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第18話「始まりの空」

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@北海道共和国―東05地区、高度3800メートル

11月30日北海道標準時刻1502時


国分ライコ 中尉


〈全員、攻撃開始!!〉

 パウッ!!

 ノリヒサの合図に合わせてヒエンコの扶桑45式対装甲ライフルが火を吹き、クラックゥの実弾兵器に命中弾を叩き込み、爆発させる。

 ハヤブサとフタコが背面に入り、クラックゥに向かって急降下。

 それより一瞬遅れて巨大爆撃型クラックゥが真下を飛び去る。

 続いて護衛の戦闘機型クラックゥが急上昇、ビームを放ってくる。

 すかさず体を起こし、急上昇。

 上昇の途中で強引に体を捻り、急旋回。

 翼が揚力を失い、失速。

 体が下降を始める。

 そのタイミングを逃さず、ベルトに取り付けられたスイッチを使ってエンジンの出力を最大に。

 そして体を海老反りにして背面に入る。

 狙い通り戦闘機型クラックゥの直上に出ると、エンジンの出力をクラックゥを追い越さないところまで落とす。

 クラックゥから見て斜め後ろの上方。

 ここは戦闘機型クラックゥの弱点だ。

 コアに近く、このポイントからなら攻撃するタイミングも多い。

 しかも、ここならビームも実弾兵器もやってこない。

 MG42の引き金をそっと一瞬だけ引く。

 タタタタタ!!

 クラックゥにMG42改から放たれた7.62ミリNATTO弾が叩き込まれ、クラックゥの上面に白い煙が立ち上る。

 次の瞬間、クラックゥが白く膨らみ、弾けとぶ。

 後方にクラックゥの気配。

 後ろをちらりと振り返る。

 後ろについていたのは改戦闘機型クラックゥ。

 最近出現した戦闘機型クラックゥの強化型と考えられるタイプだ。主翼に実弾兵器を内蔵し、胴体から前方に射程15キロ弱のビームを放つという戦闘機型同様の武装に加え、胴体後部に四連装、旋回式の実弾兵器を持っている。そのため、戦闘機型の弱点であった上部及び後ろもカバーされているなかなかに面倒な相手だ。

 後ろについた改戦闘機型の数を確認した次の瞬間、紅く染まったクラックゥの実弾攻撃が襲いかかる。

 とっさにシールドを斜線に対して斜めに張る。

 火花をたててシールドの表面を紅い弾が滑っていく。

 足を突きだし、急減速。

 急減速についてこれなかったクラックゥが手を伸ばせば届きそうなところを通りすぎ、オーバーハング。

 機体後部の四連装の実弾兵器を旋回させこちらに攻撃をしようとするクラックゥに右手の手のひらを向ける。

「はっ!!」

 右手の手のひらから青い稲妻が飛び出し、クラックゥの動きが止まる。

 クラックゥの動きが止まるのはほんの一瞬。

 その一瞬に上空からシデンコが第2の能力の瞬発力で急接近する。

 それを見てMG42の引き金を引こうとしていたのを止める。

 シデンコは右手に持っていたバットを一閃。

 シデンコの固有魔法の「シールド変形」でバットの周囲に張られたシールドで1機のクラックゥの主翼が切り裂かれる。

 さらに、至近距離からシデンコが左手に持った坂東49式5.56ミリ軽機関銃の銃撃と強力な蹴りを喰らわせる。その攻撃を受けたクラックゥは大きくバランスを崩す。

 改戦闘機型は主翼を回復させつつ旋回式の実弾兵器の狙いをシデンコに変え、射撃。

 シデンコはすかさず瞬発力を発動。弾より速く逃げ去る。

 同時にクラックゥにMG42を向け、横なぎに連射。クラックゥの旋回式実弾兵器発射器から白い煙があがる。

 直後、爆発。

 実弾兵器に誘爆したのだ。

 改戦闘機型は胴体後部を失い、コア露出。

 改戦闘機型は急旋回して逃げに入る。

 その結果、コアをこちらに向けることになる。

 すかさず射撃。撃墜。

〈こちらかんなぎ。紫電、黄色の15、爆撃型のほうに加勢して!!〉

「黄色の15、了解!!」

〈紫電、了解!!〉

 改戦闘機型が完全に白い光になって消滅していることを確認してから巨大爆撃型と戦っているほうに移動する。

 ショウコたちが爆撃型と戦っているのは戦闘機型と空戦をしていた空域から30キロ弱離れた空域だった。

〈こちら赤の1。紫電!!隼を援護しろ!!黄色の15は黄色の25を!!〉

「黄色の15、了解!!」

〈紫電、了解!!〉

 巨大爆撃型クラックゥの上面にある一つの30ミリ実弾兵器発射器にM134で銃撃を加え、ちょうど旋回しながら次の獲物を捜しているショウコのななめ後ろにつき、周囲を確認する。

