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第23話「決断の都市」


@東北合衆国宮城州仙台市―仙台市営地下鉄南北線

12月2日北海道標準時刻0835時


美唄ナイエ 大尉


 前方の暗闇をテッカリ(ヘッドランプ)が照らす。

 ヘッドセットの有機モニターに表示されている速度は時速10キロ。

 体を起こした着陸体勢で、足が地面につくかつかないかの高度15センチ程度の高度での飛行である。飛行というより浮遊に近い。

 地下鉄のトンネルのなかでは役に立たないので高度は表示させていない。

 トンネルが急に広くなるのが感じられる。

「駅に到着。速度を落とします」

 体をわずかに起こしてゆるやかに減速。

 ホームのほうに顔を向け、あるものを探す。

「よし……」

 探していたものが見つかる。

 テッカリのLEDの白い灯りが『仙台 Sendai』と書かれた駅名標を照らしている。

「仙台駅に到着を確認」

「よし、全員、隊列を維持したままホームに上がる。その後は事前に指示した通りに」

「かんなぎ、了解」

「飛燕、了解」

「黄色の25、了解」

「紫電、了解」

「青の4、了解」

「黄色の15、了解」

「緑の25、了解」

「隼、了解」

 背後の闇の中から隊員達の声。

 全員に命令が伝わったのを確認してからエンジンの出力を上げ、線路からホームに上がる。

 瘴気の濃度がかなり高い。

 すでに周囲の空気のだいたい70パーセントぐらいが瘴気になっている。

 窒素が10パーセント、酸素はだいたい7パーセントぐらいだ。

 そして、二酸化炭素が12パーセントを占めている。

 シールドによる瘴気を遮る機能と魔法粒子の二酸化炭素を酸素と炭素に分離させる効果がなければとても生きてはいれないだろう。

 エンジンの出力をちょっと上げ、階段を上昇していく。

 改札口を通り抜け、真っ暗な地下通路に入る。

 テッカリであちこちを照らしていると地上への出口を見つける。

「こちらかんなぎ、地上への出口を発見」

「了解。国分中尉、偵察任務を命ず」

「了解」

 列からライコが離脱し、地上への階段を上昇していく。

「コアを確認ー!!間違いなく仙台駅ですー!!」

「国分中尉以外の全員は2列縦隊で移動開始。国分中尉はその場で待機!!」

「かんなぎ、了解」

「飛燕、了解」

「黄色の25、了解」

「青の4、了解」

「黄色の15、了解」

「紫電、了解」

「緑の25、了解」

「隼、了解」

 ノリヒサの指示にしたがって隊列を組み直し、階段を上昇していく。

 地上に出ると正面に崩壊した仙台駅が、その上には高度数十メートルに浮かぶ一辺の長さが100メートルは優にある紅い正20面体がある。

「散開!!」

 地面を蹴り、エンジンの出力を上げて駅前ロータリーを突っ切る。

 黒焦げになったバスの残骸の陰に飛び込み、親指で2挺のHK21Aの安全装置を解除する。

 すでに試射は済んでいる。問題なく撃てる。

 飛行鞄のエンジンはアイドリング状態にして、いつでも駆け出せるように足を地面に付けた状態にする。

 わずかな間、駅前広場をエンジン音が支配する。

「射撃開始!!」

 谷田が叫ぶと同時にバスの陰から飛び出し、HK21Aの対空用照準器いっぱいに広がったコアに向かって2挺のHK21Aで射撃開始。

 金色の空薬莢が宙を舞い、小山を造る。

 2筋の曳光弾の軌跡がコアに吸い込まれていく。

 射撃音が周囲の廃墟、瓦礫の山と化したビルにこだまする。

 カチッ!!

 カチッ!!

