表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/47

第40話:深海決戦! 水圧を斬る刃

ズガガガガガッ!!!


 深海1万メートル。  『潜水要塞グラン・サブマリン』の船体が悲鳴を上げる。  第三の眷属王『深淵の海神アビス・クラーケン』が操る8本の巨大触手が、要塞を締め上げているのだ。


『潰レヨ、鉄ノ棺桶ヨ』


 ミシミシッ……!  分厚い装甲板がたわみ、リベットが弾け飛ぶ。  あと数分で圧壊インプロージョンし、わしたちはペチャンコだ。


「ええい、離れろタコ野郎!」


 わしは魚雷発射ボタンを連打した。  シュバッ! シュバッ!  特製の『空間圧縮機雷』がクラーケンの巨体に吸い込まれ、次々と炸裂する。


 ボムッ! ボムッ!


 だが、衝撃波は深海の水圧に押し潰され、クラーケンの硬い殻に傷一つつけることができない。


「ダメだ大将! 殻が硬すぎる上に、再生能力もある! こちらの攻撃が通じねえ!」  バードが叫ぶ。


「水圧じゃ……!」  わしは歯噛みした。 「この深海では、あらゆる爆発エネルギーが水に吸収されてしまう。  逆に奴の攻撃は、水圧が加算されて威力が倍増する。フィールドが悪すぎるわ!」


 まさに絶対的有利なホームグラウンド。  クラーケンが触手を振り上げ、トドメの一撃を放とうとしたその時。


「……ガルネット。ハッチを開けてくれ」


 静かな声が響いた。  アルヴィスだった。彼は『時雨』の柄に手をかけ、ハッチの前に立っていた。


「はぁ!? 正気かお主!  ここは水深1万メートルぞ!? 生身で出れば、一瞬でプレスされて肉片になるぞ!」


「大丈夫だ」  アルヴィスの瞳は、深海のように静まり返っていた。


「『時雨』は抵抗を斬る剣だと言ったな。  水圧とは、水という質量の『抵抗』だ。  ならば……斬れるはずだ」


「……!」


 理論上は、そうかもしれない。  だが、それは人間業ではない。海そのものを敵に回すようなものだ。  しかし、アルヴィスの目は本気だった。あの時、剛竜の甲殻を叩き割ったわしと同じ、職人プロの目だ。


「……わかった。  リナ! ハッチ周辺にエア・カーテンを展開! 海水が入らないようにしろ!  アルヴィス、時間は10秒じゃ! それ以上はわしの心臓が持たん!」


「10秒もいらない。一太刀でいい」


 プシューッ……!


 ハッチが強制開放された。  凄まじい水圧が襲いかかろうとする――その寸前。


 アルヴィスの姿が消えた。


          ***


 海中へ飛び出したアルヴィス。  全身に1000気圧の重さがのしかかる。象が100頭乗っているに等しい圧力。  だが、彼はその圧力を受け止めなかった。


(水よ。退け)


 彼が剣を抜いた瞬間。  彼の周囲の海水が、恐れて逃げるように弾け飛んだ。  『時雨』の切っ先が触れた空間から、水分子の結合が断たれ、真空の道が出来上がる。


『ナニッ……!? 人間ガ……深海ヲ歩イテイルダト!?』


 クラーケンが驚愕する。  アルヴィスは海を割って歩いていた。  彼が振るう剣速があまりに速く、あまりに鋭いため、水圧が発生する前に水が斬り裂かれているのだ。


「これで終わりだ」


 アルヴィスは海底を蹴った。  水の抵抗はない。空気中と同じ……いや、それ以上の速度で加速する。


『小賢シイ!』


 クラーケンが巨大な触手で薙ぎ払う。  アルヴィスは軌道を変えない。  ただ、真っ直ぐに剣を振るった。


 一の太刀・水鏡みかがみ


 ヒュッ。


 赤い閃光が、深海の闇を一瞬だけ切り裂いた。  アルヴィスはクラーケンの巨体をすり抜け、その背後へと着地した。


 シーン……。


 数秒の静寂。  クラーケンは何事もなかったかのように浮いていた。


『フン、蚊トンボガ。何モ起コラヌデハ……』


 言いかけた、その時。


 ズンッ……!!


 クラーケンの巨体に、一筋の赤い線が走った。  硬い殻も、分厚い肉も、そして中心にある核も。  全てが「斬られたこと」をようやく理解した。


『バ、馬鹿ナ……我ハ……海ソノモノ……ナノニ……』


 パカッ。


 深海の王が、左右に綺麗に分かれた。  断面は鏡のように滑らかで、海水すら滲まない。


 ゴゴゴゴゴ……ッ!!


 巨体が崩壊し、光の粒子となって海へと溶けていく。  第三の眷属王、討伐完了。


「……回収してくれ」


 アルヴィスがハッチに戻ってきた。  彼は一滴も濡れていなかった。水すら彼に触れることを許されなかったのだ。


「おかえり、化け物め」  わしは呆れながらも、最高の笑顔で彼を迎えた。


          ***


 三体の眷属王を倒したその瞬間。  世界中に響くような、重苦しい音が聞こえた。


 ゴォォォォォン……。


 北の空。  氷結都市ニブルヘイムの方角から、天を突くような黒い柱が立ち上った。  封印が解けたのだ。  いや、解いたのだ。わしたちの手で。


「始まったな」  わしは浮上した要塞の甲板で、北を見つめた。


 眷属王というくさびは外れた。  これで『呪いの王』ヴォルグリフのバリアは消えたはずだ。  同時に、奴も目覚めた。


「行こう、みんな」  アルヴィスが剣を握る。 「最後の戦いだ」


 わしは頷いた。  全ての因縁、そしてわしの「成長しない体」の呪いを終わらせる時が来た。


「総員、進路を北へ!  『グラン・フォートレス』、最終決戦仕様へ移行する!  目指すは極北、氷結都市ニブルヘイムじゃ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