 斜め前のショウコが小さく左右に動いてクラックゥの実弾兵器の狙いをそらしつつ、発射器に毎分3000発の勢いで7.62ミリNATTO弾を叩き込む。

 発射器の周囲に7.62ミリNATTO弾がぶつかり、火花をあげる。

 ショウコの10秒にも満たない射撃でクラックゥの実弾兵器発射器が崩壊。

 ショウコは旋回してさらに他の実弾兵器発射器を探すが、すべて破壊したらしく一つもない。

〈…こちら黄色の25。機銃座をすべて破壊〉

〈こちら赤の1。了解した。全員、巨大爆撃型に攻撃開始!!〉

 ノリヒサの指示に従い、MG42を構え、引き金にかけた指に力をいれる。

 そのとき、目の前に灰色の壁が現れた。




谷田ノリヒサ 少佐


「しまった!!」

 眼下の巨大爆撃型クラックゥが急に機体を引き起こし、ほぼ垂直に上昇し始めた。

 ダッダッダッダ!!

 上昇してくる巨大爆撃型に向かって坂東49式25ミリ機関砲の引き金を引く。

 吐き出された太い薬莢が落ちていく。

 25×110ミリ対クラックゥ特殊炸裂弾が炸裂し、クラックゥの表面に白い煙があがる。

 すぐ目の前を巨大爆撃型クラックゥが猛スピードで上昇していく。

 その本体が生み出す乱気流に巻き込まれてバランスを崩しかける。

 バランスを立て直すと、クラックゥを追って上昇。

 49式を構える。

 銃身覆いの上に取り付けた蜘蛛の巣に似た形の照準機いっぱいに巨大爆撃型の灰色の機体を捉える。

 引き金を引こうとしてやめる。

 距離が遠い。この距離から巨大爆撃型に向かって撃ってもたいした結果は得られまい。25ミリ弾はせいぜい150発ぐらいしか持てないからここは弾を温存すべきだろう。

 右手で49式をかまえつつ、左手でアフターバーナーのスイッチを入れる。

 左右合わせて1トン以上の推力で体が一気に加速する。

 突然、巨大爆撃型が上昇をやめた。

 水平飛行に移った巨大爆撃型にあわせて強引に体勢を水平飛行に変える。

 49式の照準器の中心に巨大爆撃型を捉えつつ、高速を利して接近。

 巨大爆撃型との距離、1000メートル。

 ドンッ!!

 ハヤブサの坂東40式対装甲ライフルが火を吹き、クラックゥから装甲が剥がれる。

 クラックゥとの距離、750メートル。

 シデンコが第2の能力の瞬発力を発動させ、マッハ1.5で急接近。

 巨大爆撃型をバットで切り裂こうとするが、バットは厚い装甲に弾かれる。

 クラックゥとの距離、500メートル。

 じりじりと巨大爆撃型に接近していく。

 クラックゥとの距離、100メートル。

 49式の引き金を引く。

 曳光弾の軌跡が巨大爆撃型に吸い込まれていく。

 巨大爆撃型から装甲が剥がれていく。

 突然、巨大爆撃型が加速。

 ドンッ!!

