第33話:古代遺跡と、喰らう獣の伝説
工房のテーブルの上に、一枚の石板が置かれていた。 アルヴィスが遠征先で、「呪いの王」の支配領域から命からがら持ち帰った拓本だ。
「……読めんのう」
わしはルーペで表面を観察した。 そこには文字ではなく、壁画のような絵図と、複雑な幾何学模様が刻まれていた。 描かれているのは、山のように巨大な**「獣」**の姿。
「エルフの伝承にも、こんな魔獣は存在しませんわ」 リナが眉を寄せる。 「俺も見たことねぇな。ドラゴンか? いや、もっと禍々しい……」 バードも首をひねる。
「ふむ。これはおそらく、神話の時代――『大崩壊』以前の旧文明が遺した警告文じゃな」
わしは推測した。 前世のドワーフ時代よりもさらに昔。高度な魔導技術を持っていた古代人が、どうしても倒せず、封印することしかできなかった存在。
「解読するには『知恵』がいる。 ここから北の山奥に、『賢者の遺跡』と呼ばれる場所がある。そこにある古代の解析盤を使えば、この獣の正体がわかるかもしれん」
「よし、行こう! 敵を知らなきゃ戦えないもんね!」 ミヤが元気よく立ち上がった。
こうして、アルヴィスを加えた5人は、新たな謎を解くために出発した。
***
『賢者の遺跡』。 山肌に埋め込まれるようにして建つ、白亜の神殿。 入り口には巨大な石扉があり、古代語で『問い』が刻まれていた。
『力無き者は去れ。知恵無き者は去れ』
扉の前には、複雑な魔法陣のパズルがある。魔力の回路を正しい順序で繋がなければ開かない仕組みだ。
「ふん、子供騙しじゃな」
わしは魔法陣を一瞥し、リナに指示を出した。 「リナ、左上のルーンに魔力を3、右下に5、中央に2の割合で同時に注入しろ」 「えっ、そんな器用なこと……やってみますわ!」
リナが繊細な魔力操作を行うと、ズズズ……と重低音を響かせて扉が開いた。 力(魔力)と知恵(理論)、両方がなければ入れない遺跡だ。
***
遺跡の最深部には、巨大な壁画と、祭壇のような解析盤があった。 わしは石板のデータを解析盤に入力した。 すると、壁画がぼんやりと発光し、古代の記録が声となって響き渡った。
『……警告する。奴は目覚めさせてはならない』
空中にホログラムのような映像が浮かぶ。 そこに映し出されたのは、世界を覆い尽くすほどの巨大な漆黒の獣。 狼のようでもあり、獅子のようでもある。全身から黒い霧を噴き出し、触れたもの全ての時間を凍てつかせていく。
「あれが……『呪いの王』……」 アルヴィスが息を呑む。
『その名は、始祖魔獣ヴォルグリフ。 星の生命力そのものを喰らう、生きた災厄。 奴は周囲の時間を喰らい、自身の糧とする。奴のそばでは、あらゆる変化が停止し、永遠の停滞が訪れる』
「時間を喰らう魔獣……」 わしは自分の手を見た。 12歳で止まったままの体。 あれは呪いをかけられたのではない。あの魔獣が復活の予兆として世界からエネルギーを吸い上げ、その余波でわしの成長(時間)が喰われていたのか。
『我々は奴を倒せなかった。ゆえに、大陸の極北、氷の大地に封印した。 だが、封印は完全ではない。奴は眠りながら眷属を生み出し、完全復活の時を待っている』
映像が切り替わり、大陸の地図が表示された。 北の果てに赤く輝く点がある。そこが本体の居場所だ。 だが、その周囲に、さらに3つの光る点が表示された。
「……なんじゃ、あれは?」
『封印を維持するためには、奴を守護する**「三体の眷属王」**を討たねばならない。 奴らはヴォルグリフにエネルギーを供給する「管」の役割を果たしている。 眷属王がいる限り、ヴォルグリフは無敵のバリアに守られ、手出しはできない』
地図上の3点。 西の『腐敗の森』。 東の『雷鳴の荒野』。 南の『深淵の海溝』。
「なるほど……。いきなり親玉のところへ行っても、門前払いを食らうわけか」
わしは腕組みをした。 話はそう単純ではないらしい。 ラスボスを倒すためには、まず各地に散らばる3体の中ボス(眷属王)を倒し、バリアを解除しなければならない。
「長い旅になりそうだね、親方」 ミヤが地図を覗き込む。
「ああ。だが、道筋は見えた」 アルヴィスが『時雨』の柄を握りしめた。 「私の剣と、君たちの技術があれば、眷属王も恐るるに足りない」
「うむ。まずは一つずつ、確実に潰していくぞ」
わしはニヤリと笑った。 ただの討伐ではない。それぞれの眷属王もまた、未知の素材の宝庫に違いないからな。
「……ん?」 その時、解析盤から警告音が鳴った。 『警告。侵入者を探知。防衛システム起動』
ズシン、ズシン……。 遺跡の奥から、石と金属でできた巨大なゴーレムたちが現れた。 どうやら、タダで情報を持ち帰らせてはくれないらしい。
「やれやれ。古代人は用心深いこっちゃ」
わしはハンマーを構えた。
「総員、戦闘準備! こやつらをスクラップにして、次の冒険への準備運動とするぞ!」




