第14話「衝撃の基地」
@北海道共和国U109歩兵団基地―娯楽室
10月10日北海道標準時刻1015時
国分ライコ 中尉
「少佐は多分、そう、この戦いの核心に触れる何かを握っていると思うんダヨネー」
謎の金属によるひと騒動の後、各自フリータイムとなり、報告書を書くナイエとノリヒサ以外がなんとなく一団になって自室に帰る途中、ヒエンコがぼそりとつぶやいた。
「なら簡単な方法があるじゃないか~」
そのつぶやきにすばやく反応したのはハヤブサである。
「直接聞き込みにいったりしないでくださいね……」
危険な香りを鋭く感じ取ったフタコが一応制止をするが
「直接聞き込み!?その手があったか!」
逆に刺激してしまったらしい。
「でもまぁ、今聞き込みしても多忙を理由にあしらわれるかもしれないからさ、昼食の時に聞いてみようよ」
すると、ハヤブサが珍しく常識的な案をだした。
「これから質疑応答の練習をしようと国分は国分は提案してみたり」
「よぅし、やるおー」
とシデンコ。
「…………賛成」
珍しくショウコがしゃべった。
「「シャ、シャベッタァァァァァァァァ!」」
ハヤブサとヒエンコの声が珍しく綺麗にハモった。
「あの………やっぱ止めた方がいいのでは……」
フタコが制止するがスルーされた。
@北海道共和国U109歩兵団基地―食堂
10月10日北海道標準時刻1220時
国分ライコ 中尉
「「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」」
昼食が始まった。いつもだったら同時に他愛のない雑談が始まるところだが、今日は違う。
「少佐、単刀直入に質問してもいいですか?」
初めに切り出したのは作戦(?)の立案者であるヒエンコだ。
「ん?ああ、質問にもよりけりだけどね」
ご飯の茶碗を持ち上げながらノリヒサが答える。
「わかりました。では質問します。谷田少佐はこの戦いの核心に触れることを知っているでしょう」
ヒエンコが立てた作戦に通りにシデンコがいきなり畳み掛けるように断定形で質問をする。
「………………」
ノリヒサは沈黙している。
「………………………………………………………………………」
フタコも、ヒエンコも、ハヤブサも、レイコも、シデンコも、そして作戦には関係のないナイエさえも沈黙を守る。ショウコはいつも通りだとも言えるが。
こういうとき、沈黙は有利に働く、とフタコが分析していた。相手が空に上がった時のノリヒサだとそれが通用するかわからないが、表情を見るかぎり普段のノリヒサのままである。
「………分かった。これはいつか伝えなければならないと思っていた」
やはりノリヒサは沈黙に勝てなかった。
なぜかナイエに目配せをしてから話を切り出す。
「これはイチコから聞いた話なんだが――日本連合軍北海道方面軍第3航空集団第109歩兵団、通称“ヒダカアローズ”、軍内だとアローズ隊、つまりここには――何らかの特殊体質、………おそらく固有魔法が二つある人間が集まっていて、それが遠くない未来に起こる最終決戦……たぶん東北のクラックゥとの時、戦いの明暗を分けるらしい」
いつのまにか空に上がった時のように冷たい雰囲気になったノリヒサはかなり突拍子もない話をし始めた。
「………………」
フタコも、ヒエンコも、ハヤブサも、レイコも、シデンコもショウコもぽかーんとして黙り込んでいる。ナイエは知っていたのか表情に変化がない。
「つ、つまり私たちにはそういった何かがあるということでしか?」
沈黙を破ったのは意外にも自分だった。すこし噛みぎみなのは仕方ないね。
「まあ、そういうこった。」
「にゃ、にゃら証拠をみせなしゃいよ!」
かなり噛みながらレイコがノリヒサに噛み付く。噛んでるんだか噛み付いているんだかよくわからない。
「証拠?なら簡単だ。ナイエは全方位三次元エネルギー感知、シデンコは瞬発力、ショウコは無限弾倉、ヒエンコは未来予知、ハヤブサは指向性シールド、フタコは錬金術、レイコは治癒魔法、ライコは電撃だ」
「「「「「「「へ?」」」」」」」
流石に唐突な話にナイエ以外のそこにいた全員の目が点になる。
「いわゆる"第2の能力"と呼ばれるものよ」
どうやら話の一部を知っているらしいナイエがフォローを入れた。
ちなみに、“第2の能力”とは第2固有魔法とも呼ばれているもので、2つ目の固有魔法があるのではないかという概念だ。
しかし、その概念は否定されたのではなかったか?今ではオカルト扱いの物だった筈だ。
ハヤブサに「現実主義が服を着て歩いている」と評されたノリヒサやナイエがオカルトを信じるとは考えにくい。
「じきに説明しなきゃいけないとは思っていた。というわけで、午後からは第二の能力を扱う訓練を開始する」
