第37話:雷鳴の荒野と、エレキギター?
次なる目的地、東の『雷鳴の荒野』。 そこは、1秒に100発もの落雷があるという、世界で最も騒がしい場所だった。
ズドガァァァァァァン!! バリバリバリバリッ!!
「うっるさいわぁぁッ!!」
移動要塞『グラン・フォートレス』の車内で、わしは耳を塞いで叫んだ。 要塞の防音壁をもってしても、雷鳴の轟音が腹に響く。 外は紫電が走り回り、避雷針が真っ赤に焼けている。これでは進むどころではない。
「親方! 前方から変な集団が来るよ!」 ミヤがモニターを指差す。
雷光の中、現れたのは奇妙な一団だった。 モヒカン頭に、革ジャン(雷獣の皮)、そして巨大な太鼓や骨の笛を持った野蛮人たち。 彼らは雷が落ちるたびに「ヒャッハー!」と叫び、楽器を打ち鳴らしている。
「なんだあれは……現地の遊牧民か?」 アルヴィスが呆然とする。
その集団のリーダーらしき、リーゼントの男が要塞の前に立ちはだかり、拡声器(魔導具)で怒鳴った。
『止まれェェッ! この神聖なる「雷舞会場」に土足で踏み入る無粋な鉄屑はどこのどいつだァァッ!』
どうやら、この落雷地帯は彼らのステージらしい。 わしはマイクで応戦した。
「通りすがりの職人じゃ! 先へ急いでおる、道を開けろ!」
『ハッ! 職人だと? そんなチンケな鉄の箱に隠れてる奴が通れる道じゃねえ! ここを通りたければ、俺たちの「魂のビート(雷鳴)」よりも熱い音を鳴らしてみせろ! さもなくば黒コゲだァ!』
リーダーが太鼓を叩くと、それに呼応して雷が**ドカン!**と要塞のすぐ横に落ちた。 音波で雷雲を制御しているのか。
「……なるほど。音には音、雷にはロックで返せということか」
わしはニヤリと笑った。 売られた喧嘩は買う主義だ。それに、あやつらの持っている「雷を操る楽器」の構造、非常に興味深い。
「総員、配置につけ! これより『グラン・フォートレス』を特設ステージ形態に変形させる!」
***
わしは工房にあった素材をかき集めた。 前回の戦いで手に入れた『腐竜の肋骨』。これは軽くてよく響く。 それに『雷獣の腱』を張り、ピックアップには『磁力鉱石』を使用。
キュイーン!
完成したのは、骨と鉄でできた凶悪なフォルムの弦楽器――『魔導エレキギター・ドラゴンボーン』。
「バード、お主はドラムじゃ! 要塞の装甲を叩け!」 「おう、任せろ! リズムなら得意だ!」
「アルヴィス、お主はベースじゃ! その長い剣(時雨)を弦に見立てて重低音を出せ!」 「えっ、剣で!? ……わ、わかった。やってみよう」
「リナ、お主はボーカル&キーボードじゃ! 高音シャウトで雷雲を切り裂け!」 「わたくし、聖歌隊出身ですのよ? ……でも、たまには叫ぶのも悪くありませんわね!」
「ミヤはダンサー兼、集金係じゃ!」 「チップは弾むよー!」
要塞の屋根が開き、巨大なスピーカー(対眷属王用の音波兵器を転用)がせり出した。
「聴かせてやるぞ、王都最新(?)のサウンドを! 1・2・3・4!」
ジャァァァァァァァァン!!!!
わしがギターをかき鳴らすと、爆音が荒野を揺るがした。 バードのドラムが地響きを起こし、アルヴィスのベース(剣の風切り音を魔力増幅したもの)が空気を震わせる。
『な、なんだこの音圧はァァッ!?』 遊牧民たちが吹き飛ばされる。
「まだまだぁ! リナ、行けぇッ!」
「あァァァァァァァァァァァイッ!!(高音デスボイス)」
リナの覚醒したシャウトが炸裂。 その高周波は、上空の雷雲に干渉し、雲そのものを物理的に散らし始めた。
バリバリバリバリッ!! わしのギターソロが走る。 指から火花が出るほどの超速弾き。雷属性の魔力を乗せたサウンドは、降り注ぐ雷を吸収し、さらに音圧へと変換していく。
「見ろ! 雷が……雷が踊ってる!?」
落ちてくるはずの雷が、音の波に乗って空中でウネウネと動き出した。 わしのギターに合わせて、稲妻がイルミネーションのように明滅する。
『す、すげえ……! 雷神の怒りを、音楽で手懐けちまった……!』 『これが……ロック……!!』
遊牧民たちは涙を流し、ペンライト(発光する骨)を振り始めた。
「ラストォッ! フィニッシュじゃあ!!」
ズドォォォォォォォォォォン!!!
全員の音が重なった瞬間、上空の分厚い雷雲がドーナツ状に弾け飛び、荒野に久方ぶりの青空(と直射日光)が差し込んだ。
シーン……。
静寂が訪れる。 わしはギターを高々と掲げた。
「……アンコールは無しじゃ」
ワァァァァァァァァッ!! 遊牧民たちの大歓声が上がった。
***
「あんたら最高だよ! 特にその小さいの(親方)、シビれたぜ!」
ライブ後。 リーゼントの族長が、感動のあまりわしの手を握りしめてきた。
「認めよう。あんたらなら、この先の『雷帝』の城へ行っても生きて帰れるかもしれねぇ」
「雷帝? それがここの眷属王か?」
「ああ。この荒野の雷を生み出している元凶だ。最近、荒れ模様で俺たちも困ってたんだ。 ……これを持っていきな。俺たちの部族に伝わる『雷除けの御守り』だ」
族長がくれたのは、高純度の『雷鳴石』だった。 これがあれば、強力な避雷針が作れる。
「感謝するぞ、モヒカン。 次に来る時は、もっとイカした新曲を引っ提げてくるわ」
わしたちは彼らに見送られ、雷雲の晴れ間を縫って要塞を発進させた。 車内では、興奮冷めやらぬメンバーが盛り上がっている。
「いやー、楽しかったですわ! 私、才能あるかもしれません!」 リナがまだシャウトの練習をしている。 「俺も……悪くない気分だったな」 アルヴィスも満更でもなさそうだ。
わしは苦笑しながら、手に入れた『雷鳴石』を弄んだ。 さあ、次は第二の眷属王。 どんな相手だろうと、わしたちのビート(物理)でぶっ飛ばしてやる。




