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第16話「日常の基地II」


@北海道共和国U109歩兵団基地―娯楽室

10月16日北海道標準時刻0920時


国分ライコ 中尉


「とりゃぁ!!烈風拳!!」

「まだまだぁ!!真・烈風拳!!」

「……漁夫の利」

「┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛」

「ぎゃあっ!!目が、目がぁ!!」

「……スタングレネードって怖い」

「味噌ランチ!!(missile launch!!)」

「ぎゃあ!!ミサイル!」

「………ミッションコンプリート」

「はぁい、マヨネーズですよ」

「ダダダダダダダダタグダグダグダグダグダグダグダグダ」

「なぬ…VP70とは卑怯なり」

「お、W18A2」

「VP70の連射ユニット……ってVP70ないから使えねぇ!」

「はい、ミッションコンプリート」

「一般ピープルだから仕方ないね」

「だらしねぇな?」

「ほい」

「なっ…何があった!!」

「……超高速で接近して連射ユニット奪ってVP70に合体させてそれで背中掻いてからVP70捨てて最後に回し蹴りをいれてミッションコンプリートしてた。」

「歪みない格闘ゲーやな?」

「……結果は結果。アイス買ってきて。」

「ちぇー」

 シデンコが立ち上がり、アイスを買いに娯楽室を出ていく。

 ちなみに、シデンコ達がやっていたのは「格ゲー。(four)」という分かりやすいんだか分かりにくいんだかよくわからない名前の格闘ゲーだ。

 このゲームはキャラクターを選んで対戦するゲームで、やたらとアイテムの種類が豊富なのとステージの多様さで割と有名なゲームだ。因みに今やっていたのは\アッカリーン/ステージで扶桑の富山県がモデルらしい。

「忍天堂Willはやっぱりコントローラーが違うなぁ」

 結局、最後はシデンコと一騎討ちで勝利したハヤブサが古ぼけたソファーに寄りかかりながらコントローラーをガチャガチャいじる。

 この「格ゲー。肆」のプラットホームである忍天堂Willは無線式のコントローラーで、棒状になっているコントローラーで、これがかなり受けて忍天堂Willは相当な人気である。

