第13話「ガサゴソの基地」
@北海道共和国U109歩兵団基地―食堂
10月10日北海道標準時刻0800時
国分ライコ 中尉
「ふぁぁ」
食堂の椅子に座りながらあくびをする。
昨日――いや、日付が変わった後だから今日か――は深夜放送のアニメを観ていたので夜更かしをしてしまったのだ。
ちなみに観ていたのは「坂東☆ハイスクール」という坂東などで少し前に(一部で)流行ったアニメの再放送である。
この「坂東☆ハイスクール」は主人公の担任教師の特徴的な口調が話題になったのである。
そんなことはおいといて、朝食を食べることにする。
食堂の端にあるポットまで歩いていき、その脇にあるインスタント味噌汁のカップにお湯を注ぐ。
そのカップを右手に持ちながらカウンターまで歩いていき、味噌汁をいったんカウンターに置いてから炊飯器からご飯を茶碗によそう。
右手にご飯、左手に味噌汁を持って席につく。
「いただきます」
手を合わせてから箸を手に取り、朝食を開始する。
ふと見回すと、上の階にある自室から降りてきたハヤブサやフタコも自分の分の味噌汁を注ぎ、ご飯をよそっている。
「あれ、少佐は……?」
そんないつもののどかな朝食の場を破ったのはフタコの疑問25%驚愕5%憂鬱5%退屈15%くらいが混ぜられた声であった。のこりの60%はよくわからない何かである。キャパ越えしているのを気にしたら負けだ。よくわからない何かは主に窒素約80%、酸素約20%とその他諸々の気体からなる混合物である。要は空気である。
全然よくわからないものじゃないとは言ってはいけない。あるいは暴走して分裂した末に消失したのかもしれないが。涼宮ハルヒかよ。
「そういえば朝練にも出てこなかったし、風邪でもひいたのかしら?昨日は普通にしていたけど」
「まっさかナイエ~少佐に限ってそんなことはないよ~」
ナイエの疑問をあっさり否定したのはシデンコである。
「…………(コクコク)」
とショウコ。
「同感」
とヒエンコ。
「そーだそーだ~」
とハヤブサ。
「私も……そう思います…」
とフタコ。
「まぁ、寝坊でもしてるんじゃないの?」
とレイコ。
まあ、少佐の場合は風邪はひかなそうだ。あ、いや、馬鹿というわけでなく体が頑丈そうだという意味で。
「神は言っている『なら後でチェックしにいけばいい』と」
と言ってみた。
そしたらとりあえずその場の混乱は収まった。………多分。
いやそもそも混乱なのか怪しいが。
@北海道共和国U109歩兵団基地―谷田自室
10月10日北海道標準時刻0830時
国分ライコ 中尉
ガンゴンガンゴン
「少佐ぁ、あけてくださぁい。」
ハヤブサがノリヒサの部屋のドアを叩きまくる。
「ハヤブサさん、もうちょっと静かにしましょうね。」
それをやんわりと注意するナイエ。
「でも美唄さん、気付いてないみたいですよ、少佐」
ドア叩きを中断して振り返るハヤブサ。
「あぁもう、ちょっち下がってろ」
そう言って使い魔と融合した証として髪を金髪にしたシデンコが前にでる。
「シデンコ、ちょっとまtt……」
「どぅりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「………シデンコさん、」
ナイエのものごしが一気に、丁寧なものになった。いやなんか怖いんですが。
「うん?」
そんなナイエにいつもと変わらないテンションで答えるシデンコ。ある意味大物かも。
「……あとで修理しておいてくださいね。あと始末書も」
やけに怖いナイエが丁寧に注意する。
「分かってる分かってる。レイコに後で直してもらうから。」
「で、少佐は?」
ハヤブサの声につられて部屋をのぞきこむ。
そこには探偵ものの定番の胸をナイフで刺された死体もはたまた風邪をひいて寝込んでるノリヒサもいなかった。いやいたら困るんだけど。
ただ、机に向かってひたすらに本を読んでいるノリヒサがいた。
「少佐?」
呆れと驚きが混ざった沈黙を破ったのはハヤブサであった。
「谷田少佐…大丈夫ですか?」
とフタコ。
「モシモ~シ?」
とシデンコ。
「あの~?」
とヒエンコ。
「………あの…………」
とレイコ。
「……すみません」
とショウコ。立ったまま眠って。
「ぽぽぽぽ~ん」
