイコはL86改のセーフティーを解除し、立射の姿勢で構え、引き金を引く。

 レイコのL86改は「99発に1発ジャムる(装弾不良を起こす)」、「マガジンが勝手に抜ける」、「排出不良と装弾不良が同時に起きる」、「ストックが割れる」、「重い、高い、使いにくい」など信頼性の低かったりいろいろと欠点の多いことで有名なイギリスのアサルトライフル、L85をベースに作られた重突撃銃、L86A1 LSWがイギリス陸軍から流出したものを武器商経由で購入、銃身や機関部を坂東49式5.56ミリ軽機関銃のものに交換して信頼性と整備性を向上させたものである。

 これは彼女のデータの使用武器の欄に書いてあったことだが。

「なにじろじろ見てるんですか」

「あ、いや、特に」

「そうですか」

 そういって背を向け、50発ドラムマガジンを腰につけたマガジンポーチから取りだし、手慣れたしぐさで交換するレイコ。

 どうも会話が続かない。

 昨日の夕食の時に隊員たちに「下の名前で呼んでほしい」と言われたのだが、なかなか会話がうまくいかない。これは配属されてからあまり変わらないことではあるが。

 特に彼女、仙石レイコ中尉とは会話が続かないのだ。何か避けられているというか敵意を向けられている感じがする。

 喋りはもともと得意な方ではない、むしろ苦手なのでこうなることはよくあるのだが、まあ、程度問題でここまで敵意というか嫌がられるのはまあ今までもなかったわけではないのだが、昔はそういうのは無視していたし、敵意を向けられることに何も感じていなかったから対処法もよくわからないのだ。

 別にそれでも問題はないのだが、しかしどこか座りの悪さを感じてしまう。

 どこかで決着を付ける必要があるのかもしれないが。


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