 なにしろ一時期、ライバル会社のSoNYの出しているPs-2の息の根を止めかけたぐらいだ。

「……シデンコ、動きが単純」

「未来予測の前に敵なし!」

 一番で勝ち抜けたショウコがコントローラーの電源を切り、二番で勝ち抜けたヒエンコは苦笑している。

「にしても訓練なしなんて珍しいよなー」

「本人が疲れたのでは?」

 何の気なしにつぶやくと、窓際で本を読んでいたレイコが反応した。

「いやいや、それはないでしょー」

「いや、ありえるありえる。十分ありえる」

「……レイコさん、少佐に厳しくないですか?」

「いやべべべべべつにそんなことないわよフタコ。ほら……あれ、…一般論ってやつよ」

「そんな一般論聞いたことないなぁ~」

「…同意」

「確かにそうだ」

「うんうん」

「いやだから一般論ーーー!!ハヤブサ達が聞いたことないだけーー!!」

 フタコの冷静なツッコミで窮地に立たされたレイコが叫んだ。

「北海道共和国日高市に住む自称航空機動歩兵、自称一等軍曹の山口 ハヤブサ(15)の無駄知識の山にはそういうものはありません」

「いや無駄知識に一般論が入ってたらあなたの知識の分類基準を疑いたくなりますから」

「いや入ってるよ?例えば『とりあえず格好よいネーミングをしたかったら北欧神話やドイツ語から引用すればいい』とか」

「それ一般論じゃないでしょう!」

「厨弐病患者の常識だよ?昔、教官が言っていたよ?」

「だーかーらー、一般論じゃないー!」

 がちゃり

「んっと…なにしてんの?」

「口喧嘩です」

「一般論に関するちょっとした議論です。英語だとディスカッション、またはアーギュー」

「それ口喧嘩」

部屋に入ってきたノリヒサの質問に別々の回答をするハヤブサとレイコ、ハヤブサの回答に冷静に突っ込むフタコ。

「ふーん。あ、あと、明日休暇とるから」

「へ?」

 そんなハヤブサとレイコの様子をスルーして、ノリヒサが告げた言葉に目が点になる。

「ほぇ?」

「はぃ?」

 一瞬遅れてハヤブサとヒエンコが首を傾げる。

「……?」

「はひ??」

 さらに一瞬遅れてレイコとショウコも首を傾げる。

 この部屋にいるノリヒサ以外の全員が首を傾げてノリヒサの顔をまじまじと見ている状態だ。

 バサバサバサ

「買ってきた…………ってなんなんだ…?」

 アイスを抱えてやって来たシデンコが入り口でアイスを落とし、戸惑った表情で立ち尽くしている。

 うん、その感覚は分かる。というかシュールだろう、きっと。



@北海道共和国U109歩兵団基地―本部棟屋上

10月16日北海道標準時刻2142時


国分ライコ 中尉


「うにゅう……」

 昼間、ノリヒサによる激しい訓練がなかったせいか、眠れないので星でも眺めようかと本部棟の階段を昇る。

 目的地は本部棟の屋上だ。

 階段を上りきり、屋上に続くドアのノブに手をかける。

「あれぇ?」

 こんなんだったら昼間に「あの日見た木の名前を僕らは知らない」を二戸堂チャンネルで観るんじゃなかった……。とか割とどうでもいいことを考えながら外開きのドアをそーっと開けると誰もいないと思っていた屋上に人がいた。

 赤く点滅する管制塔の航空警戒灯に照らされた屋上のレーダーの台の足元に二人。

 ナイエとノリヒサだ。

 二人はなにを言うともなくレーダーの台にもたれ掛かっている。

 周囲には沈黙が漂い、自分の鼓動が大きく聞こえる。

「ぎゃうん!!」

 が、バランスを崩し、外開きのドアとともに屋上に突入してしまう。

「あのね……ってわぁ!」

 何かを言おうとしていたナイエが派手にびっくりした。とても驚いた。なぜか言い直したがそれくらい驚いた。しーしーむずびーべりーさぷらいずど。

 とりあえず驚いた。

「こんばんは、少佐、美唄さん」

 このまま退却してもよかったのだが、「夜風に当たる」という当初の目的がそれでは果たせないのでとりあえず挨拶をしながらナイエたちの方に歩いていく。

「こんばんは、どうしたのかしら?」

 薄めのセーターを着たナイエがレーダーの台に寄りかかったまま尋ねてくる。

「寝付けなかったので。横、いいですか?」

 軽く肩をすくめながら尋ねる。

「いいわよ。」

 トコトコと歩いていき、管制塔の壁に背中を預ける。

 再び、沈黙が辺りを支配する。

 少し、気まずい。

「少佐は、なぜ戦うのですか?」

 気まずくなってきたのでレーダーが設置されているコンクリートの台に寄りかかっているノリヒサに尋ねる。これがもはや映画の中だけでしか見られなくなった銃撃戦のさなかだったらどれだけ絵になったことだか。絵になるか?

 だめだ、自分で言っといてそれはない気がしてきた。

「うーん、なんなん………だろうな……」

 珍しく困った様子のノリヒサが遠くを眺めながら答える。

「……わからない」

 肩をすくめながら答えるノリヒサ。

 その口調には、ハヤブサに「真面目と間抜けが服を着て歩いている」と言わしめたノリヒサにしては珍しく、どこかふざけているような響きがあった。

「そうなんですか……」

 レーダーの上、市街地から離れたというか周囲に人家のあまりない場所にある故、明かりが少ない分、よく見える星空を眺めながらつぶやく。

「あぁ、そうだ。ライコはどうなんだ?」

 すると、ジャージの上に坂東空軍――正確には坂東帝国軍航空戦闘部――の士官向け冬季制服を羽織ったノリヒサはいつの間にかこちらを向きながら聞いてきた。

「私は………なんというか、憧れですね。住んでた町をクラックゥに追われた時、航空歩兵の方たちを見てて『あぁ、あんな風にみんなを守れるようになりたい』って思ったのが原点ですかね。だから適性があるって分かった時は『これで私もみんなを守れる』ってうれしかったですし」

