表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/47

第35話:腐敗の森と、最強の空気清浄機

移動工房要塞『グラン・フォートレス』は、西の荒野を爆走していた。  だが、目的地に近づくにつれ、空はどす黒く濁り、周囲の植生は異様な紫色に変色していった。


「……見えてきたぞ」


 運転席のわしが声を上げる。  目の前に広がっていたのは、濃密な紫色の霧に覆われた巨大な森。  『腐敗の森』。  最初の眷属王が支配する領域だ。


「うわぁ……毒々しいね」  助手席のミヤが鼻をつまむ。 「窓を閉めていても、なんか臭ってくる気がするよ」


「アルヴィス、外の様子はどうじゃ?」 「最悪だ。私の探知魔法が警告音を上げっぱなしだ。  あの霧は猛毒の瘴気だ。吸い込めば数秒で肺が腐り、皮膚がただれる。普通の人間なら、足を踏み入れた瞬間に死ぬだろう」


 アルヴィスが険しい顔でモニターを睨む。  眷属王を守る鉄壁の防御、それがこの「環境そのもの」というわけか。


「リナ、お主の浄化魔法でどうにかならんか?」 「無理ですわ。範囲が広すぎます。私の魔力タンクが3分で空になりますわよ」


 手詰まりに見える状況。  だが、わしはニヤリと笑った。


「ふっふっふ。安心せい。  こんなこともあろうかと、王都であの『白銀の貴公子』ジュリアスに作ってやったマントの技術を、この要塞に応用しておいたのじゃ!」


 わしはコンソールの赤いボタン――『潔癖モード』スイッチを押した。


「起動! 『超広域・絶対空気清浄結界ハイパー・クリーン・ゾーン』!!」


 ブフォォォォォォォォッ!!!


 要塞の屋根に取り付けられた巨大なファンが唸りを上げた。  同時に、車体全体に刻まれた『浄化ラグズ』と『拒絶ハガル』のルーンが眩い光を放つ。


 その瞬間。  要塞を中心に、半径50メートルの空間から、紫色の霧が暴力的な勢いで弾き飛ばされた。


「おおーっ! 霧が晴れた!」 「すごい! 空気が……空気が美味しいですわ! まるで高原の朝です!」


 要塞の周囲だけ、ぽっかりとクリーンな空間が生まれ、陽の光すら差し込んでいる。  毒素はおろか、花粉やハウスダストすら許さない、ジュリアスお墨付きの完全無菌空間だ。


「全速前進! このまま森を突き抜けるぞ!」


 『グラン・フォートレス』が森へ突入した。


          ***


 森の中は地獄だった。  腐った木々が並び、地面はヘドロの沼。  だが、わしたちの要塞が通る場所だけは、強力な浄化結界によってヘドロが乾燥し、清浄な道へと変わっていく。


「快適じゃのう」 「親方、見て! 魔物が!」


 霧の中から、腐敗したゾンビ狼や、ドロドロの幽霊たちが襲いかかってきた。  だが、彼らが結界の範囲に入った瞬間――。


 ジュワッ!


「ギャアアアアッ!?」


 聖なる浄化の光を浴びて、魔物たちは悲鳴を上げながら消滅(成仏)していった。


「あらあら、武器を使うまでもありませんわね」 「この結界、アンデッドには特効(猛毒)だねぇ」


 要塞は無敵の掃除機のように進んでいく。  しかし、森の深部に差し掛かった時、異変が起きた。


 ズズズズズ……ッ!


 地面が揺れ、巨大な植物の根が、槍のように突き出してきた。  要塞の結界を物理的な質量で破ろうとしているのだ。


「植物なら浄化は効かんか! バード、迎撃じゃ!」 「おう!」


 要塞の上部ハッチが開き、バードが顔を出した。  彼は車載機銃――ではなく、巨大なチェーンソーを取り付けた『伐採アーム』を操作する。


「邪魔だァッ!!」


 ギュイイイイイイイッ!!


 轟音と共に、迫りくる巨大な根が切断され、チップとなって飛び散る。  バードは楽しそうに森を切り開いていく。


「こっちも来るぞ! アルヴィス!」 「任せろ!」


 アルヴィスが側面ハッチから飛び出した。  結界内なら、瘴気の影響はない。  彼は『時雨』を抜き放ち、襲いかかるつたの群れに向かって走った。


 ヒュッ、ヒュッ。


 赤い閃光が走るたび、鋼鉄より硬いはずの魔界植物が、音もなくバラバラに崩れ落ちる。  圧倒的だ。  毒も、物理攻撃も、この要塞と最強の護衛たちの前では無力。


「はっはっは! どうじゃ眷属王! 悔しかったら出てこい!」


 わしはマイクを使って森全体に挑発した。  すると、それに応えるように、森の最奥から空気が震えるほどの咆哮が轟いた。


 グォォォォォォォォォッ……!!


 要塞のモニターに、巨大な熱源反応が表示される。


「出たな……ボスのお出ましじゃ」


 前方の霧が渦を巻き、巨大な影が姿を現した。  それは、全身が腐った木と骨で構成された、巨大な竜のような姿をしていた。  第一の眷属王――『腐竜カース・ドラゴン』。


「デカいな……要塞と同じくらいのサイズがあるぞ」  バードが冷や汗を流す。


「上等じゃ。この『グラン・フォートレス』の初陣、派手に飾ってやるわ!」


 わしはハンドルを強く握りしめた。  空気清浄機の次は、害虫駆除の時間だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