第39話:深淵の海と、潜水要塞グラン・サブマリン
大陸の南端。 目の前には、水平線の彼方まで続く紺碧の海が広がっていた。
「うみだぁぁぁーっ!!」
ミヤとリナが歓声を上げて砂浜を駆ける。 水着……に着替える暇もなく、わしが首根っこを掴んで引き戻した。
「遊んでおる場合か。我々の目的地は、あの波の下1万メートルじゃぞ」
わしは要塞『グラン・フォートレス』の前に立ち、腕まくりをした。 ここからは陸路ではない。水圧という見えざる巨人が支配する、死の世界だ。
「総員、作業開始! これより本機を、超深海対応型**『潜水要塞グラン・サブマリン』**へと大改造する!」
***
改造は、わしの職人技術と雷帝のエネルギーの融合によって行われた。
「まず、装甲の隙間を全て『耐圧スライム樹脂』でコーティングじゃ!」 わしが特殊なゲルを塗りたくる。これで水圧による浸水を防ぐ。
「動力は『雷帝バッテリー』を直結! 海水を電気分解して酸素を作り放題じゃ!」 捕獲した雷帝が「解セヌ……我ガ力ガ酸素ニ……」と石の中でボヤいているが無視だ。
「推進器は『ハイドロ・ジェット』! 魔力で水を圧縮噴射して進む!」 後部に巨大なノズルが取り付けられた。
半日後。 要塞は、流線型のフォルムと巨大なスクリューを持つ、鉄のクジラへと生まれ変わった。
「準備完了じゃ。ハッチ閉鎖! 注水開始!」
ゴボボボボボ……ッ!
要塞がゆっくりと海中へ沈んでいく。 窓の外が青一色に染まり、魚たちが驚いて逃げていく。
「わぁ……綺麗……!」 リナが窓に張り付く。 サンゴ礁、色とりどりの魚の群れ。太陽の光が差し込み、まるで宝石箱の中だ。
「すごいね親方! これ、高級魚取り放題じゃない?」 ミヤが魚群探知機を見ながら涎を垂らす。
「観光気分はそこまでじゃ。ここからが本番ぞ」
わしは操縦桿を押し込んだ。 深度計の数字がどんどん増えていく。 100メートル、500メートル、1000メートル……。 光が届かなくなり、外は漆黒の闇に包まれた。
***
深度5000メートル。 船体がミシミシと嫌な音を立て始めた。
「水圧上昇……! 装甲にかかる圧力が限界値を超えます!」 アルヴィスが計器を見て警告する。
「想定内じゃ! 雷帝エネルギー、防御結界に全振り! 押し返せ!」 『雷鳴石』が唸りを上げ、船体の周囲に強力な電磁シールドを展開する。水圧を電気的反発力で相殺する荒技だ。
深度8000メートル。 完全な無音の世界。 サーチライトが照らす先には、グロテスクな深海魚たちが泳いでいる。
「……不気味だな。何かが、ずっとこっちを見ている気がする」 バードが武者震いをする。
「ああ。近づいておるな。第三の眷属王が」
わしはソナーを見た。 画面を埋め尽くすほどの巨大な影が、海底からゆっくりと浮上してくる。
深度10000メートル――『深淵の海溝』。 海底に着底した瞬間。
ズズズズズ……ッ。
海底の泥が巻き上がり、巨大な「山」が動いた。 いや、山ではない。 それは、全身が硬い殻と無数の触手で覆われた、超巨大なアンモナイトのような怪物だった。 第三の眷属王――『深淵の海神』。
『……陸ノ者カ。ヨクゾココマデ沈ンデキタ』
直接脳内に響くような重低音。 クラーケンの巨大な瞳が、サーチライトの中で怪しく光った。
『ダガ、ココハ貴様ラノ墓場。海ノ藻屑ト消エヨ』
ドォォォォン!! クラーケンが触手を一振りすると、それだけで凄まじい水流が発生した。 深海の水圧に加え、圧縮された水流弾が要塞を襲う。
「衝撃来るぞ! 耐衝撃姿勢!」
ガァァァァァァァンッ!!
要塞が激しく揺さぶられ、船内のボルトが弾け飛んだ。 警報音が鳴り響く。
「ダメだ大将! 水中で戦うには分が悪すぎる! 機動力が違いすぎるぞ!」 水中では『グラン・フォートレス』の動きは鈍重だ。対して相手は海の王。
「ふん、慌てるな」
わしは冷静に、一つのスイッチに指をかけた。 潜水艦には、潜水艦の戦い方がある。
「水中戦の基本は『ソナー(音)』と『圧力』じゃ。 相手が水流で来るなら、こっちはその上を行く『超水圧』をお見舞いしてやる!」
わしはニヤリと笑った。
「魚雷装填! 弾頭は、特製の『空間圧縮機雷』じゃ! 海底ごと吹き飛ばして、刺身にしてやるぞ!」




