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第19話「廃墟の都市」



@北海道共和国U109歩兵団基地―管制室

12月1日北海道標準時刻1118時


浦幌三等軍曹


 突然、管制室が白く塗りつぶされた。

〈――ブレイク!!ブレイ――〉

 ヘッドセットから谷田少佐の切羽詰まった声が響く。

 それに応答する前に体から力が抜けた。




























《――こちら浦河電探駐屯地!!109歩兵団基地、応答せよ!!繰り返す、こちら浦河電探駐屯地!!第109歩兵団基地、応答せよ!》

 気がつくと、自分は椅子ごと後ろにひっくり返り、天井を眺めていた。

 ヘッドセットのコードが音声出力機器から抜け、机の上のスピーカーから浦河のレーダーサイトの通信員の切羽詰まった声が響いていた。

「は、はい!!こちら日本連合軍第109歩兵団基地の浦幌三等軍曹」

 あわてて起きあがり、ヘッドセットのコード刺し直し、回線を浦河とのものにセットする。

〈先刻、北海道標準時刻1118時に貴基地所属の第109歩兵団全機がレーダーから消失、同時にIFFの反応も消え、現在もその状態が継続中である。貴基地にはなにか報告が入っているか?〉

「報告は入っていない。これから確認を急ぐ。アローズ基地(ベース)、オーバー」

〈了解した。浦河レーダー、オーバー〉

 浦河電探駐屯地との通信を切ると、通信機の波長を109歩兵団で使っているものに切り替える。

 嫌な汗がどっと吹き出る。

「こちらアローズ基地、浦幌三等軍曹。こちらアローズ基地、浦幌三等軍曹。アローズ隊、応答せよ。繰り返す、こちらアローズ基地、浦幌三等軍曹。こちらアローズ基地、浦幌三等軍曹。アローズ隊、応答せよ。繰り返す、アローズ隊、応答せよ!!」

 いつも通り、『こちらアローズ隊、赤の1。ドーゾ』という谷田少佐のやや間が抜けた声か『こちらアローズ隊、かんなぎ。どうしました?』美唄大尉の凛とした声が通信機から響いてくるのを期待しながら通信機に呼び掛けるのを繰り返す。

「こちらアローズ基地、浦幌三等軍曹!!アローズ隊、応答せよ!!繰り返す!!こちらアローズ基地、浦幌三等軍曹!!アローズ隊、応答せよ!!繰り返す!!アローズ隊、応答せよ!!」

 しかし、反応はない。

 ただむなしくホワイトノイズのみが通信機から聞こえてくるだけだ。

「どうした!?」

 気絶していたらしい、同僚の三石三等軍曹がいつの間にか復活したらしくこちらに聞いてくる。

「アローズ隊を呼びだしてくれ!!」

 まだ状況を飲み込めていないらしい三石の通信機にアローズ隊との回線を回し、自分のモニターでレーダーからのデータを呼び出す。

「よ、よくわからんがわかった!!こちらアローズ基地、三石三等軍曹。アローズ隊、応答せよ。こちらアローズ基地、三石三等軍曹。アローズ隊、応答せよ!!こちらアローズ基地、三石三等軍曹だ!!アローズ隊、応答せよ!!」

