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第12話「暴走の基地」


@北海道共和国U109歩兵団基地―久留米自室

10月9日北海道標準時刻1530時


久留米フタコ 少尉


「ミスリル……魔法粒子を放出するとされる金属か……実在したら便利だろうなぁ……」

 机においた本の挿し絵を眺めながらつぶやく。まあこの物語における魔力は現実における魔力とは全然違うのだけど。

 次の瞬間、視界の端で何かか青く輝いた。

 体から魔力が放出されていくのがわかる。

 お腹に力を入れて魔力の放出を防ごうとするが、力が入らない。

 急に視野が狭まり、体がぐらぐらする。

 典型的な魔力過放出の症状だ。

 (魔力が、放出……なんとか……止め……)

 体に力をいれようとするが筋肉はもはや言うことを聞かない。

 次の瞬間、体から力が抜けた。

 机に置いた本がスローモーションで迫ってくる。

 ゴン、という額が机にぶつかる音が聞こえた。



@北海道共和国U109歩兵団基地―司令執務室

10月9日北海道標準時刻1530時


谷田ノリヒサ 少佐


 眠い。机の上に突っ伏す。

「ふぁと撃墜報告書、経緯報告書が残っているわよ」

 脇からあくびをかみ殺しながらかけられる声。

 日本連合軍の撃墜報告書はこまごまと書くことが多い。

 撃墜数、撃墜方法、撃墜を確認した人、使用弾の種類と数、エクセトラエクセトラエクセトラ……

 そして、それをまとめるのは隊長の役割なので全員のレポートに目を通して、まとめたものを作成しなければならないのだ。

 プラスこの前の難民船(もどき)の件に関する報告書、停電の時に使った自家発電の燃料の経費などについてもいろいろと書かねばならないので、ここ数日は執務室に籠りきり、深夜まで作業が続くこともあるのでナイエともども寝不足なのだ。

 そのとき、ドバァンと執務室のドアが開けられた音がし、ハヤブサの声が聞こえてきた。

「たたた、隊長、た、大変です!」

「どうしたんだい?」

 机からゆっくりと頭を上げて尋ねる。目のピントが合わない。

 が、水色のジャージなのでハヤブサと分かる。

「ふ、フタコさんが倒れてます!」

「じゃあ医務室に運んで診てもらって。手伝うから」

 いまいちピントが合ってない目を擦りながらこたえる。

「リョーカイ!」



 十数分後……

「なぁんだ、魔力を使いすぎただけかぁ」

 ハヤブサがほっとしたようにつぶやく。

 眠気をこらえながらえっちらおっちら三人で医務室にフタコを運んできて、医務士官(兼整備員)の室町医務少尉に診断してもらった結果は新兵がたまにやるような初歩的なものであった。

「ハヤブサ一曹、フタコさんは部屋にいたんだよね?」

 ようやくピントが合ってきた目でフタコの方を見ながらハヤブサに尋ねる。

「えぇ、部屋で机に突っ伏していましたよ、少佐」

 それに対してなぜか胸をはりながら答えるハヤブサ。

「よし、わかった。ハヤブサ一曹はもう帰って大丈夫だ」

「ではでは」

 ハヤブサが医務室から出たのを確認してから業務用のMCP(Micro Computer Pad)をとりだし、報告書製作を再開する。眠気は一瞬で吹っ飛んだ。

「あら、執務室には戻らないの?」

 ナイエが聞いてくる。

「いや、部屋にいて魔力を使いすぎるということは例の件がらみかも知れないから。一応状況を調べるべきだろう」

 MPCから目を離さずに答える。

「そうね。聞くんだったら早めに聞くべきね」

「さてと、書類をとっとと片付けるか」

 軽く呟き、「上書き保存」のボタンを押そうとする。

「えぇ」

 ポチッ

「あ……間違えてデータ消去しちまった……」

 が、指がすべって「消去」を押してしまった。



 そうしてナイエと書類の記入を再開して数分……

「んん……ここどこ?」

 フタコが意識を取り戻し、きょろきょろと周りを見回す。

「あら?目が覚めたかしら?医務室よ」

 ナイエがMPCから顔を上げて答える。

「あ……すみません……」

 なぜか謝られた。

「まぁ謝らない謝らない。別に悪いことしたわけじゃないんだしね」

 ナイエがフォローを入れる。

「じゃあ前置きは省略して聞くけど、倒れたとき、何をしていたのかしら?」

 ナイエが質問を始める。

「えっと……確か本を読んでいたら意識が遠のいて……」

 フタコは何かを必死で思い出そうとしている。

「その前に何か見なかった?」

 思わず前のめりになってしまう。

「見たような見なかったような……すみません、覚えてないんです……」

「青く輝くものとか……」

「えーと、見たような見なかったような…」

 するとナイエは何かを感じとったらしく、腰まで届くながい黒髪の毛の毛先をふわふわと漂わせて、有無を言わせない口調で

「部屋の状況を見せてくれないかしら?」

 と尋ねた。

 するとフタコはなぜか頬の筋肉を痙攣させながら

「い、いいですよ。」

 と言った。



「つまり……ミスリルに関する本を読んでいたら眠ってしまって気がついたら魔力を使いすぎていた。ということね?」

 フタコの頬が凍り付いた数分後、溶接機なんかが並んだフタコの部屋でナイエは念を押すように尋ねていた。いやなんかちょっと怖い。主にナイエの様子が。

「フタコ少尉、この本と金属塊を借りてもいいか?」

 このままだとさらに怖いことになりそうな気がしたので手に持った本を掲げる。

 手に持っている本はそのミスリルに関する本と脇に置いてあった金属塊である。

「ええ、いいですよ」

とりあえずその流れはおさまった。



「で、何か感じる?」

 フタコの部屋から執務室に戻る途中、ナイエに問いかける。

「ええ、魔力がこの金属塊から放出されてるわ。微量ながら」

「じゃあやはり例の件がらみか……」

「そうね」

 ナイエが頷くのを見て思わず目をつぶり眉間を押さえてしまう。

「いよいよ世界は動き出しにけり……か」

 思わずつぶやいてしまう。

 するとナイエが

「あ、前……」

「え?」

 ナイエの声に目を開けると目の前に階段があった。

「どうわわっわわわわっ!」

 そしてそのまま階段につまずき、転んでしまう。

 さらに、足元には「台湾バナナ(坂東帝国千葉県浦安第2熱帯農業ビル産)」というラベルがついた バナナの皮。

 バナナの皮にすべって前のめりに倒れたので足は後ろに行く。

 後ろには並んで歩いていたはずのナイエがいた。

 そしてナイエの足に引っかかり、ナイエを巻き込んで転んでしまう。

「いててて……」

 背中には柔らかく、しかし鍛えているため筋肉質な感じもする感触。

「ごごごごごっ、ごめん!」

「いや、こちらこそ……」

 ナイエが起きあがる。

 続いて起きあがるとナイエが膝に付いたゴミを払う仕草をしていた。

 ミスリルは階段の数段目の上でなぜか赤い光を放って浮遊していた。

「危ない危ない」

 そういって拾おうと手を伸ばす。

「きゃっ!」

するとナイエがバナナの皮につまずいて転んだ。

「ぎょっ!」

 そしてその巻き添えで再び転ぶ。別に魚がいたわけではない。

「ごめん……」

「いや、こちらこそ……」

 少し前と同じような会話をもう一回したあと、起き上がる。

 そのときにはミスリルは何もなかったかのように赤い光も放たず、鈍く蛍光灯の灯りをアルミニウムのような表面で反射しているだけであった。


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