 左右のHK21Aが同時に弾切れになる。

 (……脆弱といわれるコアといえども仮にもは奥州のクラックゥの親分たる巣のコア。流石に7.62NATTOぐらいではびくともしないのね)

 2挺のHK21Aのドラムマガジンを交換しながら頭のなかでクラックゥの戦力を訂正する。

 最後の100発ドラムマガジンをHK21Aに装着し終える。

 コアに向かって射撃開始。

 この距離で動かない巨大な標的。外しようがない。

「全員!!射線を集中させろ!!」

 銃声に負けないように叫んだノリヒサの指示が飛ぶ。

 的確な指示で射線が一点に集中する。

 コアの表面が白くなる。

 コアの表面が剥がれおちる。

 危機感。

 頭の中で警報音が鳴り響く。

 直感的にバスの陰に飛び込み、HK21Aを抱えて地面に伏せる。

「伏せて!!」

 それと同時にレイコが叫んだのがかすかに聞こえた。

 その叫びが終わるか終わらないかのところでコアの表面が地面に落ちた。

 ドッ!!

 目の前のバスの残骸が消し飛び、それと同時にものすごい光と爆風が起こり、目をつぶっていたのに視界が白く塗りつぶされる。

 シールドをとっさに張ったが、爆圧で押され、体がずるずると滑っていくのがわかる。

 体の表面が猛烈に熱い。

 爆風が収まり、顔をあげられるようになり、顔をあげると凄まじい被害だった。

 仙台駅だったところは深さ50メートル近いクレーターになり、ガラス化した地面が剥き出しになっている。

 周囲のビルもガラスというガラスが割れ、いくつかのビルは崩壊している。

 振り向くと、後ろにあった交差点の信号機が半ば融けた状態で倒れている。

 アスファルトの地面は舗装されたばかりのように湯気をあげている。

 HK21Aは腹の下に抱えていたので無事のようだ。

「総員!!被害を報告せよ!!」

「こちら美唄!!被害なし!!」

 ノリヒサの声に叫びかえす。

「こちら日本橋!!武器(対物ライフル)が破損!!射撃は不可能!!」

「…こちらショウコ。腕を負傷、また、使用武器が破損。戦闘の続行に支障あり」

「こちらライコ!!右足に落下してきた瓦礫が命中!!骨折して行動不能!!」

「こっ…こちらレイコ!!被害なし!!」

「こちらシデンコ!!被害なし!!」

「こちら久留米。被害なし」

「こちらハヤブサ。40式(坂東40式対装甲ライフル)が使用不可能!!」

「よし分かった。総員、使用不可能になった武器は放棄を許可する!!集合!!」

 谷田の声がクレーターに響き渡った。




谷田ノリヒサ 少佐


「よし、遠軽中尉と久留米少尉、仙石中尉は敵に備えて周囲を警戒」

「了解」

「了解!!」

「了解」

 一旦集中し、シデンコとフタコ、レイコに周囲の警戒を命じる。 シデンコ、フタコ、レイコそれぞれが三点シリングでぶらぶらさせていた坂東49式5.56ミリ軽機関銃と坂東52式超電磁機関銃、L86改を手に取り、周囲の警戒を始めるのを確認すると、自分の坂東49式機関砲のマガジンを手にとって周囲を確認する。

 残弾数、10。

 49式機関砲なら1秒で撃ちきってしまう量だ。

 25×110ミリ機関砲弾は1発315グラムなので150発ドラムマガジンだとだいたい47キロなので本体と合わせると75キロ近く。

 これでは高出力の49式艦上戦闘鞄22型でも予備弾倉を持っては飛べない。エンジンの出力以前に自分の筋力では予備マガジンを持てない。

 そのため、予備の弾倉は基本的に持ち歩けず、150発マガジンだけを装備しているのである。

 ホルスターからサブウエポンの坂東45式拳銃を取り出し、弾倉を確認する。

 45口径の遅延炸裂弾が8発入っている。

 さらに、スライドをすこし後退させ、薬室に実弾が装填されていることを確認。

 最悪、これを使うことになるかもしれない。

 流石に通常の戦いかたはできないだろうが、近接しての戦いならそれなりに効果はあるはずだ。

 ただ…問題はコアのほうだ。

 毎分3000発の7.62ミリに毎分400発の25ミリが1点に集中しても崩壊しないコアなんて聞いたこともない。

 超弩級拠点、いわゆる巣のコアであるため、ほかのクラックゥのコアより巣強力な可能性はありえる。

 だがあの頑丈さは桁外れだった。アシカガ作戦の時は大事をとってありったけの火力を叩き込んだからあまり問題なかったが、現状の装備で何としてもコアを破壊しなければならない現状では大問題だ。