 三石が通信機に呼び掛ける声をBGMにレーダーサイトからのレーダーのデータを呼び出し、11時16分から倍速で再生する。

 レーダー上の第109歩兵団がクラックゥに取り付いている。

 109歩兵団が追っているクラックゥがレーダー上で膨らんだ。

 撃墜したらしい。

 直後、レーダーのデータが真っ白になった。

 画面の端に表示されている時間は2倍速で進んでいっているのでコンピューターのエラーの類ではないようだ。

「大規模な電子攻撃(ECM)…?」

 レーダーが完全にホワイトアウトするような状態はそれ以外考えつかない。

 基地の簡易レーダーのデータも確認すると、ほぼ同時にホワイトアウトしていた。

 同時に発生しているということは、クラックゥの電脳攻撃ではない。

 さらに、通信履歴を確かめるが、11時18分以降の通信がない。

 いや、11時18分から1分ほど激しいノイズが入っているだけだ。

「浦幌!!駄目だ!!うんともすんとも言わん!!」

「浦幌三曹!!さっきの閃光はなんだったんだ!!」

 三石が音を上げると同時に、整備班長の春採二等軍曹が飛び込んでくる。

「わかりません。ただ、閃光発生と同時刻にアローズ隊がレーダーから消失、通信も根絶されています」

 なるべく、平然を保ちながら春採軍曹の疑問に答える。

「え…つまり、MIA(任務中行方不明)か?」

「まだわかりません。ただ、このままではMIAになりかねません。場合によっては北海道空軍の救難飛行隊の出動を要請する必要がある可能性はあります」

「え…」

「……くそっ!!…」

 春採軍曹が言葉を失い、三石が机に拳を叩きつける。

 自分だって同じ気持ちだ。



@???

?月?日北海道標準時刻????時


美唄ナイエ 大尉


 気がつくと、目の前に海面が迫っていた。

 あわててシールドを張る。

 シールドが海面に触れる。

 浅い角度で突入したためか、体が水面を跳ねる。

 腰、首、膝、股関節と、身体中の関節がGで無理に曲げられ、悲鳴をあげる。

 体が砂浜を飛び越える。

 シールドが道路のアスファルトと激しく擦れあい、火花が散る。

 その摩擦で体が縦に回転し、空と地面の位置が目まぐるしく変わる。

 畑のなかの畦道にぶつかり、高さ数メートルまではね飛ばされる。

 縦に回転したまま着地し、さらに転がり続ける。

 数百メートルも地面を転がってから道路に止まっていた自動車の窓ガラスを突き破ってようやく体が止まる。

「ここは…?」

 ふらふらする頭をおさえて、割れたガラスが飛び散った座席から起き上がり、周囲を見回すと、進行方向右手には畑、左手には住宅地である。

 どうやら、どこかの都市の郊外のようだ。

 自動車のドアを押すと、錆び付いたような音をたてて開いた。

「始末書確定ね…」

 自動車の窓から這い出しながら車を確認する。

 ぶつかった自動車はドアが大きくへこみ、窓にはめられていたガラスはすべて割れている。エンジンは止まっているようだ。

 ただ、妙に古めかしいデザインで、なぜか人が乗っていない。乗っていたら大惨事になっていた。

 周囲を見回すと、道のところどころに乗り捨てられたらしい自動車が止まっている。

 さらに、車体の一部が完全に消え、ボンネットや荷台だけになった車もちらほら。しかも、無くなっている部分の下にはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ができていた。

 しかも異様なくらいに街は静かだ。人気(ひとけ)がない。

 いや――人気(ひとけ)どころか、生物の気配がない。

 空襲警報が発令されているのだろうか?

 だとしたら、ここは室蘭か苫小牧あたりの郊外だろう。

 だがそれにしては雰囲気が妙だ。それだとしても生物の気配がないのはおかしい。

 しかも、苫小牧や室蘭に大量にある風力発電所がない。

 ふと思いついて自動車の正面に回る。

「え…」

 ナンバープレートには『仙台085 い0013』と書かれている。

「仙台ナンバー…?」

 とっさに思い浮かんだ想像に背筋が寒くなる。

 いや、そんなはずはない。

 ありえないはずだ。

 そんなはずはない。

 ありえないはずだ。

 そんなはずはない。

 だが…確かに異様だ。

 生き物の気配がない。

 植物も、虫も、人間も。

 異様なくらいに寒々しい。

 よくよく見ると街も、まるで何年も放置されて、雨や雪にさらされたような雰囲気だ。ペンキが剥げ、金属が錆び、電柱が崩れている。

 確かに、だとしたら合点がいく。矛盾なく説明できる。

 どういう理由かはわからないが、仙台に転送されたと見るべきだろう。

 転送されたのは自分ひとりか、それとも全員か。

 ともかく、自衛の必要がある。

 HK21A(機関銃)は使えるかわからない。銃身が歪んでいる可能性がある。この状況で試射する訳にもいかない。敵に見つかる可能性がある。

 代わりに、USPをホルスターから抜き、撃鉄を下げる。

 スライドを少し後退させ、薬室(チェンバ)に実弾が装填されていることを確かめる。

 45ACP弾が13発。

 カタッ。

「!!」

 物音がした方に向かってUSPをとっさに向ける。

「ストップストップ!!」

 すると、ノリヒサが手を上げながら電信柱の陰から出てきた。

「え…」

「あ、怪我とかしてない?」

「いや、大丈夫です。」

 体のあちこちを確認するが、目立った出血はなさそうだ。

 内出血もなさそうである。

「飛行鞄は?」

 ノリヒサの言葉に慌てて背負ったHK21-3Aの様子を確認するために、腰のベルトに付けたツールボックスからコードを取り出し、両端をヘッドセットのジャックと飛行鞄のジャックに繋ぐ。

