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第21話「反撃の都市」


@東北合衆国宮城州名取市閖上(ゆりあげ)4丁目―防空壕

12月2日北海道標準時刻0600時


国分ライコ 中尉


 食べられる消しゴムのような44式戦闘食をかじりながらSAKURA-14Cの魔導エンジンのテストをする。

「よし…っと」

 有機モニターに表示されたエンジンタービンの回転数を確認する。

 見たところ、3機搭載されているMF28魔導エンジンのうち、中央の1機の調子が悪く、出力の限界が正規の出力よりもやや低くなっているようだ。

 しばらくその状態を維持してからエンジンをアイドリングにして、ヘッドセットを外す。

「少佐、エンジンは中央の1機がやや不調です」

「分かった。とりあえずエンジンはアイドリング状態で待機」

「了解」

 ノリヒサにエンジンの出力のテストの結果を伝えると、ノリヒサはなにやら紙に書き込み、ナイエと相談している。

「いよいよだな…」

「そんなに上手くいかないでしょう」

「こんなときぐらい気を楽に持とうよ。いつも通りに」

「そうなんだけどね……」

 レイコに話しかけると妙に元気がない。

「レイコさん、じゃんけんしましょう」

 レイコに話しかけるハヤブサの声も妙に硬い。

「うん…」

「はい、じゃんけんしましょ笑ったら負けよ、じゃんけんぽん!!」

「それにらめっこ!!」

 ハヤブサのボケにレイコの突っ込みが炸裂する。

「……ぶふぉ!!」

 思わず吹き出してしまう。

「ぷっ………はははははははは!!」

 ヒエンコが妙に笑い転げている。もちろん飛行鞄を背負っているから比喩的な意味で、だが。

「はははははははは!!」

 シデンコも壺った(つぼにはいった)らしく、大爆笑している。

「……」

 ショウコもいつもの無表情だが、どこか面白そうだ。

「集合!!」

 そんなところにナイエの掛け声がかかる。

「美唄大尉を起点に整列!!」

 急いでノリヒサの前に整列する。

「敬礼!!」

 ヒエンコの掛け声で敬礼。

「これより、日本連合軍北海道方面軍第3航空集団第109歩兵団、通称“ヒダカアローズ”の最終出撃ミーティングを始める!!休め!!」

 いつもどおりのぼんやりとしたどこを見ているかよくわからない表情でノリヒサが全員を見回す。

「これより点呼を行う!!北海道共和国空軍第2歩兵団第25中隊所属、美唄ナイエ中佐!!」

「はい!!」

「扶桑国軍航空部第104航空隊所属、日本橋ヒエンコ中佐!!」

「はい!!」

「北海道共和国空軍第2歩兵団第26中隊所属、沼田ショウコ中佐!!」

「はい!!」

「九州連邦共和国桜島学園臨時政府航空軍第10歩兵団所属、国分ライコ少佐!!」

「はい!!」

 二階級上の階級で呼ばれ、戸惑いながら敬礼をする。

「東北合衆国解放軍第3航空歩兵団第32小隊所属、仙石レイコ少佐!!」

「は、はい!!」

「北海道共和国空軍第2歩兵団第21中隊所属、遠軽シデンコ少佐!!」

「はい!!」

「九州連邦共和国志賀島学園臨時政府航空軍第5歩兵団第52航空隊所属、久留米フタコ大尉!!」

「はい!!」

「扶桑国軍航空部第104航空隊所属、山口ハヤブサ准尉!!」

「はい!!」

「作戦は、以上の8名と、私、坂東帝国軍航空戦闘部第117師団第11分隊所属、谷田ノリヒサ大佐で行う!!作戦目的は東北を占領しているクラックゥの巣の破壊!!命令はただ一つ、」

