第41話:極北への旅路と、最後の晩餐
移動要塞『グラン・フォートレス』は、猛吹雪の中を突き進んでいた。 窓の外は白一色。気温はマイナス30度を下回る極寒の世界。 だが、要塞の中は、炉の熱気とハンマーの音で満たされていた。
「仕上げじゃ! 総員、魔力を込めろ!」
わしは要塞内の工房スペースで、最後の鍛造を行っていた。 金床の上に並ぶのは、3体の眷属王から得た最高級の素材たち。 『腐竜の再生骨』、『雷帝の雷鳴石』、そして『深淵の海神の甲殻』。
これら全てを融合し、仲間のための最強装備を作り上げる。
***
カーンッ!!
最後の一撃を振り下ろし、わしは額の汗を拭った。
「完成じゃ。……これが、わしからの餞別じゃ」
わしは3人に、それぞれの新たな武具を手渡した。
まず、バードには巨大な戦鎚。 ヘッド部分には『海神の甲殻』を使用し、中心に『雷鳴石』を埋め込んでいる。
「『海雷の戦鎚』。 クラーケンの甲殻による絶対硬度と、雷帝の衝撃波を併せ持つ。 叩いた瞬間、超高圧電流が炸裂するぞ。お主の馬力なら、山でも砕けるはずじゃ」
「へへっ、すげえ重さだ……! これなら何が来ても押し負けねえ!」 バードが嬉しそうに素振りをする。空気がビリビリと震える。
次に、ミヤには二振りの短剣。 『腐竜の骨』を研ぎ澄ませ、風のルーンを刻んだものだ。
「『双牙・風神』。 腐竜の骨は驚くほど軽い。振るえばカマイタチを発生させ、見えない刃が敵を切り刻む。 お主のスピードを最大限に活かす武器じゃ」
「わぁっ! 羽みたいに軽いよ! これなら音より速く動けるかも!」 ミヤが残像を残してステップを踏む。
最後に、リナには純白の法衣。 『腐竜の皮膜』と『雷帝の繊維』を編み込み、浄化の魔法で聖別したものだ。
「『聖女の守護衣』。 物理、魔法、状態異常……あらゆる攻撃を無効化する最強の防具じゃ。 お主は回復の要じゃからな。絶対に倒れんようにガチガチに固めておいたぞ」
「素敵ですわ……! デザインも可愛いですし、守られている安心感が違います!」 リナがくるりと回って見せる。
そして、アルヴィスには――。 わしは、『時雨』を収めるための鞘を渡した。
「『時雨』は鋭すぎるゆえに、持ち運びが危険じゃったからな。 眷属王の全素材を合成して作った**『封魔の鞘』**じゃ。 これに納めている間は、刀身の魔力がチャージされ、抜刀の一撃がさらに強化される」
「ありがとう、ガルネット。……これで、憂いなく戦える」
全員の装備が整った。 これ以上ない、最強の布陣だ。
***
その夜。 わしたちは工房のテーブルを囲み、温かいシチューを食べていた。 具材は、旅の途中で集めた各地の特産品だ。 火山の温泉卵、腐敗の森(の浄化されたエリア)で採れたキノコ、深海魚の切り身。
「美味しいねぇ……」 ミヤがとろとろのシチューを頬張る。 「いろんな味がするよ。ボクたちの冒険の味だ」
「ええ。最初は変な依頼ばかりでどうなるかと思いましたけど……本当に遠くまで来ましたわね」 リナが感慨深げに窓の外を見る。
外は吹雪。だが、ここは暖かい。 バードがおかわりをよそいながら笑う。 「大将に出会うまでは、俺はただの傭兵だった。こんなに賑やかな食卓は久しぶりだ」
「私もだ」 アルヴィスがカップを傾ける。 「騎士団の規律の中で生きてきた私にとって、この工房は……第二の故郷だよ」
わしは黙ってスープを啜った。 この温かい時間が、愛おしかった。 前世で孤独に死んだわしが、今世で手に入れたもの。 技術だけではない。この「繋がり」こそが、わしが作った一番の傑作かもしれない。
「……しんみりするな」
わしはスプーンを置いた。
「これは『最後の晩餐』ではないぞ。ただの『景気付け』じゃ。 明日、呪いの王をぶっ飛ばして、わしの呪いを解いて……。 そうしたら、またここで宴会をするのじゃ。今度は王都の最高級の酒でも開けてな」
わしの言葉に、全員が顔を上げた。 不安の色は消え、強い意志の光が宿っていた。
「おうよ! 絶対帰ろうぜ!」 「ボク、お祝いのケーキはホールで食べたい!」 「私は新作ドレスの発表会を開きますわ!」 「君の成長した姿を見るのが楽しみだよ、ガルネット」
わしたちはカップを掲げた。
「「「工房『小さな巨人』、乾杯!!」」」
カチンッ! グラスの触れ合う音が、高らかに響いた。
***
翌朝。 吹雪が止んだ。 目の前には、氷に閉ざされた巨大な廃墟都市――**『氷結都市ニブルヘイム』**が姿を現していた。 その中心で、天を突くような黒い霧が渦巻いている。
『呪いの王』ヴォルグリフ。 奴が待っている。
「行くぞ!」
わしは要塞のエンジンを全開にした。 旅の終着点へ。 全ての決着をつけるために。