 すると、有機モニターに『警告:フラップ破損』の文字が表示される。

 一瞬遅れてさらに表示。

『行動モード:瘴気下、地上活動

 魔力増幅器…正常

 魔導エンジン(右)…異常無。現在停止中

       (左)…異常無。現在停止中

 』

「両翼のフラップが破損。その他は異常なし」

 その他の異常がないかを確かめてからノリヒサに報告する。

「よし、他の面々を探すか。…まさか東北に飛ばされるとはな……」

「え………」

 ノリヒサのつぶやきに言葉を失ってしまう。

 自分で推測したのと他人、それも谷田から言われるのはやはり違う。

 目の前が真っ暗になった気がした。




@東北合衆国宮城州仙台市―郊外

12月1日北海道標準時刻1602時


国分ライコ 中尉


「よし、全員そろった。」

 ノリヒサが疲れたように頭を振る。

「ふぅ…」

 膝と膝の間に頭を入れ、息を吐き出す。

 地面に直接体育座りをしているので無理なくできる。

 まだ頭がくらくらする。

 どうも放置されていたトラックの側面に突っ込んだまま気絶していたらしい。

「ここが東北なんて…嘘だっ!」

「でも十分証拠があるし、東北じゃなくても新潟か北海道か九州あたりのクラックゥの制圧下にある土地の可能性が高い」

 東北に飛ばされたことが信じられないハヤブサにフタコが現実を見せようとしている。

 ハヤブサは怪我をしたらしく頭に包帯を巻かれている。

「ハヤブサの怪我大丈夫かな」

「…額の出血。直ちに生命に影響はない。また、この状態が1ヶ月以上続いても問題ない」

「政府発表かよ…」

「原発が破壊されて放射性物質がばら蒔かれている可能性のある新潟よりはまし」

「…政府発表では放射性物質の飛散はない」

「いつクラックゥに格納容器が破壊されるかわからない。だから飛散がおこっていてもおかしくない」

「そういやシールドって放射性物質を遮れるのかな?」

 シデンコとショウコの会話にレイコも参加し、話題が原発やら洒落にならないようなところに移る。

「やっぱり距離的には坂東まで飛んでいくのがいいか……」

「敵の制空圏を200キロ突破しなければならないけど」

「弾薬が保つか……」

「人も保つか……」

「北海道までは…かなり難しいな。距離も長いし、拠点があると考えられる地域が多すぎる。それに、津軽海峡を越える必要がある」

「どちらにしても実行するならなるべく素早く行わなければならないし……」

「最悪数人が消える可能性もあるからな……」

「何日かかることやら…」

「あの…制空権をこちらのものにしてから突破するのは?」

 どうやってここから脱出するかをノリヒサとナイエが議論してるのに意見を出してみる。

「それって巣のコアを破壊してから脱出するということ?」

「そうなるかもしれません。」

「仮にもクラックゥの親分だからそう簡単には倒せないんじゃない?」

「ふむぅ…いや、可能かも知れない。アシカガ作戦で破壊されたコアも実は何が決定打になったのかわかってないんだ。ミサイルの命中か導爆弾か、25ミリが命中したのか7.62ミリか…あるいは航空歩兵のシールドの余波という分析結果もあるし……5.56ミリで破壊された可能性も高いから可能性は無とは言えないなぁ……」