妙に張り切った(ように見える)ノリヒサが宣言する。そういやこの人が張り切っているのって初めて見たな。まああまり感情が読めない人だけど。こんなのをラノベの主人公に据えたら作者は苦労するだろうな。
「「「「「「「げぇぇー」」」」」」」
食堂にナイエ以外の全員の悲鳴がこだました。いやこだまはしてないか。響いただけか。
あとナイエの目が妙にキラキラしていた。気のせいだと信じたいが。
@北海道共和国U109歩兵団基地―資料室
10月10日北海道標準時刻1630時
国分ライコ 中尉
「ふぇぇ……」
自分のMCPを机に置き、目尻をぐりぐりと揉む。
「こんな資料、よく手に入りましたね」
ノリヒサから渡された資料に目を通したハヤブサが感心しながらノリヒサに話しかける。
「少佐や美唄さんにもツテぐらいあるでしょう。研究所とか育成学校あたりに」
「いや、特にツテはない。いわゆる第2の能力とかの研究は1136年のいわゆる『先山レポート』で否定されて以来、予算は凍結されている。さらに、成功した事例があったとしても失われた系統とセットのものだったら――それこそ一大事だ。公表されてない可能性が高い」
フタコの台詞をすぐさま否定するノリヒサ。
ちなみに、『先山レポート』とは、日本列島暦1136年に東北国立大学の研究者、先山ハヤタ教授によって発表された論文で、魔力の発現が基本的に思春期少女に限定され、20歳前後で減衰が始まり、最終的には1年ほどでほぼ消滅すること、魔法粒子は二酸化炭素と反応して二酸化炭素を酸素と炭素に分解させることなどを証明したことで有名な論文だ。
そして、その論文で証明されたことの一つに、『固有魔法は遺伝子の組み合わせによって発現し、一人につき1種類しか発現しない』ということがある。
これは、各地で進められていた第2の能力、つまりは複数の固有魔法を持たせるための研究に大きな影響を与えた。
有り体に言えば、論文の発表により、全部頓挫した。
初めは陰謀説なども囁かれたが、その科学的かつ統計的な実証に裏付けされた理論はほぼ正確で、1140年ごろには第2の能力関係の研究は終わった。
その結果、現在においては第2の能力関係のものはオカルトの領域扱いだ。
また、失われた系統の魔法とは1137年~1145年にかけて行われた遺伝子の調査の結果、理論上は存在するはずなのだが、現在、存在してない固有魔法のことだ。
「じゃあどこから…?」
「江戸川少尉からだ。あと、第2の能力絡みのことだが――あれは恐らく、この世界に本来存在してはいけないものだ。だからこのことは口外禁止だ」
「わかりました」
いつもなら茶々の一つでも入れそうなヒエンコが珍しく神妙に頷く。
「てことはつまり、これはそれはそれはとてもデンジャラスでジャム国家の事務がジャムっちゃう可能性が高いような事態なんですか?」
「ハヤブサ、日本語でおk。というか英語でしゃべるか日本語でしゃべるかドイツ語にするかスワヒリ語にするか一定にしよう。」
暴走しかけたハヤブサにフタコがツッコミを入れる。
「スワヒリ語って…」
休憩といわんばかりにMCPを置き、立ち上がるシデンコ。
「さって、アイスでも食べるか。ショウコも食べる?」
「………………(コクリ)」
「よし、じゃあ食べるか」
そういって、おもむろに立ち上がり、シデンコがアイスクリームを取り出す。
ズボンのなかから。
見間違いでなければパンツに挟んでいた。
「って!!どこから出してるんですか!!」
一瞬、違和感なくスルーしそうになるが、慌ててツッコミを入れる。
「え?ズボンのなかからだけど?」
『それゆけ!!我らがヒーロー、SAS団!!ネバレ!!水際迎撃の友達、まじかる☆88式地対艦誘導弾!!我らが無敵のオーランド国防軍!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』というSASはイギリスだろとか88式じゃあ対艦ミサイルないだろとかオーランドってどこだよとかもはやツッコミをどこに入れるべきか迷う名前のアイスをズボンのなかから取り出したシデンコが首をかしげる。
「少佐、何か注意を…」
「わかった」
MCPで何やら作業をしているノリヒサに助け船を求めると、ノリヒサは作業の手を止めた。
「遠軽中尉、」
「はい?」
「…資料室では、飲食禁止。あと、煙草は20歳から」
「そっちかい!!」
ノリヒサのピントずれまくりの注意に思わず立ち上がってしまう。
ノリヒサって、実はかなりの天然なんじゃないんだろうか。
「資料室では静かに」
「あ…はい……」
思わず熱くなっていた自分に恥ずかしくなってしまう。
「いや、注意するポイントがずれてますよ…」
ようやくヒエンコが思い出したようにノリヒサにツッコミを入れる。
「あ、そうか、とりあえず訓練の内容を頭に入れて」
「だめだこりゃ…」
だめだ、ノリヒサはやっぱり天然だ。