 巨大爆撃型が音速を突破したため、マッハコーンと衝撃波が発生する。

「がっ…!!」

〈ぎっ…〉

〈…ごぷっ〉

 衝撃波で体が一瞬、バラバラになるような感覚になったが、シールドで乗り切る。

 衝撃波に切り裂かれたクラックゥの本体の一部が落ちていく。

「赤の1だ。全員、追いかけるな。帰投する!!」

〈かんなぎ、了解〉

〈紫電、了解〉

〈…黄色の25、了解〉

〈隼、了解〉

〈飛燕、了解〉

〈黄色の15、了解〉

〈緑の25、了解〉

〈青の4、了解〉

 少し前の司令部通達に従い、深追いせずに帰投する。

 最近は、クラックゥの戦略が変わってきている。

 何があっても引き返さなかったクラックゥが、引き返すようになったのだ。



@北海道共和国U109歩兵団基地―司令執務室

12月1日北海道標準時刻1055時


谷田ノリヒサ 少佐


「ふぅ~」

 前日のクラックゥ襲来に関する報告書を書きながら溜息をつく。

 第2の能力を制御することにも自分以外の隊の全員が馴れ、自由自在に操れるようになった。実戦でも使用出来る。

 だが問題なのは自分の能力がまだコントロールはおろか、それがなんなのかすらわからないままなのだ。

「…っと、まずは報告書からだな」

 あるかもわからない自分の第2の能力のことより、まずは目の前の報告書だ。


「むむ…」

 気をとりなおしてから数分後、部隊全体で攻撃に使った弾薬の数、種類の総計をMCPに外付けしたキーボードで打ち込みながら眉間に皺をよせてしまう。

 それらを昨日のうちに確認し、メモをした紙が見当たらないのだ。

 確か机の上に置いておいたはずなのだが、見当たらない。

 事務机の引き出しを上から1つづつ順番に開けていく。

 ない。

 一番下の引き出しに入れた固有魔法関連の資料の間にもない。

 制服のポケットのなかにもない。ゴミ箱の中もだ。

「ありり?」

「どうしたの?」

 首をかしげていると、ナイエがやってきた。

「いやその…机の上に置いておいたはずのメモをなくしたみたいなんだ」

「引き出しは?」

「なかった」

「資料の間は?」

「なかった」

「制服のポケットは?」

「なかった」

「ゴミ箱の中は?」

「なかった」

「ふん…」

 ナイエは一通り紛れ込んでいそうな場所を聞いたあと、顎に手をかけて考えだした。

「机の上は?」

「ない。机の上にあったら探していない」

「じゃあここね」

 執務室の入り口にいたナイエはなにやら納得したように頷き、机の上に置いていたMCPをひっくり返した。

「あったあった」

 満足そうにMCPの裏側から何かをはがすナイエ。

「ほら」

 MCPの裏側からはがしたなにかをこちらに見せてくるナイエ。

「え?そこに?」

 それは、探していたメモだった。

「あ、ありがとう」

 お礼を言いながらナイエからメモを受け取り、報告書作成に戻る。

「はぁ…」

 メモを見つけたナイエはため息をついている。

 おおかた、自分のこういったことの時の間抜けさにあきれているのだろう。

 ナイエは空戦だけでなく、こういった時もかなり有能で助かる。

 ただ、どこか胸がうずく。

「…っと。」

 頭を軽く振って意識を報告書に戻す。

 胸のうずきはおおかた古傷のどこかの痛みを脳が胸のものだと勘違いしたのだろう。




@北海道共和国―東06地区、高度4200メートル

12月1日北海道標準時刻1115時


美唄ナイエ 大尉


 タタタタタタ!!

 HK21Aの引き金を引くと、軽やかに7.62ミリNATTO弾が吐き出され、曳光弾の軌跡が軽爆撃型クラックゥに吸い込まれていく。

 クラックゥを取り囲んだ他のメンバーも射撃。

 軽爆撃型クラックゥは集中砲火を受けてたちまち胴体から伸びる4対の翼が穴だらけになり、錐揉み状態に陥る。

 ボン!!

 爆弾に誘爆したのか、クラックゥの胴体の後部が爆発する。

 仕留めたかと思いきや、突然クラックゥがブーメランのように水平のまま、機体を180度回転させた。

 そして、視界から消えた。

「こちらかんなぎ!!目標は反転、1-8-0に速度400で離脱中!!」

〈こちら赤の1。全員、追撃を許可する!!〉

「かんなぎ、了解」

〈隼、了解〉

〈緑の25、了解〉

〈…黄色の25、了解〉

〈黄色の15、了解〉

〈紫電、了解!!〉

〈青の4、了解〉

〈飛燕、了解!!〉

 全員が急速反転、クラックゥを追い始める。

 必死で逃げようとするクラックゥの尻に砲火が集中する。

 1秒と経たずにクラックゥの機体が白く光る。

 そして、白く膨らむ。

 普通ならそのままクラックゥは崩壊する。

 しかし、そうならなかった。

 クラックゥは白く膨らみ続ける。

 危険を感じて旋回。アフターバーナー点火、急降下、最大出力で離脱しようとする。

 しかし、光にあっという間に包まれる。

 身体中を危険信号が駆け巡る。

〈ブレイク!!ブレイク!!全員、光を見るな!!全速で離脱せよ!!〉

 通信機から谷田の声が響く。

 それがどこか遠くから響いてきているように聞こえる。

 しかし、強い光だ。

 体が焼けるように熱い。

 手足に力が入らない。

 目が見えなくなる。

 体から力が抜け、わずかな落下する感覚の後、意識が途切れた。


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