声をかけるだけではらちがあらないと判断したハヤブサがノリヒサの脇に歩いてゆき、擬音語とともに肩をたたいた。擬音語というより魔法の言葉だが。どんな魔法だ。また「坂東☆ハイスクール」ネタですよ。はぁい。
というか私のコメントがまだなんですが。
「はわわっ!なんでハヤブサここにいるの!?」
どうやらドアが破壊されたことにすら気付かなかったようだ。しかし、レイコが修復魔法でドアを復元しているのを見て何があったのか理解したらしく、
「…………まぁいいや。で、みんなそろってなんか用?もう夕食後だよ?あと、ドアは破壊するまえにノックしてよ」
どうやらドアがノックされていたことにすら気付かなかったようだ。
「べ、別に心配で来たんじゃないんだからっ!」
あえてツンデレ風に自爆してみた。
「…………………………」
反応に困ったらしくノリヒサは頭をぽりぽり掻いている。気まずい沈黙が辺りをつつむ。
「………もう朝ですよ。」
まるで腹のそこから絞り出したような声でようやく気まずい沈黙を破ったのはヒエンコであった。
「え!?」
「「「「「「「「え゛」」」」」」」」
どうやら朝になっていたことすら気付かなかったらしい。
「そ、そういえば荷物がそろそろ届く頃じゃない?」
流石にそれはないだろ。いくらなんでも鈍感過ぎるだろ。というような空気が流れ始めたのを鋭く感じ取ったナイエが慌ててフォローを入れた。
「あ、そうだそうだ。密林さんと虎の穴から荷物が届くんだ。」
すっかり頭から抜け落ちていた。
ちなみに今日届くのは主にゲームである。一応年齢制限なしの。
@北海道共和国U109歩兵団基地ー谷田自室
10月10日北海道標準時刻0859時
第3者視点
突然、机の上のミスリルのインゴットが青い光を放ちだした。まるで、魔力を放出するかのように。
@北海道共和国U109歩兵団基地ー娯楽室
10月10日北海道標準時刻0900時
谷田ノリヒサ 少佐
「A・C(攻強皇国☆機甲)初回限定版が届いた~!しかも『全能の火山神』も届いた~!」
「そんなに買って大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。いちばんいいゲームを頼む」
そんな会話をライコと交わす。
そして窓の外に広がる青い空と海の水の色に目を移す。
「願わくばまた会うときは平和な世でありたいことだ」
ふと、坂東を出る前に士官学校以来、比較的親しくしている枕崎に言われた言葉を思い出す。
もっとも、その時がいつ来るかはわからない。
もしかしたら平和な世界は永久に来ないのかもしれない。
そもそも、平和な世界がどんなものかなんて想像ができない。
生まれたときからクラックゥがいる世界が当然だったし、自分がそれと戦うようになってもう10年経っている。
「肩がこったな……………風呂にでも入るか……」
風呂は基地内にある。もともと女湯だけしか設置されてなかったが着任した際に間仕切りを設置して男湯も設置されるようになった。
そういや昨日は風呂に入ってない。
腕を軽く回しながら、娯楽室を出る。
@北海道共和国U109歩兵団基地ー娯楽室
10月10日北海道標準時刻0915時
国分ライコ 中尉
「どうわわわわっ!こらまて、私のゲームッ!」
ドフンッ!
慌てて娯楽室を飛び出したところで、おもいっきり何かにぶつかった。
「どうわわっ!ライコさん、どうしたの?」
ぶつかった相手はナイエだった。
「ゲームが……」
ナイエの問いかけにそう答えて廊下の先を指差す。
そこには青い光を放つ立方体とゲームが浮かび、角を曲がるところだった。
「とりあえず追いかけましょう」
妙に焦った様子でナイエが走り出す。
その背中を慌てて追いかける。
@北海道共和国U109歩兵団基地ー廊下
10月10日北海道標準時刻0915時
美唄ナイエ 大尉
軽く腕を回しながら廊下を歩く。
ノリヒサの押印が必要な書類があったのでノリヒサを呼びに娯楽室に行く途中である。
(第二の能力についてコントロールにはおそらく訓練が必要ね………訓練のメニューは……ってなんだか思考回路がノリヒサににてきた気がする………)
口には出さずにいろいろと考えながら娯楽室の手前まで来る。
ドフンッ!
