第4話「違和感の基地」
@北海道共和国U109歩兵団基地―沖合
8月6日北海道標準時刻1055時
国分ライコ 中尉
〈目標確認、爆撃型2、飛空母艦型1。高度1500、7時の方向、距離32000、雲の中を密集陣形で飛行中〉
固有魔法の全方位三次元探査を発動させたナイエが敵の数、状態を報告する。
〈厄介な状態だな……〉
ヒエンコがぽつりと呟く。
確かに、厄介な状態だ。
現在の天候は曇り、クラックゥのいる高度1500メートルの雲量は80から90。だいたい8割から9割が雲におおわれていることになる。
基本的に目視で行われる航空機動歩兵の戦闘には最悪の状況である。
こういうとき、選択肢は3つ。何もせずに戦闘機部隊、地対空ミサイル部隊に引き継ぐ、手傷を負わせてから引き継ぐ、沿岸部まで接近させて地対空ミサイル部隊と協力する。
雲の切れ目に出てくるのを待つという手もあるが、この雲量だとそれはあまり期待できない。
さて、ノリヒサはどれを選択するか。ある意味、指揮官の力量と判断力が試される状況だ。
〈よし、まず日本橋大尉と国分中尉、山口一曹、久留米少尉が先行、山口一曹の|ミニキャノン《坂東40式対装甲ライフル》を使用して可能な限り遠距離から飛空母艦型を撃墜せよ〉
「了解」
スロットルをずらして推力を上げ、加速して編隊から離脱、ヒエンコの2番機位置につく。どうやらノリヒサは手傷を与えてから引き継ぐことにしたようだ。確かに、飛空母艦型の機動性は低いが、戦闘機型を内部から放出できるから通常兵器には厄介な相手だ。おそらく地対空ミサイル部隊などがスムーズに爆撃型を撃墜できるようにするつもりなのだろう。
やがて有機モニターにターゲットボックスが3つ表示される。頭を切り替え、とりあえず目の前のクラックゥを落とすことに集中する。
〈ハヤブサ、40式をちょっと貸してくれ〉
〈了解~〉
〈じゃぁ一旦ホバリング。……こちら飛燕、攻撃を開始する〉
ヒエンコが体を引き起こしてホバリング。それに追随して自分も引き起こしてホバリング。
ヒエンコはハヤブサから坂東40式対装甲ライフルを受け取り、代わりに扶桑45式対装甲ライフルをハヤブサに渡す。
ヒエンコが坂東40式対装甲ライフルを構える。
ドン!!
ドン!!
ドン!!
7.62ミリとは比べ物にならない重い発砲音。
3発の30ミリ弾は真っ直ぐに飛空母艦型クラックゥのコアを貫いたらしく、有機モニター上のターゲットボックスが消滅する。
〈目標の撃墜を確認〉
ナイエが固有魔法の全方位三次元探査で飛空母艦型クラックゥの撃墜を確認する。
自位置が露呈するのを恐れてか爆撃型クラックゥからの反撃はない。
〈これより、爆撃型の撃墜に移る〉
追い付いてきたノリヒサが宣言する。
〈えぇ!!相手は雲のなかですよ!!〉
レイコが目を丸くする。
確かにそうだ。飛空母艦型は機動性がかなり低いから目視外で坂東40式対装甲ライフルの狙撃でも撃墜できたが、爆撃型は時には人類の戦闘機並みの機動性を発揮するからそうもいかない。
しかも相手が雲のなかではどのくらいの損害を与えたか分からないし、コアがある機体中央部がどこにあるもわからない。
〈これより追撃を開始。同時に編隊を組み直す。前衛が日本橋大尉と美唄大尉、沼田大尉、国分中尉、それ以外は後衛に回る〉
谷田少佐が水平飛行に移行、それに追随して全員が水平飛行に移行、さらに編隊を組み直し、逆V字型の編隊を組み、ショウコの斜め後ろ、2番機位置に入る。
しばらくすると爆撃型が再び視程距離に入ってきたらしく、いったんは消えていたターゲットボックスが再表示される。
〈前衛は先行し、爆撃型上空に移動せよ〉
エンジンの出力を上げ、加速。すぐに爆撃型の直上に出る。
〈江戸川少尉、目標の前方の空域にロケット全弾発射〉
〈りょ、了解〉
クラックゥの感覚器官にダメージを与えるEMP弾頭3発、クラックゥに対して効果的とされる対クラックゥVT弾頭6発、計9発の航空用高速66ミリロケット弾が音速以上の速さでクラックゥに向かって発射される。
しかし、着弾前に2機の爆撃型それぞれの胴体左右のビーム発射装置から発射された4条のビームが9発全てを貫き、空中で爆発させる。
そして、ビームの余波でクラックゥ周囲の雲が消滅し、前進可変翼を装備した2機の爆撃型の姿が露になる。
すぐに爆撃型は雲のなかに消えるが、それまでの僅かな時間で充分。コアのある機体中央部がどこにあるかは目に焼き付いた。
〈前衛は攻撃開始!!後衛は援護に回る!!〉
同時に谷田少佐の指示。
それと同時に斜め前のショウコが緩降下を開始。自分もそれに追随して緩降下。
〈ヒエンコと自分が右のを叩くからそっちは左を!!〉
〈……了解〉
「了解」
ナイエからの指示にわずかに進路を変え、右側の爆撃型に狙いを定める。
バララララララッ!!
ブァーン!!ブァーン!!ブァーン!!
M134の射撃音とMG42改の射撃音が重なる。
ドフンッ!!
胴体上部の12.7ミリ級4連装回転式実弾兵器発射器が弾丸に誘爆して爆発したのか、胴体上部の辺りが赤く輝く。
〈爆弾倉を狙え!!〉
〈……いっしょに回り込む、下に〉
「分かった!!」
谷田少佐からの指示に従い、斜め前に表示されていた友軍を示す円が降下、自分もそれに追随して爆撃型の下方に回り込む。
爆撃型の下に回り込むと背面に。目の前の灰色の影に向かって射撃。曳光弾の描く軌跡が灰色の影に吸い込まれていく。
同時に爆撃型が胴体下部に装備している3機の12.7ミリ級4連装回転式実弾兵器発射器をショウコがM134の弾幕で1機づつ破壊していく。
唐突に引き金の感覚がなくなり、射撃が止む。
弾切れ。
いったん爆撃型から離れ、MG42改の弾倉を交換する。
本体上部の弾倉を挟んでいる蓋を開け、空になった弾倉を取り出し、代わりに腰のポーチから150発マガジンを取り出してセット。スタータータブを機関部に引き込んで蓋を閉める。
再び爆撃型に接近。
射撃。
M134で全ての実弾兵器発射器を潰したショウコも爆弾倉への攻撃を開始。
爆弾に誘爆したのか、爆発が起こる。
シールドを張ることで飛んでくる破片から身を守りながら離脱。
〈2機の撃墜を確認。コンプリートミッション、RTB〉
谷田少佐が爆撃型を撃墜したことを確認、帰投を宣言する。
〈あっけないな……〉
ヒエンコがぽつりと呟いた。