「なるほどね…」

 ナイエがノリヒサの言葉に顎に手をあてて考え込む。

「ただなぁ…」

「そうね…」

 だが、ノリヒサもナイエもどこか気乗りがしない様子だ。

「ナイエさん、少佐、もし巣の破壊をするときに死んだり大怪我をしても私は恨みませんよ」

「うーん…」

「そうね…」

 やはりノリヒサとナイエはどこか気乗りがしない様子だ。

 ただ、何か不利益があるのではなく、ただ気乗りしないだけのようだ。

「全員で決をとりましょう」

「そうだな…」

「そうね…」

 ノリヒサとナイエがゆるゆると立ち上がる。

 それを見て、思わず首を傾げてしまう。

 軍隊とは完全な上意下達で動く組織だ。民主主義の多数決はいらない。

 階級が上の人間の命令には従う。これが基本だ。

 それをノリヒサとナイエはよく知っているはずだ。

 だから、「決をとりましょう」と言えばなんらかの決断をノリヒサとナイエは下すだろうと思ったが、そうでないらしい。

 そこまでの自信がないのかもしれない。

 自分もできないだろうが、ノリヒサはそんな決断を何回もしてきたはずだ。

 自分よりずっと強い存在だと思っていたノリヒサとナイエも案外、一般的な18歳の精神を持っているのかもしれないなと、所在なさげなノリヒサの後ろ姿を見てなぜかそう感じた。






谷田ノリヒサ 少佐


「はい注目」

 手を叩くと、全員の視線が集中する。

「これから…この後の行動について決をとる。これから挙げる2つの方針から選んで欲しい」

 すると、全員が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

「少佐、け………ぎゅむむみっふがー!」

 ハヤブサがなにか言おうとしてライコとレイコに口をふさがれている。

「しょ、少佐、とりあえず決をとりましょう」

 ライコがハヤブサの口をふさいだまま、先を促す。

「ほ、ほら早く決をとりましょう」

「そ、そうしましょう」

 レイコとシデンコも先を促す。

「1つめの方針、これは、ここから坂東までの約200キロを飛行する。これはクラックゥが制空権を確保している地域を飛行することになる」

「それは…けっこう大変ですね…」

 ライコとレイコから解放されたハヤブサがげんなりとする。

「もう1つは?」

「もう1つの案は、クラックゥから制空権を奪って、坂東までの200キロを飛行するというものだ」

「どっちにしろ200キロを飛行しなけりゃならないんですね…トホホ」

 シデンコが今度はげんなりとした。

「うげぇ…」

「質問。どのようにして制空権を奪うのですか?」

 げんなりとしたままのハヤブサの隣に座ったフタコが質問をする。

「それは、クラックゥの巣のコアを破壊する」

「ワッツ!!」

「ほぇ!?」

「え!?」

「えええええ?」

「…予想外。」

「冗談でしょう…」

 とたんに、提案者のライコ以外の全員から驚きの声があがる。

「いいえ、これは真面目な話よ。可能性としては、7.62ミリでも巣のコアを破壊できる可能性がある。そして、コアはここから10キロと離れていない場所にある。…私たちは、それが可能な場所に、立場にある」

「ただ、これはかなり危険な賭けだ。巣のコアを破壊できれば、200キロの行程はそうとう楽なものになるし、東北の戦いを終わらせられる。――ただ、失敗すれば、部隊全滅もありえる」

