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第2話「迎撃の基地」



@北海道共和国U109歩兵団基地―滑走路

7月12日北海道標準時刻0600時


谷田ノリヒサ 少佐


「イーチ」

「ニー」

「サーン」

「シー」

 静かな海面を腹筋をした回数をカウントする声が渡っていく。

 (もう一週間か……早かったな……)

 腹筋を続けながらふと考える。

 遣北艦隊で北海道に来たのが7月3日。

 とりあえず隊のメンバーとある程度のコミュニケーションがとれるようになった。

 そして一応だがそれぞれの性格もつかめた。

 美唄ナイエ大尉(特等大尉は隊長代理となっていた間の臨時措置だったらしい)は北海道の出身で、泰然自若としててめったなことでは動じない。

 沼田ショウコ大尉は地上では常に眠そうにしていて、あまりしゃべらない。

 日本橋ヒエンコ大尉は料理が得意で注意深い。あと将棋が趣味らしい。

 遠軽シデンコ中尉はボーイッシュで、野球が好き。

 仙石レイコ中尉は楽天的で、趣味は火薬を使う道具なんかの開発らしい。

 国分ライコ中尉は楽天的で、重度のゲーマーらしい。あと、静電気をよく起こすという。

 久留米フタコ少尉は落ち着いた感じで、いつも一歩退いた場所から物事を見ている。

 また、工作が趣味らしく、溶接機やら工具類が部屋に置いてある。

 江戸川イチコ少尉は………まぁ、よくわからないとしか言いようがない。

 山口ハヤブサ一等軍曹は、祭り好きで、テンションが割と高く、暴走しやすい。

 また、急降下攻撃や垂直降下を得意とする。

 と、いった感じだ。

 もっとも、それぞれの性格については他の隊員、主に美唄大尉からの又聞きがメインではあるが。

 それに喋りはあまり得意ではないのでまだ話したことのない隊員もいる。

「よっと」

 腹筋を終え、一旦休憩をする。

「どう?慣れた?」

「肯定だ。もう少し回数を増やしても大丈夫だろう」

「いや、トレーニングじゃなくて隊の雰囲気とかについて」

「不明。馴染めてきた………と思う」

 隣で腹筋をしていた美唄大尉の質問に答える。

「ランニング、いくわよ」

 美唄大尉の言葉で我に返る。

 スニーカーの靴ひもを確かめてからうなずきかえす。

「じゃあ……スタート!!」

 美唄大尉の掛け声で同時に走り始める。

 滑走路の端で折り返し、反対側に着くと再び折り返す。

 長さ100メートルほどの滑走路を4往復ほどすると息が切れてくる。

 すでに美唄大尉は6往復ほどしている。

 坂東にいたころは部隊の指揮官で、基本的に前線で戦闘をするのでなくその後方から部隊の指揮を採っていたから体力は多い方ではない。

 これから航空機動歩兵として戦っていくには体力も必要だ。

 そのために少しペースを上げる。


@北海道共和国U109歩兵団基地―女湯

7月12日北海道標準時刻0815時


美唄ナイエ 大尉


「ふぅ」

 広々とした女湯の湯船に体を沈めながら大きく息を吐き、伸びをする。

 なんだかんだでやっぱり風呂は朝風呂に限る。

「よぉ。浮かない顔してるねー」

「疲れただけよ」

 風呂に入ってきたシデンコに軽く答えながら頭からずり落ちかけているタオルを頭にのせ直す。

「で、新隊長どのの訓練はどうなのさ?」

「まぁ、ハイGヨーヨーとローGヨーヨーとインメンタルターンぐらいまではできるようになっているわね」

「お、なかなか早いな」

「バレル・ロールとかは事前に学習していたみたいだけれどね」

「あの隊長、いったい何者なんだ?」

「わからないわ。でも、それなりの素質はありそうね」

「ふーん。よかった。また司令部とかの左遷人事かと思った」

「そうね……」

 シデンコの言葉に、湯船に浸かりながら答える。

 日本連合軍の航空機動歩兵隊は各国軍からの出向によって成り立っているのだが、各国は本音としてやはり、なるべく優秀な隊員は自国の指揮下に置いておきたいらしく、基本的には問題児なんかを送り込んでくることが多いのである。この部隊のような田舎にあり、注目度の低い部隊なら尚更だ。

