第15話「夜間の基地」
@北海道共和国U109歩兵団基地―国分自室
10月15日北海道標準時刻2130時
国分ライコ 中尉
「疲れたぁ…」
自分の部屋に入り、よろめきながらベッドに倒れ込む。
「はぁ……まだ『A・C~攻強皇国☆機甲~』も『全能の火山神』も全くやってないなぁ…」
机に置いた本体とモニターが一体化したタワー型パソコンをちらりと見る。
第2の能力がらみの特訓が始まってからパソコンは一回も起動させていない。
たいがいは昼間のノリヒサの猛特訓の疲れで部屋に帰りつくや否や眠り込んでしまっているのだ。
「久しぶりにつけるかぁ…」
パソコンを置いた机の前にある椅子に座り、電源を入れる。
メーカーのロゴが表示され、『起動中…(´・ω・`)』の表示とともにインジケータが満たされていく。
「よしっと、起動~」
画面がデスクトップに切り替わり、アイコンが表示される。
そのなかからインターネットアドベンターのアイコンを選び、クリックする。
『お気に入り』から『九州連邦共和国桜島学園臨時政府航空軍機動歩兵交流掲示板』を選び、ログインする。
すると、画面にずらりと文字が表示される。
そのなかから『チャットルーム:航空機動歩兵育成学校1147年卒業生』というチャットルームを選び、ログインをもう一回して入る。
(時刻は九州標準時刻)
name:日向 2050時
おなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいた
name:奄美 2050時
自重してください。
自重してください。
大事なことなので二度言いました。
name:角灯 2051時
>>自重してください
日向のはどうしようもないかと。
そろそろ慣れよう。
というか国分が最近来てない件について。
name:阿蘇 2052時
>>自重してください
もはや8年目。どうしようもない
>>国分が最近来てない件
用事があるのかと私は推測します。
name:日向 2053時
>>自重してください
わかりました、自重します。だが反省はしない。
>>用事があるのかと私は推測します
まさか・・・・・・怪我したとか?
name:阿蘇 2053時
>>まさか・・・・・・怪我したとか?
怪我じゃなくて静電気でパソコン壊したとか。
あと怪我は用事に入らないかと
name:角灯 2053時
静電気でパソコン壊すのはムリダナ(・×・)
name:奄美 2054時
それをやっちゃうのが国分。
というか一回やったし。
name:日向 2055時
むしろ基地の無線壊しちゃったとか。
日高だっけ?
name:角灯 2056時
>>日高だっけ?
確かヒダカアローズだと。
日高市にあるが日高の市街地からは離れてるはずだけど
name:阿蘇 2056時
ちょっくらコンビニいってくる。
name:角灯 2056時
>>ちょっくらコンビニいってくる。
守秘義務違反では?
name:奄美 2057時
>>守秘義務違反では?
問題ありません。内部のチャットなので
あまりほめられたことではないですが。
name:日向 2057時
というかコンビニいってくるだと部外者にはよくわからんよな
name:角灯 2057時
>>というかコンビニいってくるだと部外者にはよくわからんよな
同感。
激しく同感。
name:奄美 2058時
>>というかコンビニいってくるだと部外者にはよくわからんよな
そりゃそうだ、隠語なんだから。
仕方ないね。
というか部外者に分かったら隠語の意味ないし。
name:日向 2059時
>>ちょっくらコンビニいってくる
隠語だから恥ずかしくないもん!!(笑)
こんな時間帯に出撃なんて新潟も大変だね
name:奄美 2059時
>>こんな時間帯に出撃なんて新潟も大変だね
それは九州もたいして変わらんだろ。
最近、襲来増えてるし。
北 海 道 は 寒 い か な
name:角灯 2059時
>>北 海 道 は 寒 い か な
国分、風邪注意。
と、打とうとしたら間違えて国分風邪中尉ってなった(笑)
name:奄美 2100時
>>風邪中尉
そういや国分は中尉のはず。
自分もだが。
というか国分は風邪なのでは?
そこまで読むと、キーボードを叩き、チャットに参加することにした。
name:国分 2100時
>>というか風邪なのでは?
>>まさか・・・・・・怪我したとか?
いえ、健康体です。
最近、訓練で忙しかったから・・・
すると、すかさず反応が返ってきた。
name:角灯 2100時
>>国分
久しぶりダナ。
訓練って?
name:日向 2100時
>>国分
風邪じゃないんだ。
そっちはどうよ?
name:奄美 2101時
>>国分
無病息災のようですね。
name:国分 2101時
>>角灯
主に体力。
あとは固有魔法の応用。
>>日向
相変わらず。
戦況はお世辞にもいいとは言えないし、けっこう寒くなってきた。九州の暖かさが恋しい。
寒冷地仕様じゃなかったらSAKURA-14Cも不具合の一つや二つも出そうな感じだ。
>>奄美
無病息災です。
けど風邪には気をつけなければ・・・
リアル風邪中尉になったら困る。(笑)
ジリリリリリッ!!