 そもそも、クラックゥの心臓であり脳のようなものだとされるコアの一部が自爆する機能なんて聞いたこともない。

 軽く頭を振り、聞いたこともないの繰り返しを追い出す。

 クラックゥだって出現したときは「聞いたこともない」相手だし、戦車やミサイルだって初めはそんな相手だったのだろう。

 たいがいの新しいタイプのものはその相手からすれば聞いたこともないし、見たこともないようなものだ。

 だとすれば、あれはクラックゥのコアではないか、コアに新しい機能が追加されたかのどちらかだろう。

 眼鏡を外し、コアを見上げる。

 意識を巨大なコアに集中させる。

 (なにか……違う!!)

 視界のなかのコアは超視力を発動させてない状態と変わらないように見えるが、違和感がある。

 強いて言うならクラックゥの中にあるコアを透視するときのようなわずかに揺らぎがある。

 (見えているコアと本来のコアには微妙な“ズレ”が……ある?)

 思わず首をかしげる。

 だが、直感が本来のコアが内部にあると告げている。

 (ただ…これだけでは本来のコアが特定できない。それに、あの爆発する外側も問題だ)

 このままではたとえ内部に本来のコアが見つかったとしても、そこに到達する前に全滅だ。

 あの爆発から推定すると、外側が爆発した場合、ものすごい量の熱と光が撒き散らされる、熱核爆弾のような機能のようだ。

 あのとき、落ちてきた量がもう少し多かったらメンバーの大半は文字通り蒸発していたか重大な火傷を負っていた可能性が高い。

 それに、弾薬も保たない。

 第2の能力が無限弾倉のショウコはともかく、他のメンバーの銃はせいぜいが150発ぐらいしか残っていない。

 だとすれば、何らかの方法を考えなければならない。

 ガラス化した地面が広がるクレーターに視線を移す。

 地面がガラス化するような熱を放つ爆弾から身を守りつつ、コアを破壊するにはどうするべきか。

 仮にコアを破壊せずに坂東までの飛行を行えばほぼ確実に死が待っている。

 ヒエンコの近未来予測の力を借りなくてもこれは容易に予測ができる。

 強力な熱をシールドで防ぐのは?

 それは不確定性がかなり高い。シールドで防ぎきれないような熱がきたら防ぐ手立てがない。

 それに、弾薬の問題はどうしようもない。

 手詰まりか?

 そのとき、ふと頭のなかを疑問がよぎった。

 (フタコがコアの一部を破壊したとき、あの爆発は起こったのか?)

 この作戦を立案する足がかりになったフタコの発言を思い出す。

『衝突したとき、シールドで表面が削られた』

 つまり、フタコの言葉を基にすれば、フタコは少なくとも1回、コアの一部を破壊した筈である。

 だとすれば、そのときにあの爆発が起こっているはずだ。


「く、久留米少尉。質問がある。」

 その疑問を解消するために、周囲の警戒をしているフタコに話しかける。

「はい~?なんでしょうか?」

「1つ、確認したいことがある。シールドがコアに激突したとき、あの爆発は起きたか?」

「いぇ…全く……そのときは、コアの破片は空気に溶けていきました」

「そうか…」

 フタコのその答えを聞いたとき、頭のなかで作戦のピースがはまった気がした。

 だが、最後のパーツが足りない。決定的なパーツが。

「美唄大尉!!コアの内部を探れるか?」

「それはちょっと…三次元空間把握はものの内部までは……超視力みたいな透視はできないの…それに、この辺りだとどうも調子が悪くて…」

「む…」

 そのナイエの言葉で、はまりかけていたパーツが吹き飛んでいった気がした。

 駄目だ。これでは最後のピースが足りない。

 超視力は基本的に人間の目を媒体として目標を捉えるからどうしても三次元的な把握は限定的になってしまう。

 例えるならば、超視力は1つの方向なら物陰でも探査できるがほぼ二次元的にしか確認できないレーダー、三次元空間把握は全方位を三次元的に捉えられるが、物陰まではわからないレーダーのようなものだ。