「まぁ、頑張っていこうや」

 基本的に長風呂はしない主義のシデンコが立ち上がる。

「ま、そうね」

 そのシデンコの背中に声を投げ掛けてから伸ばしていた背中を反らす。

 (……ふぅ)

 ふと脳裏に浮かんだ疑問に首を傾げる。

 1週間余り前、彼の歓迎会をしたとき、誰かが出身地を聞いたときの彼の顔に一瞬、影が差したのである。

 (まさか……ね…)

 その疑問を頭から追い出す。

 おそらくなにかの錯覚だろう。


@北海道共和国U109歩兵団基地―谷田自室

7月12日北海道標準時刻1320時


谷田ノリヒサ 少佐


「RPGって……こんな小さな対戦車ロケットはないよな…技術部の作ったゲテモノかな?」

 坂東の西葛西基地にいる馬子 イタリから荷物が届いた。

 ちなみに、馬子 イタリは陸上戦闘部(陸軍)の第47戦車師団D中隊隊長の戦車兵で、士官学校の頃から比較的親しくしてる。また、自車に非常に痛い塗装をしていることから「痛い彗星のイタリ」や「帝国軍の痛い悪魔」として知られている。ちなみに、能力はかなり高く、戦車兵として坂東帝国ではダントツの撃破数をほこっている。

 荷物をあけてみると中には「エロゲー(かつ)ノヴェルゲー」と書かれた小包と「RPG」と書かれた小包が入っていた。

 手紙には「R18ってあるけど気にしない気にしない。コレクションの一部です。」と書いてある。

「∩ってことは共通部分だな?………R18ってソ連の空対空ミサイルだし」

 首が90度くらい傾く。

 ただ何となくここのメンバーに相談してはいけないもののような気がする。パッケージのイラスト的に。

 と、そのとき。

 ジリリリリリリリリリリーンッ!

《敵襲、敵襲。対地攻撃型15機から成る編隊を東05地区に確認。進路、当基地を起点に1-8-0から2-2-5》

 ガタッ!

 座っていたイスをはねとばして格納庫に向かう。

 とりあえずイタリから送られてきた荷物のことは後回しだ。


@北海道共和国U109歩兵団基地ー格納庫

7月12日北海道標準時刻1321時


谷田ノリヒサ 少佐


「敵は15機。対地攻撃型。発進!」

 合図をすると次々とエンジンが起動していく。

 整備ユニットのコンソール画面を操作し、エンジンを起動させる。

 整備ユニットに内蔵されているスターターのモーターがくぐもった音をたてる。

 エンジンが起動するとモーター音はゆるやかに下がり、その代わりに49式艦上戦闘鞄22型に搭載された海星重工 マ49魔導ターボファンエンジンの轟音が格納庫の空気を震わせる。

 他のメンバーの飛行鞄に搭載されている札幌飛行機MF21「コサイン」魔導エンジン、函館設計局MF22「タンジェント」魔導エンジン、函館設計局MF19「サイン」魔導エンジン、鉈飛行機MF25魔導エンジン、鉈飛行機MF27魔導エンジン、鉈飛行機MF28魔導エンジン、海星重工 マ49-2魔導エンジンも始動し、轟音で頬がびりびりと震える。