そのとき、サイレンが鳴った。
「敵襲!!」
部屋を飛び出す。
もちろん、パソコンをスリープモードにしてから。
@北海道共和国U109歩兵団基地―男湯
10月15日北海道標準時刻2300時
「ふぅ…」
湯船にどっぷりと顎まで浸かる。
すると、湯船の縁から湯が溢れ、風呂の床を濡らす。
結局、クラックゥは分裂型が単機、分裂しかかったが、ハヤブサの40式がぎりぎりでコアを破壊して撃墜した。
「明日の訓練は何をするか…」
天井の電灯を眺めながら考える。
ライコは多少の不安があるが、おおむね使いこなせるようになってきた。
ハヤブサはまだ座標指定に難があるが、1ヶ月ぐらいやればなんとかなるだろう。
シデンコはもともと運動が好きなだけあって、上達もなかなかに早く、この調子ならあと1週間ぐらいでものになりそうだ。
ショウコ、ヒエンコ、ナイエはもともと無意識下で使っていただけあって固有魔法も同然ぐらいの扱いである、
レイコは治癒魔法で、余り試す機会がないが、固有魔法の復元魔法と扱い方は同じなのであまり問題はないだろう。
フタコの錬金術もそれなりに慣れてきて、とりあえずアルミニウムをジュラルミンにするぐらいまでできるようになってきている。こちらも無意識のうちに使っていたようなので問題はないようだ。
「ふ…」
それぞれの問題点を考え、対応策を考えていると、思わず笑みがこぼれた。
半年前だったら今のような状況は想像もできないだろう。
航空機動歩兵として空を飛んでいること。
女性8人と一つ屋根の下で暮らしていること。
他人にここまで積極的に関わっていること。
――坂東のクラックゥの巣を破壊して、まだ生きていること。
半年前ならば想像もできなかっただろう。
思えば、あの頃は坂東のクラックゥの巣を破壊したときが自分の死ぬときだなんて勝手に決めつけていた。
坂東のクラックゥの巣を破壊したら谷田大尉が一気に谷田中佐になるときだと信じ込んでいた。
あるいは、谷田中尉が一気に谷田少佐か。
事実、一気に谷田中佐になりかけたこともあったが…。
あの時、破壊されたのはクラックゥの巣ではなくて自分の勝手な思い込みと呪縛なのかもしれない。
あの時吹っ切れた気がしたのはそれなのかもしれない。
「……っと」
軽く頭を振り、そういった考えを頭から追い出す。
とりあえず考えるべきは、訓練のメニューだ。
@北海道共和国U109歩兵団基地―女湯
10月15日北海道標準時刻2300時
「ふう」
湯船に入ると、アルキメデスの法則に従って体の体積ぶんの湯が溢れ、湯船の縁に置いておいたタオルを濡らす。
どっぷりと浸かると、体のあちこちの筋肉がほぐれていくのが分かる。
「さて、明日はどうしようか…」
ライコはまだ難があるが、数日でなんとかなるだろう。
ハヤブサは思い通りの場所にシールドを張るには訓練が必要そうだ。
シデンコは瞬発力を完全に使いこなすにはもうしばらくかかりそうだ。
他は特に問題なさそうだ。
ただノリヒサの第2の能力がまだ明らかでないことだ。
そちらの方はまあ、これからも探っていくことになるだろう。
「…変わった」
思わず自嘲にも似た笑みが漏れる。
前の自分ならこんなことは考えなかった。
訓練のメニューもせいぜい今日明日ぐらいしか考えず、長期的な計画なんかしなかった。
それこそ、明後日や明明後日がないかのように。
もしかしたらあの時の衝撃から立ち直れてなかったのかもしれない。
いや、航空機動歩兵になってからはもう少し、未来のことを考えていた気がする。
いつから明後日や明明後日のことを考えなくなったのだろう。
わからない。
では逆にいつから明後日や明明後日のことを考えるようになったのだろう。
…半年前?
いや、半年前はそんなこと考えようとも思わなかっただろう。
…5ヶ月前?
いや、違う。
…4ヶ月前?
いや、やっぱり違う。
…3ヶ月前?
いや、まだ違うだろう。
…2ヶ月前?
そうかもしれない。
ノリヒサが転属してきてからだ。
何故だろう。
行き詰まりを感じたから?
違うと思う。
クラックゥがだんだん強くなってきたから?
それはあるかもしれないが、違うと思う。
ノリヒサが人類による初めての成果を収めた反攻作戦のアシカガ作戦の考案者の一人だったから?
あまり関係な……いのだろうか?
わからない。
わからない。
自分のことは自分が一番わかっているはずなのに。
わからない。
何故だろう、否定できない。
わからない。
「…っと」
思考が堂々巡りになりかかってきたので、風呂から上がろうと湯船の縁に手をかけて立ち上がったらよろけた。
のぼせてきてたらしい。