 ノリヒサはそこで言葉を区切り、息を大きく吸い込んだ。

「生き残れ!!さっきの点呼を冗談にしろ!!解散!!」

 ノリヒサの口から腹式呼吸で放たれた声が防空壕の中で反響した。

「ぷっ……ふはははははは!!」

 そのとたん、ヒエンコが大爆笑しはじめた。

 ヒエンコの鍛えられた腹筋から腹式呼吸で放たれた笑いが防空壕のなかだけでなく、外の廃墟にも広がっていく。

「ぷっ…くっくっくくく」

 なんだか無性におかしくなって、口を押さえて笑ってしまう。

 ようやく、さっきのがノリヒサなりのジョークなのだと理解する。

 全員の笑い声が夜明け前の防空壕と廃墟に響く。

 全員が笑顔だった。

 ジョークの成功したノリヒサも、ナイエも、ハヤブサも、シデンコも、レイコも、フタコも、ヒエンコも、ショウコも。

 そして、恐らく自分も。

「整列!!」

笑い声がある程度おさまると、ノリヒサは真顔で号令をかける。

「これより、反攻作戦を開始する!!全員、離陸用意!!」

「了解!!」




谷田ノリヒサ 少佐


「これより、反攻作戦を開始する!!全員、離陸用意!!但し高度10を越えてはいけない!!」

「了解!!」

 号令をかけるとヘッドセットを装着。

 防空壕の外に出て手早く2列縦隊になると、ベルトに取り付けられたスイッチを操作してエンジンの出力を上げていく。

 エンジン出力、50パーセント。

 体がふわりと浮き上がる。

「赤の1、離陸」

「黄色の15、離陸」

「青の4、離陸」

「黄色の25、離陸」

「隼、離陸」

「紫電、離陸」

「緑の25、離陸」

「飛燕、離陸」

「かんなぎ、離陸」

 離陸するとナイエが移動し、横につく。

 体を起こした離着陸体勢から地面と平行な飛行体勢に移る。エンジンの出力はなるべく絞る。

 時速80キロ、高度8。

 名取川を飛び越える。

 姿勢が安定してきたところで左に旋回。

 眼下の光景が廃墟から海面に変わる。

「全員、2列縦隊を維持したまま速度50、高度2まで降下」

「「「了解!!」」」

 足を下に突きだし、エンジンの出力を30パーセントまで落とす。

 有機モニターの左側に表示された速度が落ちていく。

 時速48キロ、高度10。

 正面に名取川の河口が見える。

 足を下に突きだすのをやめ、エンジンの出力も40パーセントまで戻す。

 時速48キロ、高度2メートル。

 エンジン出力、約40パーセント。

 失速寸前の状態で水面をなめるように名取川の上を飛んでいく。

 前方に橋が見える。

 中央部の崩れた部分を突っ切る。

 その次の橋は尾翼をぶつけないよう、高度を下げてくぐり抜ける。

 時速48キロ、高度2。

 前方で川が左右に分岐している。

 体を左に傾け、左側の流路の上を飛ぶ。

「全員、堤防より低く飛ぶんだ!!速度も40まで減速!!」

 通信が使えないので怒鳴って指示を出しながらさらに高度を下げる。

 足を下にやや突きだし、減速していく。

 時速39キロ、高度1。

 もはや失速寸前の状態だ。

「全員、一旦停止!!」

 前方に異常を発見。

 即座に全員に停止を指示する。

 エンジンの出力を60パーセントまで高めてから体を引き起こすと、空気抵抗で減速し、エンジンの推力で宙に浮かんでいる状態になる。

 前方に鉄橋。

 それだけなら問題はないのだが、鉄橋の側面を突き破った車両が折り重なるように川に突き刺さっている。

 クラックゥ襲来の時に発生した事故だろう。

 だが、問題はそこではなく、トラス式の鉄橋の側面が脱線車両によってかなり破壊され、川に折り重なるように突き刺さっている車両とあわせてバリケードとなっていることだ。

 通り抜けるのは不可能ではないだろうが、かなりの精度の操縦技術が要求されるうえ、通れる隙間を発見するには相当な時間がかかるだろう。

 鉄橋の上を通ればいいのだろうが、昨日の経験ではクラックゥの持つ人間の防空網に相当するなにかは超低空が苦手なようだ。

 実際、高射砲型は超低空に入ったとたん捕捉できなくなったようにあさってどころかしあさっての方角にビームを放つだけになっていた。戦闘機型も自前の探査器官でこちらを捕捉したわけでなく、その防空網から指示を受けて攻撃してきたらしく、超低空に入ったとたんに見失ったようにてんでばらばらに動き始めていた。それを利用するためにここまで超低空を飛行してきたのだ。

 鉄橋の水面からの高さは低く見ても10メートルはあるだろう。

 これを越えるには15メートル近くまで上昇する必要がある。

 それをしたらかなりの確率でクラックゥの防空網(に相当する何か)に引っ掛かり、戦闘機型クラックゥや改戦闘機型クラックゥが大量に飛んでくる。

 重心移動で鉄橋に近づく。

 ところどころ塗装が剥げたクリーム色の電車が夜明けの光に照らされている。

 オレンジ色の光は川の底に沈んだ車両も照らし出している。

 川底には飛び散った車両の破片に混ざって事故の犠牲者の死体も沈んでいるようだ。

 それらがそのまま残っているだけでなく、川底がはっきり見えるのはクラックゥの瘴気で微生物まで自滅したせいだろう。

 足が水面に触れる寸前のところまで高度を下げ、事故の遺骸を丁寧に見回す。

 エンジンから吐き出される魔法粒子を含んだ空気でさざなみが立っている水面の向こうに見える事故の遺骸は水面上にあるそれよりも通るのは難しそうだ。

 だいいち、魔導ジェットエンジン搭載の第3世代飛行鞄は水を吸い込むとエンジンが損傷してしまう。

 やはりここを普通に突破するのは不可能のようだ。

「ちょっとこっちに来てー!!」

 ナイエの声に、声が響いてきた方向を見るとナイエが手招きをしている。

「なにかあったんだ?」

「あそこなら下を通れる」

 ナイエが指で指したのは堤防のほうだ。

 だが、その辺りには並走していたらしい高速鉄道の車両が脱線して折り重なっていたので、どう見ても無理そうだ。

「いや、あそこも無理そうだよ」

「いや、堤防の内側にガードがあるからそこをくぐればいい」

「なるほど」

 ナイエの言葉に納得してからそちらを確認するために移動する。

 堤防に足がつくかつかないかぐらいの高度で堤防の向こうをのぞきこむ。

 なるほど、確かにガードがあってそこなら通れそうだ。

「よし!!全員移動開始!!速度は10以下の状態!!」

「「「了解!!」」」

 全員が再び2列縦隊を組み、ヘリのようにホバリング状態でガードの下を通過する。

 ガードの下を通過すると、再び川の上を低速で飛行し始める。

 鉄道事故が発生していた鉄橋からさほど離れていない場所で川に支流が合流している場所があった。

「よし!!高度1、速度30で水平飛行!!」

「「「了解」」」

 体勢を再び地面に対して水平な飛行体勢に戻し、細い支流の水面すれすれを飛んでいく。

 小さな橋をいくつかくぐり抜ける。

 すると、その先にコンクリートでできたやや大きめの橋がある。

「よし、高度をあの橋の上面ぐらいまで上げる!!」

「「「了解!!」」」

 指示を出してエンジンの出力を上げ、高度を上げる。

 全員が橋の上部に到達し、その場で停止したとき、ナイエが緊迫したように叫んだ。

「上空に爆撃型クラックゥ!!こちらに向かって降下してきています!!」


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