 ナイエの補足に加えて、危険性を説明する。

「東北の戦いを終わらせられるのは魅力的だけど……悩む…」

 体育座りで座っているレイコは指折りしながら考えている。

「………………………」

 ショウコは完全に無言。

 シデンコは金属バットに向かってなにかを決断したかのようにやたらとうなずいている。

「ふぅ…」

 ヒエンコは肩の力を抜いて周囲を見回している。

「…はぁ」

 ライコは灰色の空を見上げながら白い息を吐き出している。

「つまり、山口ハヤブサ一等軍曹が一気に山口ハヤブサ准尉になっちゃうかもしれないのか…」

「クラックゥが制空権を持っているところを突破するのでもそうなる可能性は高いけど」

 ハヤブサの呟きに、冷静にフタコが反応する。

「む?」

 そのフタコの言葉にレイコが反応して、片方の眉をピクリと動かした。

「決をとりますか。…じゃあ、敵中突破に賛成の人」

 誰も手を上げない。

「……じゃあ、巣の破壊に賛成は」

 全員の手が上がる。

「1人、2人、3人、4人…7人か。…0対7の賛成多数で敵中突破に決定します。」

 ナイエがその数を数える。

 グーギュルルルルル。

 その時、ヒエンコのお腹が鳴った。

「よし、30分後に状況開始!それまで各自、用意をしておくこと!!」

「了解!!」

「いよいよね…」

 ナイエの呟きがちょうど吹いた風に消えた。



@東北合衆国宮城州―仙台市郊外

12月1日北海道標準時刻1635時


谷田ノリヒサ 少佐


「前方よし!!」

「風向よし!!」

 ハヤブサとフタコが周囲を確認する。

「アローズ隊、離陸する!!」

「了解!!」

 ベルトに取り付けたスイッチを操作して、魔導エンジンの出力を最大に。

 そして、アフターバーナー、点火。

 体がゆっくりと浮き上がる。

 そのまま体をゆっくりと前に傾ける。

 速度が上がっていく。

 速度が時速500キロを越えたところで完全な水平飛行に移る。

「全員、進路をコアに!!」

「かんなぎ、了解」

「紫電、了解!!」

「…黄色の25、了解」

「飛燕、了解」

「青の4、了解!!」

「黄色の15、了解」

「緑の25、了解」

「隼、了解!!」

 通信機は電波障害で使えないので全員がエンジンの音に負けないように怒鳴る。

 巣のコアがある、仙台駅上空に針路を変更。

 真っ赤なコアが遠くに見える。

 高度は4500まで稼いだ。

 時速500キロ弱、コアとの距離、8000。

交戦開始(エンゲージ)!!散開!!」

 怒鳴ると、全員が銃の安全装置を解除し、散開していく。

 ハヤブサとフタコは高高度から攻撃をしかけるために上昇。

 ヒエンコも狙撃を有利にするために上昇。

 シデンコとショウコはそのままの針路を維持。

 ライコとレイコは別な角度からコアに攻撃をするため、旋回して離れていく。

 自分とナイエは上空から襲撃するため垂直に上昇を始める。

 視界の端のコアが赤く光った。

「ブレイク!!」

 右ロールでとっさにビームをかわす。

 一瞬前までいた空間をビームがなぎはらう。

「くっ…」

 さらに次々とビームが放たれる。

 敵はビームの連射及び同時に複数箇所からの発射が可能な様子だ。射程は何十キロもあるだろう。

 その間にも次々とビームが発射される。

 足を突きだし、ナイフエッジでの急旋回。

 さらに右ロール。

 続いて左ロール。

 垂直に右旋回。

 垂直降下。

 地面にぶつかる直前に体を引き起こし、上昇開始。

 高度が8000を越えたとき、上空に多数の黒点。

 戦闘機型などのクラックゥだ。

 その直後、コアからのビームが止む。

 代わりに、下方からビームが次々と放たれる。

 さらに、真上からクラックゥが急降下で攻撃をしかけてくる。

 ちらりと振り返ると、数は戦闘機型と対地攻撃型が30。

 おそらく、数と高度の優位にものを言わせて集中的に攻撃をしてくるつもりだ。この状況で戦闘に入るのは危険だ。ましてや、格闘戦などは自殺行為だ。

 ジザースをしながら再び垂直降下。急降下で逃げることにする。

 一気に速度が上がる。

 振り返ると、クラックゥは諦めたらしく離脱していく。

 直感的に右ロール。

 一瞬前までいた空間をビームが貫く。

 飛行鞄がびりびりと震える。

 高度400、速度は時速1200キロ。

 シールドを張り、体を引き起こす。

 激しい機動でGがかかり、飛行鞄が悲鳴をあげる。体に大きなGがかかる。

 地面を舐めるように低く飛ぶ。

 高度1メートル弱、時速1250キロ。

 音速を突破。

 高射砲型クラックゥのビームが斜め上をむなしく通りすぎていく。

 クラックゥに狙いをつけさせないために交差点で強引に90度旋回。減速。

 目の前に高射砲型クラックゥが迫る。

 上昇して飛び越える。

 上空はビームと実弾兵器の光跡で紅い。

 ブレイクしてナイエと離れたのはまずかった。これでは状況が把握できない。

 だが、確実に作戦の続行は不可能だ。

 作戦の続行が不可能の判断した場合は、各自の判断で離脱、可能なら初めの場所に向かうように指示してある。あとは、皆がそれを実行してくれることを祈るしかない。

「くそっ」

 自分に向けた悪態は秒速270メートルで後ろに飛ばされていった。


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