「こちらアローズ隊、離陸する」

〈了解〉

 コンソール画面を操作してロックを解除。整備ユニットから飛行鞄を解放。

 発進エリアで二列縦隊を組み、滑走路に出る。

 そのまま滑走開始。

 ミリタリー推力の約8割の出力を維持したまま滑走開始。

 アフターバーナー時推力600kg、ミリタリー時最大推力300kgのエンジン2発の約8割の推力、480kgで体が加速される。

 そして10メートルほどの滑走で離陸。

 49式艦上戦闘鞄22型は高出力だが、機体が比較的重いため、滑走距離は他のメンバーと同じくらいだ。

 体を固定するベルトに取り付けられたスイッチを操作して飛行鞄の車輪をしまう。

 隊列を変更し、逆V字型の戦闘隊形をとる。

 同時に旋回し、針路を南に変える。

 高度10000メートルまで上昇。

 高度が上がり、ちぎれ雲が下に見える。

 下は海の青さのなかに白いちぎれ雲が浮かび、上は真っ青な空。

 きれいな景色に心が洗われそうになるが、気を引き締めてクラックゥを探す。

 ほどなくしてクラックゥを発見。

 クラックゥは斜め下のちぎれ雲の下を海面をなめるように飛んでいる。

 数はレーダー画像の分析より多い20。

 前進可変翼、単葉無尾翼の爆撃型が5機と前進翼三葉機の対地攻撃型が13機、後退翼複葉無尾翼機の戦闘機型が2機。

「クラックゥを確認。1時30分の方向。各員、交戦を許可する」

〈了解!!〉

 全員が隊列を解き、2機編隊に分かれる。

 自分のペアは美唄大尉だ。

体を起こし、エンジンの出力を上げ、上昇。

 クラックゥの上空に移動する。

 体を完全に起こし、ホバリング。

 山口一等軍曹と久留米少尉がクラックゥの後方から急降下。

 山口一等軍曹の坂東40式対装甲ライフルから放たれた30×113ミリ対クラックゥ特殊炸裂弾がクラックゥの編隊の中央を飛ぶ爆撃型の内部で炸裂し、爆撃型の装甲が吹き飛ばされる。

 そこに久留米少尉の坂東52式超電磁機関銃(レールマシンガン)の7.62ミリ電磁弾が凄まじい速度で次々と叩き込まれていく。

 二人がクラックゥの後ろを通りすぎる直前に30ミリ弾がさらに一発。

 慌てて散開した対地攻撃型クラックゥには日本橋大尉の扶桑54式対装甲ライフルから発射された12.7×99ミリ弾が叩き込まれる。

 ばらばらに散開したクラックゥの後ろに残ったメンバーが食らいつく。

 たちまち敵味方入り乱れての乱戦になる。

 やがてところどころで白い光る煙がたちのぼり始める。

 クラックゥが撃破されたときの煙だ。

 戦況を確認しつつ、周囲の見張りを続ける。

 下方から2機の戦闘機型が上昇してくる。

 ヒュン!!

 風切り音がし、至近距離を灰色の影が通り過ぎる。

 ババババッ!!

 美唄大尉の使用武器であるヘッケルホルンHK21Aが降下するクラックゥに対して火を吹く。

 慌てて扶桑50式汎用機関銃の引き金を引くが、弾が出ない。

「ん?あれ?どうした?」

〈安全装置がかかっている〉

 美唄大尉の言葉に慌てて左側面の安全装置を確認する。

 たしかにロックの位置になっている。

 安全装置を解除。クラックゥを探す。

 一旦、通りすぎたクラックゥは太陽を背に急降下してきている。

 急降下してきたクラックゥをかわし、そのままリード追跡を始める。

〈私が前に出て引き付ける〉

「了解」

 美唄大尉が加速し、目の前のクラックゥの翼と翼の間をすり抜けつつクラックゥに7.62ミリNATTO弾を浴びせかける。

 美唄大尉が加速すると同時に体を左に一瞬倒し、そのあと右に倒して右回りに減速しつつ旋回してクラックゥの後ろにつく。

 クラックゥの目の前に飛び出た美唄大尉に2機の戦闘機型が上下の主翼に1対づつ、1機につき4門装備している25ミリ級実弾兵器発射器から放たれた実弾兵器(弾丸)が集中している。