 あれは……7……いや、8年前のことだったか……。まあいい、私にとってはまるで明日……じゃなくて昨日のことのようにその日の光景は鮮明に覚えている。

 クラックゥの攻撃を受けて眼下で崩壊する故郷。

 自分たちを乗せて全速力で街から離れる九州連邦共和国航空軍のCH-53E輸送ヘリと陸上軍のMi-26輸送ヘリ改などと、護衛のKa-52やMi-28などの雑多な輸送ヘリと攻撃ヘリの編隊。

 そして、そのヘリの編隊をねらって放たれたクラックゥの攻撃をシールドで防いでくれた航空機動歩兵。

 それが、一人の軍人、いや、九州連邦共和国桜島学園臨時政府航空軍第10歩兵団所属の航空機動歩兵、国分ライコ中尉の原点であるのだ。

「そうか………」

 再び遠くを見つめ始めたノリヒサがつぶやく。

「そうなんですか~」

「「「ハヤブサ!?」」」

 いつの間にかハヤブサが屋上の入り口に立っていた。

「いつからそこにいた!」

 ハヤブサのあまりに空気を読んでいない発言にシリアス分を抜かれ、すっかりいつものテンションに戻って尋ねると、

「航空歩兵……のくだりからです」

 と、妙に暢気な回答が返ってきた。つまりどこからだ?タグ:なるほどわからん。

「じゃ、じゃあハヤブサはなんで戦うのさ!?」

 なぜか語尾に!マークと?マークを着けて聞き返す。

 いかん、ちょっと暴走してきた。誰か止めてくれー!!

 と、認識できているうちは大丈夫だ。問題ない。基準値を越える暴走が検出されたが直ちに健康に影響がなくこのような状態が数年続いたとしても健康に影響は………あるな。疲れるな。

「戦う理由……ですか、私が航空歩兵になりたてのころに指導してくれた坂東の司令官、いや司令官候補生の方の『人は一人では生きてゆけない、集団で生きていく生き物だ。だから、自分の力を多くの人のために活かしてゆくべきだ』という言葉です。急降下攻撃の基礎もその方が考案しました。たしか名前は………枕崎シュウ一等士官候補生――いや、少尉です」

「枕崎か……って枕崎!?」

 ノリヒサがサラっと流しかけたが、一瞬の後にものすごい勢いで反応した。反応した。

 大事なことではないのに二度言いました。なぜに?それは誰も知らない。加美の味噌汁である。誰?まあ作者のみぞ知るである。誰かは知らないけど。ああそれが加美さんか。でも確か作者は快速ナイトネリウム53号さんだった気がする。じゃあ快速ナイトネリウム53号のみぞ知るか。

「枕崎少尉ですか……元気ですかね」

 対空機銃を設置するスペースの囲いに寄りかかり(対空機銃はない)、夜空を眺めながら白い何かを吐き出しているハヤブサが懐かしそうにつぶやく。白い何かはエクトプラズムではなくて主に水分です。

「まぁ、元気にしてるよ。昇進して今は大尉だけど。一旦は第7分隊を離れてたけど今は自ら志願して第7分隊にもどってるけど」

「知り合いなんですか?」

「多分…ね」

 そう言ったノリヒサの横顔はどこか寂しそうに見えた。

 その横顔を見ていると、この人は、実はかなり孤独なのではないかという気がしてきた。


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