第36話:腐竜討伐と、意外な弱点
グォォォォォォォッ!!
第一の眷属王『腐竜』が咆哮すると、その口からドス黒い液体が噴射された。 超高濃度の溶解酸だ。
「結界出力最大! 溶かされるぞ!」
ジュワァァァァァッ!!
酸のブレスが『グラン・フォートレス』の浄化結界に直撃する。 結界が悲鳴を上げ、車体の装甲表面から白い煙が上がった。
「親方! 外装の耐久値が減っていくよ! あの酸、結界を中和してくる!」 ミヤがモニターを見て叫ぶ。 「まずいですわ! 森の瘴気を凝縮したような酸です。このままでは要塞ごとドロドロに……!」
「ちっ、汚い真似を……!」
わしはハンドルを切り、要塞を横滑りさせて酸の直撃を避けた。 バードが機銃掃射で応戦するが、着弾して肉片が飛び散っても、すぐに緑色の泡が吹いて傷が塞がってしまう。
「ダメだ大将! 再生速度が速すぎる! いくら撃ってもキリがねえ!」
「ふむ……」
わしはモニターに映る腐竜の姿を拡大解析した。 腐った肉、露出した骨、そして絡みつく蔦。 酸を吐き、異常な再生能力を持つ。
(……あやつ、ドラゴンではないな)
わしは気づいた。 あれは竜の死骸に寄生した、**「巨大なカビと菌糸の集合体」**だ。 本体は死骸の中に巣食う菌糸。だからいくら表面を傷つけても意味がない。
「なるほど、そういうことか。 おいミヤ! 倉庫から『アレ』を持ってこい!」
「アレって?」
「『業務用・強力カビ取り洗浄剤(錬金術強化版)』じゃ!!」
***
それは、要塞の掃除用(特にお風呂場の頑固な汚れ用)に調合しておいた、超強力なアルカリ性薬剤だった。
「ええっ!? あんなデカいのに洗剤かけるの!?」 「あやつは菌の塊じゃ! 物理攻撃より、除菌の方が効くに決まっておろう!」
わしはバードに指示を飛ばした。 「バード! 主砲の弾頭を『液体散布弾』に換装! 中身はこの洗浄剤じゃ!」 「へっ、掃除の時間ってか! 了解だ!」
ミヤとリナがタンクにいそいそと薬剤を流し込む。 要塞の屋根にある主砲が、腐竜に狙いを定めた。
「食らいなさい! この世で一番清潔な攻撃を!」
バスンッ!!
発射された特殊弾が、腐竜の頭上で炸裂した。 バシャアアアッ!! 大量の白濁した液体が、腐竜の全身に降り注ぐ。
その瞬間。
ギャギィィィィィィッ!!??
腐竜が、剣で斬られた時以上の絶叫を上げた。 シュワシュワシュワ……!! 全身から凄まじい泡が立ち上り、腐った肉と菌糸が白く変色してボロボロと崩れ落ちていく。
「効いてる! めっちゃ効いてるよ!」 「菌の細胞膜を破壊しておるからな。再生能力もストップしたはずじゃ!」
わしはマイクを掴んだ。 「アルヴィス、今じゃ! 菌糸の奥にある『核』が露出したぞ! とどめを刺せ!」
「心得た!」
要塞の側面から、アルヴィスが飛び出した。 彼は白く変色して苦悶する腐竜に向かって、一直線に駆けた。
腐竜が最後のあがきで、巨大な爪を振り下ろす。 だが、アルヴィスの目は揺るがない。
「……見える」
彼の手には、最強の刃『時雨』。 崩れゆく肉の隙間、骨の継ぎ目、そしてその奥にある赤黒いコアへの「道筋」が、彼にははっきりと見えていた。
ザンッ。
一閃。 アルヴィスは腐竜の巨大な体を、頭から尻尾まで「通り抜け」た。 抵抗ゼロ。 腐竜自身、自分が斬られたことに気づく暇すらなく。
ピシッ……。
腐竜の胸の奥にあったコアが、真っ二つに割れた。
ズズズズズ……ドォォォォォン!!!
巨体が崩壊し、地面に沈んだ。 同時に、森を覆っていた毒の霧が、嘘のように晴れていく。
「討伐完了……!」
アルヴィスが剣を納め、爽やかに振り返った。 その背後で、浄化された腐竜の残骸がキラキラと光の粒子になって消えていく。
「やりましたわーっ!」 「さっすがアルヴィス様! あと洗剤もすごい!」
要塞から3人が飛び出し、アルヴィスに駆け寄った。 わしは崩れた腐竜の跡地を見下ろして、ニヤリと笑った。
「ふん。どんな強敵も、弱点を突けばこんなものじゃ。 ……さて、戦利品の回収といこうか」
跡地には、浄化された後に残った巨大な『竜の骨』と、怪しく輝く『腐食の魔石』が転がっていた。 特にこの骨は、軽くて丈夫で、毒属性の武器を作るには最高の素材だ。
「ミヤ、全部拾え。骨の髄まで利用してやるぞ」 「はーい! 高く売れそう!」
こうして、第一の眷属王は、主婦の知恵と最強の剣によってあっけなく(?)陥落した。 しかし、これはまだ始まりに過ぎない。
わしは北の空を見上げた。 残り2体。そしてその先に待つ『呪いの王』。 旅はまだまだ続く。