 今度こそ安全装置を解除してあることを確認し、先行しているナイエに当たらないように右端のクラックゥに狙いをつける。

 慎重に蜘蛛の巣状の大型照準器の中央にクラックゥを捉えてから引き金を引く。

 通信機を内蔵し、防音も兼ねたヘッドセットによって射撃音は聞こえなかったが、反動が肩に伝わる。

 7.62ミリ弾が戦闘機型の翼の付け根に当たり、白く光る煙が吹き出る。

 戦闘機型が右にロールし、離脱しようとするのを押さえるように狙いを調整していく。

 曳光弾が描く射線を見ながら狙いを修正。

 急に戦闘機型が機首を起こし、減速。

 追随するために体を起こす。

 運良く晒される戦闘機型の上部。

 弾が命中し、戦闘機型の上部から白く光る煙が吹き出す。

 上面すれすれの位置から攻撃しながら戦闘機型に合わせて減速しながらさらに攻撃。

 装甲が剥がれる。

 コア露出。

 戦闘機型の機体が一瞬白く膨らむ。

 その瞬間、飛行鞄の出力を上げ、戦闘機型を追い越す。

 戦闘機型を追い越してから後ろを確認すると戦闘機型が白く光りながら空気に溶けていくのが見えた。

 先行していたもう1機の戦闘機型ゥに追い付き、射撃。

 さらに戦闘機型を引き付けていた美唄大尉が急激に体を起こして急減速。

 減速についていけずにオーバーシュートする戦闘機型。

 いつの間にか両手にカッターナイフを持った美唄大尉が追い抜かれざまに戦闘機型の翼を切り裂く。

 戦闘機型が切り裂かれた翼を再生しはじめる。

 そこに美唄大尉が襲いかかり、その下の翼を切り裂き、さらに本体の装甲を切り裂く。

 えぐられた装甲の奥にコアが露出。

 美唄大尉はUSPを抜くと、セーフティを解除。射撃。

 薬莢が宙を舞い、.45ACP弾がコアに撃ち込まれ、コアが崩壊。

 戦闘機型が白く光りながら空気に溶けていく。

「こちら赤の1。飛燕、現状を報告せよ」

〈こちら飛燕。クラックゥ20機を全機撃墜。損害はなし〉

「よし、合流して帰投する」

〈了解〉

 ぐるぐるとその場で旋回していると他のメンバーが1人も欠けずに上昇してくる。

 とりあえず全員問題ないようだ。



@北海道共和国U109歩兵団基地本部棟―司令執務室

7月12日北海道標準時刻2030時



美唄ナイエ 大尉



「うーん」

 報告書の作成を終えた谷田少佐がおおきく伸びをする。

「にしてもちょっと時間かかりすぎじゃない?」

 思わず厳しい声を出してしまう。

 なにしろ報告書作成だけで5時間近くかかっているのである。

 普通なら3時間ぐらいで終わるものである。

「う~ん………きっちりやっているんだけどなぁ……」

 ぽりぽりともみあげを掻きながら谷田少佐は困った顔をしている。

 確かに谷田少佐はこの5時間、驚くほどの集中力を発揮してひたすら支給品の|MCP《Micro Computer Pad》で報告書を作成していて、作業を休んだりといったりはほとんどなかった。が、妙に作業が進まないのだ。

「まぁ、いいか」

 素質の問題としかいいようがないのでそれについては諦める。

「ん?」

 MCPをいじっていた谷田少佐がふと顔を上げる。

「この『魔導因子保有者覚醒計画.doc』って何だ?」

 そういってA4サイズのMCPの画面の一ヶ所を指し示す谷田少佐。

 開くとどうやら固有魔法を操る訓練のしかたなどが書かれているようだ。

「にしても変ね……」

 その中身も初めは「電撃(電気制御)」や「瞬発力」という割合ポピュラーなものなのだが、だんだん「近未来予測」や「エネルギー感知」、「錬金術」、「治癒魔法」、「指向性シールド」といったいわゆる存在しない系統や失われた系統のものが並びだし、最後には「固有魔法の合わせ技の方法」なるものだ。

「まぁ、誰かがいたずらで作ったんじゃない?」

 少し考えてみるが、基地のデータベースはインターネットからは切断されているから昔の基地司令あたりが作ったのかもしれないと結論づける。

 時計を見るともう21時を回っていた。

 夕食は報告書を作っている間に食べたので後はシャワーを浴びて寝るだけだ。



@北海道共和国U109歩兵団基地―風呂

7月12日北海道標準時刻2115時



美唄ナイエ 大尉



 ジャワー

 シャワーの蛇口をひねると、温かいお湯が流れだし、体を濡らしていく。

 髪の毛も濡れ、肌にぴったりと張り付く。

 全身の汗を流すためにそのまま1分ほどシャワーを浴びてからシャワーを止め、風呂用のプラスチック製の椅子に座り、タオルにボディーソープをとって泡立てる。

 ボディーソープが泡立つと、タオルで体を洗っていく。

 脇の下を洗い、背中を洗い始めた手がふと止まる。

 (なにか……ひっかかることがあるような…?)

 頭のなかになにかがひっかかっている。

 今日1日を振り返ってみるが、特に変なことはない。

 (なに……この感覚?)

 それは理論では説明できない感覚的なものだとわかる。

 だが、そこから先が全くわからない。

 違和感、勘、危機感。

 戦場では理屈では説明しきれない感覚もフル動員するが、それにも当てはまらない気がする。

 (まぁ……いつかわかるでしょう)

 しかし考えていてもしょうがないのであえて深く切り込まないようにして体を洗うのを再開する。


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