娯楽室ののドアを開けようとした瞬間、中から飛び出してきた誰かとぶつかる。
「どうわわっ!ライコさん、どうしたの?」
「ゲームが……」
ふるえる手でライコは廊下の先を示す。
そこには、青く輝くインゴットと、ゲームのパッケージが二つ。
インゴットは紛れもなくミスリル化したフタコの私物である。
「とりあえず追いかけましょう」
ライコに呼びかけ、ミスリルを追いかけ始める。
@北海道共和国U109歩兵団基地ー遠軽自室
10月10日北海道標準時刻0916時
遠軽シデンコ 中尉
「どわわわっ!」
野球年鑑やバットが猛烈なスピードで飛び交う。
ここは自室のはずである。
が、戦場と化している。うっかりすると飛んできたバットに殴られてあの世行きになりそうだ。
少し前に突然本やバットが浮き上がりだし、たちまちのうちに飛び交い始めたのである。
部屋には結構な量の本があるのでそうなると大変である。しかも重い本が多い。
「どっ………わわわわっ!?」
気が付くと、自分まで宙に浮かんでいる。
「よっこいせっと」
手をばたばた振り回すと、ゆっくりと体がドアの方へと動いた。
ぢたばたぢたばたばたばたばたばたと手を振り回し続け、かろうじてドアまでたどり着く。
外にでるとストンと尻から地面に落ちる。
「いてててて……」
尾てい骨に響いた。尾てい骨は打つと意外に痛い。
「シデンコさん!どうしたの!?」
「いや……急に浮かんでしまってな…」
「そぅなの。ってあ~まて~」
そしてちょうど外にはナイエとライコががいたが、突然、何かを追いかけるかのように急に走りだしていった。
「追いかけるか!」
何があったのかよくわからないがとりあえず追いかける。
尻が痛いままなので尻を押さえながらだが。
@北海道共和国U109歩兵団基地―娯楽室
10月10日北海道標準時刻0930時
美唄ナイエ 大尉
「で、結局谷田少佐以外は全員集合というわけね。谷田少佐は?」
その後、基地を半周したところでノリヒサ以外の全員が集合してしまったので一旦、娯楽室に集合して、作戦会議をすることになった。
「で、敵はなにものなんだ?」
性急そうに聞きだしたのはシデンコである。
「よくわかりませんが、とりあえず、青い光と魔力を放って浮遊するインゴットだと思われます。」
さすがにここで情報をすべて公開することはできないので、最低限の特徴だけ伝える。
「つまり、変な浮遊する物体を見つければよい。ということだな。」
めんどくさそうにシデンコは頭を振って答える。
「まぁそうね。で、ライコさん、谷田少佐とは連絡をとれたかしら?」
「無理です。所在も不明です。」
本音を言えば基地内放送で呼び出したいのだが、そこから変に話が漏れるのも困る。
そのとき、フタコが握っていた魔力探知器に反応が出た。
「魔力反応。位置……消えました」
ジリリリッ!
フタコの声を遮るようにサイレンが鳴る。
「こんな時に敵襲っ!?」
一気に振り返り、スピーカを見上げる。
〈敵は小型クラックゥ単機。現在、南04地区を北上中〉
それに呼応するかのように管制室からの放送が入る。
「シデンコとショウコは出撃!魔力の影響で飛行鞄の魔導エンジンが損傷しないように注意。その他は地上にてインゴットの捜索!」
すばやく指示を出す。
「「了解」」
基地のWエースであるシデンコとショウコが部屋を飛び出す。航空小型単機ならそれだけで十分だ。
「ああもう、谷田少佐は一体何をしているの!?」
レイコはあまりの苛立ちに喉を掻きむしりだした。
「魔力探知器に高魔力反応!」
「急いで!行くわよ!」
廊下に飛び出し、本部棟に入ると、前方に青い光が見えた。
「二手に分かれて挟み撃ちにするわよ!」
後ろに向かって呼びかけるとヒエンコたちが離脱していくのがわかる。
しばらくの間、そこそこの速度でミスリルを追いかける。
やがて、住居棟の廊下に入ったところで前方にヒエンコたちが見えてくる。
@北海道共和国U109歩兵団基地ー男湯
10月10日北海道標準時刻0935時
谷田ノリヒサ 少佐
「ふぅ……」
体を首までどっぷりと湯船に沈め、息を吐き出す。
