最悪な出会い
普通の街の中にある普通の大学のとある一つの教室で、一人の男が友達と一緒に楽しく談笑していた。
その男は世間一般に言われるオタクであり、世間一般に言われるブサイクな人間である。
その周りにいる友達連中は勿論のこと、オタクであり、またブサイクである。まぁ、何人かはイケメンも含まれている。その中には、どうしようも無い自己中もいたりもするのだが。
そんなオタクでブサイクな彼には、好きな女の子がいた。
名前を、中田彩と言う。
彼女は、世間一般で言われる、美少女でありオタク文化とは無縁の女の子である。
この大学の中で、一番綺麗だと噂されている。
そんな彼女に、男は恋をしてしまっていた。
どうしようも無いくらいに。
その男の名前は、高橋和真と言う。
今から語られる物語は、オタクでブサイクな高橋和真と美少女の中田彩の二人の恋物語である。
しかしながら、二人の恋にはたくさんの障害がある事を二人は知る由も無かった。
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和真は、友達といつもの様に教室でたわいのない会話を楽しんでいた。
勿論、その会話の内容はオタクらしい会話であり、ゲームの話やガンダムの話やアニメの話や漫画の話に集中していた。その中には、音楽の話をする物もいるにはいたのだが。
どっちにしろ、彼らの会話に着いてこれるものはいないのは、確かである。
和真は、そんな彼らとそれらしい会話をしながら、自分のななめ前に座っている、この大学一の美少女である中田彩を見ていた。
彩は本当に美しい顔立ちをしていた。パッチリ二重の大きい瞳、綺麗に通った鼻筋、ふっくらとしていて甘えているように見える唇、綺麗な陶磁のような白い肌、仄かに赤く染まる頬。完璧なパーツをすべて備えた美少女であった。
彼女を見ていると、和真は激しい動悸を覚えた。
美しい顔見ているからというだけではない。
もしそれだけならば、和真は何も感じなかっただろう。なぜなら、彼女には何を考えているのか分からないような表情を常に顔に張り付けているからだ。
しかし、彼女の表情には、何処か悲しげな表情がたまに垣間見えるのだ。
それが、和真の心に突き刺さるのだ。
彼女は、いったいその時、何を考えているのだろうか。それが、和真にはどうしても気になったのだった。
それについて友達に相談してみると、何人かはちょっとばかり馬鹿にして来たが、真面目な友達が一緒になって考えてくれた。
「そうだな。中田さんって、家庭の事情で何かあるのかもしれないよ?って言っても、和真がそれについて考えたってあんまり、意味が無い気がするけどね。」
「うるせえよ!!!」
和真に助言をするのは良いが、最後には人のグサッとなるような事をいうこの友達の名前は、藤原学という男である。
顔はイケメンでもブサイクでも無く、オタクかと言われるとオタクとは言い切れないようなそんな男である。いつも、和真には優しい言葉をかけるが、同時に毒舌を吐いてくるのだった。
そんな彼に、とても痛い指摘を受けた和真は思案した。
自分には、中田彩の力になる手立てはないのだろうか。
自分と中田のグループには、大きな隔たりがある。
美少女軍団とオタク軍団。それは、まさに月とすっぽんであった。
そんな自分が、勝手にしゃしゃり出たとしても、中田彩だけで無く、そのまわりの友達連中にも気味悪がられるだけ・・・そんな気がした。
だから、いつものように彼は、その事について考えるのを止めて、友達とのオタク談義にもどったのだった。
そんな彼の隣では、学がこっそりと訳知り顔でほくそ笑んでいた。
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大学一の美少女と名高い中田彩は、仲が良いとされている友達グループと会話をしていた。
その会話の合間にも、彼女は物思いにふけっていた。
楽しく無い。こんな子達と会話しても楽しく無い。せいぜい楽しいのは、バラエティ番組と映画の話をしている時くらい。こんな生活がこれからも続くと思うと、彩は吐き気を覚えた。
しかも、彼女に群がってくるのは、イケメンと呼ばれる男達。
イケメンは好きなのだが、彩には別にだからと言って、心惹かれる訳では無かった。
そんな男達と会話していても、ただ退屈に感じるだけであった。
「ねえねぇ!!彩はどう思う!?」
物思いにふける彩に声をかけた女子がいた。名前を、尾田遥と言った。彼女も美少女グループの一人ではあるが、彩の好きなジャンルにこのグループ内で唯一合う少女であった。
