第5話:ポンコツ傭兵の再生(リペア)
「親方、相談があるんだけど」
朝食の席で、ミヤが切り出した。
「素材が足りない。特に魔獣の皮とか、骨とか、危険地帯にあるやつ」 「ふむ。ならば採りに行けばよかろう」 「無理だよ! うちは12歳の幼女と、非力なエルフと、か弱い獣人の女の子しかいないんだよ? スライム一匹で全滅するわ!」
言われてみればその通りだ。 わしは武器は作れるが、それを使う筋力がない。 リナは彫刻刀しか持てないし、ミヤはソロバンしか弾けない。 このままでは、最高級の武器を作っても素材枯渇で詰む。
「そこでだ。ボクが格安で雇える『用心棒』を見繕ってきたよ」
ミヤが指差した入り口のドアが開く。 ズシン、と重い足音が響いた。
入ってきたのは、熊のような大男だった。 身長は2メートル近い。無精髭を生やし、酒臭い息を吐いている。 だが、その瞳は死んだ魚のように濁っていた。
「……へい。俺がその用心棒だ」
男は力なく名乗った。名前はバードと言うらしい。
「あら、汚らしい。獣の臭いがしますわ」
リナが鼻をつまんで露骨に嫌な顔をする。 だが、わしが気になったのはそこではない。 彼の右腕だ。 肩から先がなく、だらりと袖が垂れ下がっていた。
「隻腕か」
「……ああ。半年前、ドラゴンの爪にやられた。おかげでこのザマだ」
バードは自嘲気味に笑った。
「利き腕を失って、傭兵団もクビになった。今はただのデクの坊だ。……荷運びと、肉壁ぐらいにはなるだろうよ。安い金でいい。酒代さえくれればな」
やさぐれている。 かつてはAランク傭兵として名を馳せたらしいが、今の彼はただの敗残兵だ。
「おいミヤ。戦えない用心棒を雇ってどうする」
「だから安いんだよ! それに、左手だけでもゴブリンくらいなら追い払えるし……」
「馬鹿者」
わしは椅子から飛び降り、バードの前に立った。 見上げると、首が痛くなるほどの巨体だ。
「おい、大男。お主、その腕を治したいか?」
「……あ?」
バードは虚ろな目でわしを見下ろした。
「教会で再生魔法を頼めば金貨100枚は飛ぶ。俺にそんな金はねえよ」
「金の話ではない。『治る』なら、もう一度剣を振るう気概があるかと聞いておるんじゃ」
「……あるわけねえだろ。俺は終わったんだ」
バードは吐き捨てるように言った。 だが、わしは見逃さなかった。 彼の左手が、腰に帯びた剣の柄を、無意識に強く握りしめていることを。 体は諦めても、魂はまだ戦場を求めている。
「……ふん。悪くない目じゃ」
わしはニヤリと笑った。
「リナ、採寸じゃ! ミヤ、倉庫からミスリルの端材と『神経伝達用の魔石』を持ってこい!」
「え? は、はい!」 「また親方の変なスイッチが入りましたわ……」
***
一時間後。 作業台の上には、無骨だが精巧な『金属の腕』が鎮座していた。 関節部分には滑らかに動く球体関節。 指先には、繊細な作業も可能な極薄のプレート。 そして内部には、神経と魔力を接続するためのルーンがびっしりと刻まれている。
「な、なんだこれは……」
バードが目を白黒させている。
「義手じゃ。ただし、ただの義手ではない」
わしはバードの肩の切断面に、その金属腕をあてがった。
「少し痛むぞ。神経を繋ぐからの」
バチバチッ! 紫色の魔力光が弾け、バードが呻き声を上げる。 だが次の瞬間、金属の指が、まるで本物の手のようにピクリと動いた。
「う、動く……!? 自分の手みたいに……!」
「慣れるまでは違和感があるじゃろうが、性能は保証する。握力は生身の5倍。表面は鉄よりも硬い。盾としても使えるぞ」
バードはおそるおそる右手を握りしめ、そして開いた。 グッ、パッ。 金属音が心地よく響く。 彼は近くにあった鉄の廃材を掴むと、軽く力を込めた。 グシャアッ。
分厚い鉄板が、紙くずのようにひしゃげた。
「す、すげぇ……! なんだこれ、前の腕より強ぇぞ!?」
「当たり前じゃ。わしが作ったんじゃぞ?」
わしはふんぞり返る。
「だが、それはあくまで『仮の腕』じゃ。メンテナンスを怠ればすぐにガタが来る。……どうじゃ? これからもその腕を使いたければ、わしの下で働け」
バードは自分の右腕を見つめ、そしてわしを見た。 その目からは、先程までの濁りが消え失せていた。 代わりに宿っていたのは、命の恩人を見る敬意と、再び戦えることへの歓喜の炎。
ズダンッ! バードはその場に片膝をつき、深く頭を下げた。
「……親方。いや、大将」
「親方でいい」
「一生ついていきます、親方! この命、あんたの盾として使ってくれ!」
「うむ。まずは風呂に入れ。リナが臭いと騒いでおる」
「へいッ!!」
こうして、最強の盾(兼・荷物持ち)が手に入った。 見れば、ミヤは「これで護衛費がタダ同然!」と計算機を弾いてほくそ笑み、リナは「まあ、その義手のデザイン、少し無骨すぎませんこと? 私がシルバーで装飾を施して差し上げますわ」と、すでに義手をキャンバスとして見ている。
やれやれ。 騒がしい工房になりそうだ。 だが、悪くない。
「よし、野郎ども! 全員揃ったな!」
わしは小さな拳を突き上げた。
「これより工房『小さな巨人』、本格始動じゃ! まずは近場のダンジョンへ素材狩りに行くぞ!」
「「「おおーっ!!」」」
身長130センチの親方と、その愉快な仲間たち。 最強の武具屋の伝説は、ここから加速していく。