 超視力の透視と三次元空間把握の優れた空間把握。

 この2つがそろわない限り最後のピースははまらない。

 超視力と三次元空間把握の両方の機能を備えた固有魔法。

 超三次元空間把握とでもいうべきものが必要なのだ。

 だが、そのようなものがない。

 足りない。

 必要なパーツが。

 いや、

 存在などしないのか。

 そんなパーツは。

 はまりかけていたというのは錯覚か。

 だとすれば、

 どうする?

 作戦を

 変えるしかない。

 どんな?

 圧倒的な火力を用いるか?

 だめだ。

 手持ちのでは足りない。

 アシカガ作戦の時のような同時多重攻撃でありったけの火力を叩き込むか?

 やっぱり手持ちのでは足りない。

 あきらめるか?

 自分はかまわないが他のメンバーにそれを押し付けるわけにはいかない。

 どうする?

 最後のピース。

 超三次元空間把握。

 手が届きそうなところにある。

 だが届かない。

 それすらも錯覚なのかもしれない。

 だが、直感は超三次元空間把握は手が届く場所にあると告げている。

「大丈夫?」

「むむ…」

 よっぽど行き詰まっているように見えるのか、ナイエが聞いてくる。しかし、それに答える余裕もない。

 唇を強く噛む。

 肝心のところで必要なものが足りない。

 肩に誰かの手が置かれる。

「…少佐、大丈夫?」

 顔をあげると、ショウコが不安げに聞いてきた。

 気がつくと他のメンバーも集まってきている。

「大丈夫だ。これからの方針を考えていただけだ」

 これ以上不安にさせないためにも、精一杯口角を上げて笑みを作る。




国分ライコ 中尉


「…少佐、大丈夫?」

 追い詰められたような顔でうつむき、額に脂汗を浮かべているノリヒサの肩にショウコが手をかけると、ノリヒサがゆっくりと顔をあげた。

 その顔には焦りと迷いが張り付いている。

「大丈夫だ。これからの方針を考えていただけだ」

 そういってノリヒサは口角を上げて笑みをつくる。

 だがその笑みはどこか弱々しかった。




谷田ノリヒサ 少佐


 コツコツコツコツ…

 49式機関砲のピカティーレールに取り付けた空対空照準器を指先で叩きながら何か策がないかと考えていると、ふとイチコが基地のデータベースに残したデータを思い出した。

 2つの固有魔法の合わせ技がある。

 手をつなぐことによって手を繋いだ2人の固有魔法の合わせ技ができるというものだ。

 まだ一回も試してないが、やるしかないだろう。

「…美唄大尉、キスをしてくれないか?」

「えっ!?」

 HK21Aをいじっているナイエに頼むとものすごく驚かれた。

「なるほど…」

「…納得」

「死ぬ前にせめて…かね」

 ショウコとシデンコ、ハヤブサがなにやらやたらと納得している。

「頑張って下さい~」

 フタコは応援なのか手を振っている。

「……意外」

 瓦礫に寄りかかるように座っているライコが目を見開いている。

 なにか意外なことがあったのだろうか。

「やっぱり…」

 ライコの足の調子をみていたレイコはなぜかやれやれというふうに肩をすくめている。

「いきなりですか…まぁ、頑張ってください」

 ヒエンコはなにやら励ましてくれているようだ。

「合わせ技か…まぁぶっつけ本番になるが仕方ないな」

「ぁあ……そのことね…」

 なぜか耳まで紅くなったナイエの近くまで歩いていき、ナイエと向き合う。

 ナイエの唇と、自分の唇が重なった。

 ナイエの唇の柔らかい感覚。

 すこし汗臭い匂い。

 そして、頭の中に大量の情報が流れ込む。

 頭の芯まで溶けるような感覚と、鋭い頭痛。

 頭がすこしくらくらする。

 ナイエの息づかいを感じる。

 そして、ナイエとのキスを終える。

 ナイエから離れ、眼鏡を外してコアの方を見る。



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