男湯は簡単に言えばマジックミラーの窓の前に一人用の湯船が掘り込まれた構造で、これは女湯を小型化した構造らしい。実際に女湯の中を見たわけではないので確証はないが。
「………いかん、危ない危ない危ない危ない」
一瞬、女湯の様子を想像してしまい、あわててその想像を頭から追いやる。
そしてそのまま湯船にぶくぶくと鼻まで浸かる。
「ぶわぁっ!!」
鼻に水が入ったのであわてて浮き上がる。
「ゴホッ、ゴホッ……」
一人で風呂の中で騒いでもむなしいだけだった。
@北海道共和国U109歩兵団基地ー廊下
10月10日北海道標準時刻0932時
美唄ナイエ 大尉
二手に分かれ、挟み撃ちにする。目の前にはミスリルと別動隊。逃げ場はない。回収まであと少しだ。
「逃がさないわよ!」
叫びながら飛びかかる。
すると突然、ミスリルは物理法則を無視したかのような動きでくるりと旋回して接近してくる。
「!?」
あわててよける。
そのまま後ろに抜けていくかと思いきや、ミスリルがなんとスカートの下から服の中に侵入してきた。
「あっ………ひゃうっ!……アッー!……らめぇ……」
しかも服の下で暴れだした。様々な場所がその角に刺激される。具体的にはモザイクをかけないとならないような場所を。
「あひゃひゃ……ひゃん……いゃぁっ…………」
バランスを崩し、倒れ込む。
「らめぇ……」
ふっとその感覚がなくなる。気が付くとレイコの方にいったようだ。助けようとするが、腰が立たない。我に帰った他のメンバーが助けようとするがどうにもならない。というか足がすくんで動けないようだ。
@北海道共和国U109歩兵団基地ー沖合
10月10日北海道標準時刻0935時
遠軽シデンコ 中尉
「!?」
思わず息をのむ。
別にショウコがやられた訳ではない。
それはクラックゥのビームが突然巨大なシールドに遮られたからだ。
周囲に別な航空機動歩兵はいない。つまり何がシールドをはったのかは全くの不明である。
シールドのサイズは推定半径50m。こんなサイズのシールドを晴れる人間など聞いたことがない。
「よっとっと……」
それでもなお突撃してくるクラックゥに対して扶桑45式ロケットランチャーを3発発射モード迎撃する。
ショウコもM134ミニガンで迎撃。
「!!!!」
今度はさらなる驚きが襲ってきた。普段、戦闘中に驚きを感じることは滅多にない。
だが感じた。なにしろ目の前のクラックゥが勝手に粉砕されたのである。
しばし言葉を失う。
ドガァン!
「コアの雰囲気はあった……よな?」
目標を失い、むなしくロケット弾が自爆した音で我に返り、ショウコに尋ねる。
「………うん、あった」
やはりコアはあったらしい。
「じゃあなんだったんだ……?」
思わず首をひねる。
結局なんだかよくわからん襲来だった。囮ではないようではあるが。そもそも、クラックゥが囮作戦をするなんて聞いたこともない。
しょうがないので基地のナイエに連絡を入れる。
「こちら紫電。クラックゥは撃破た…………多分…」
〈ひゃう……了解……ひゃうっ!〉
「そんな状態で大丈夫か?」
〈大丈夫よ……問題ない……ひゃん!〉
なんだか大丈夫じゃなさそうだがナイエが大丈夫だというんだから大丈夫なんだろう。
@北海道共和国U109歩兵団基地ー男湯
10月10日北海道標準時刻0945時
谷田ノリヒサ 少佐
風呂から出てパンツを穿く。
のんびりと服をいれた籠に手を伸ばすと、ふわふわと青く光る金属塊が飛び込んできて、光を失ってぽとん。と落ちた。
「ミスリル………?」
「「「「みつけたっ!」」」」
突然ナイエたちがとびこんでくる。
「どわわわっ!」
まだパンツしかはいてない。慌てて物陰に隠れるが、それを気にせずナイエたちはミスリルにとびついた。
「なにがあった……?」
ナイエたちがミスリルを取り押さえてる間に服をあわてて着て、そーっと尋ねる。
「第三次世界大戦……じゃなくて終わったんですよ。あれを確保するために。」
そういってライコが指さしたのはミスリルである。
パンパンパン!
「は~い、解散解散!」
するとナイエが手をたたいて無理矢理全員を追い出す。
つまりこれでこの話は終わり。ということだ。
「で、なんだったんだ?結局」
ライコが呟いた。