彩は、彼女達の会話の内容を聞いていたので、即座に答えた。
「ん~。遥の服装可愛いとは思うけどさ。フリル付のワンピの上にフリル付のカーディガンは無いような気もする。っていうか、フリル付のカーディガン初めて見たよ。」
そう答えると、遥は、やっぱりかと言う顔をしてみせた。
「そっかー。やっぱり、そうだよねぇ。じゃ、着替えてくる!!!」
そう言った瞬間に、遥は席を立ちあがると、そそくさと鞄を持って教室を出て行った。
その行動に彩を含めた周りの友達たちが、唖然となった。
「てか、替えの服持ってきてるの!?」
全員が、一斉にそうつっこんだ。
唯一、彩だけはつっこむ事は無かった。
彩には、事情が分かっていたからだ。彼女は、映画部に所属しており、部で制作される映画に出演しているのだ。だから、出演するための服を持ち歩いていた。
残念な事に、普段から来ている服のファッションはとても残念な事この上無いのではあるが、映画部で着る撮影用のファッションは完璧に近いくらいのファッションセンスを見せつけているのだ。
普段着のファッションも、撮影用のファッションも、両方、彼女自身で考えている物なので、余計に残念に見えるのだった。
「うん。持っているよそりゃぁ。遥は、映画部に入っているしねぇ。」
彩は、必要が無いと感じたが、一応、事実を織り交ぜてフォローを入れた。
「あ、そうなの?遥って映画部だったんだ!もし上映するなら、見に行かないとね!!!」
「そうだねー。」
皆が行こう!って言っているので、彩もそれに応じると、それと同時に遥が戻ってきた。
パッチリとしたジーンズに、鎖骨が見える程度に胸元が開けられているタンクトップの上に、基本は黄色であり真ん中の部分が黒く合間に黄色い線が入っているシャツと着て、大き目のネックレスをつけていた。
何処かの雑誌で見た事のあるような服装であった。
そう思い自分の記憶を漁ってみると、とある海外ドラマの主役などで若い子に人気の女優が表紙を飾った雑誌の、表紙の女優の服装そのままであった。
「あれ、遥のそれってさ。エレガールの雑誌にブライク・ダイバーが表紙に出てた時の服装と同じじゃない?」
彩は、少しばかり気になってそう聞くと、他の子もその雑誌を読んでいたらしく、本当だ!と言う声がちらほら上がった。
遥は、恥ずかしそうに頬を染めた。
「あ、ばれちゃった?そうなんだよね!!実は、毎回ね撮影用の服装を褒められたりするけど、雑誌の服装まねてるんだよねぇ。私にはセンスが無いからさぁ・・・」
彩は、最近ずっと頭を悩ませていた案件が解決し、心から喜んだ。
「あ、なるほど。でも、そういう事していくうちに、自分自身にもセンスが身につくと思うよ?」
気分が良かったので、そういう助言も与えてみた。
頷いた遥は、ニッコリと微笑んだ。
そして、後ろの方に固まって座っている男子連中の所へ駆け寄って、自分の服装を見せていた。
遥の声は大きいので、彩にも聞こえた。普段は、聞こえる事が無いのだが。
「ねえねぇ!!!和真くんと学くん!撮影の服装は、これで大丈夫かな!?ファッション雑誌の服装、そのまんまなんだけど!」
「うん。良いと思うけど。まぁ、僕は監督の仕事をしてるけどさ。脚本は和真だし。最終決定は和真がする事だよね。」
遥のその質問に、片方のニッコリと笑顔の張り付けたいけ好かない方の男の子が答えた。
この答えに、遥は素直に従い、和真と呼ばれる男の子をジっと見た。
和真と呼ばれる男の子は、少しムスっとしながら、「良いと思う。」と答えた。
彩には、少しどうでも良さそうに聞こえた。
そんな彼の様子に気づいていないような遥は、ホっとしたように胸をなでおろし、二人に礼を言ってからこっちに戻ってきた。
「ただいま戻りました!!!さっき話しかけた二人の子も、映画部の友達でね、にこにこしているのが藤原学くんで、ムスっとしているのが高橋和真くん!学くんが、監督をしていてね。和真くんが、脚本なんだよ!内容はね、ちょっと文学的なお話なんだ!!!だから、上映する時は絶対見に来てね!!!」
遥は、部員の友達を紹介しながら、同時にちゃっかりと宣伝をしていた。
他の友達は、彩を含めて全員行くと返事をして、そこで会話は終了した。
なぜなら、教授が授業をしに入って来たからだ。
勿論、始まった後も会話をするのだが。
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