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第29話:不死鳥狩りと、氷の即席ハンマー

ギャオオオオオオオッ!!!


 煉獄の不死鳥フェニックスが翼を広げると、火口全体が灼熱の嵐に包まれた。  わしたちを守っていた『氷紋のロザリオ』が、ピキピキと悲鳴を上げる。


「ぐっ……! 近づけねえ! 剣が溶けちまう!」


 バードが前線に出るが、フェニックスの周囲は数千度の熱帯だ。  彼が振るった鉄の大剣は、刃が届く前に飴細工のようにぐにゃりと曲がり、使い物にならなくなった。


「魔法もダメですわ! 『氷槍アイス・ランス』が着弾する前に蒸発します!」  リナの魔法も通じない。


 圧倒的熱量。  これでは、ヒヒイロカネを採掘するどころか、近づくことすらできない。


「……親方! もう逃げようよ! あんなの勝てないよ!」  ミヤが半泣きで叫ぶ。


「落ち着け。……勝機はある」


 わしは冷静に戦場を観察していた。  フェニックスは炎の塊だ。だが、物理法則の中にいる限り、弱点は必ずある。


「バード! 予備の『ウォーハンマー』を出せ!」 「あるけど……鉄の塊だぞ? 剣よりマシだが、あいつもすぐに溶けるぞ!」


「それでいい。それを貸せ!」


 わしはバードから巨大なハンマーを受け取ると、視線を走らせた。  狙うのは、この火口の隅にある青白い岩場だ。  そこは、熱が極端に吸い上げられる特異点――『永久凍土の結晶』が自生している場所だ。


「ミヤ! あの青い結晶を取ってこい! 一番デカいやつじゃ!」 「ええっ!? あっちに行けってこと!?」 「報酬弾むぞ! 特別ボーナスじゃ!」 「行ってきます!!」


 ミヤが神速で駆け出し、自分の頭ほどもある巨大な氷の結晶を抱えて戻ってきた。  冷気で手が張り付くほどの極低温物質だ。


「よし。……リナ、全力で防御結界を張れ! わしが『加工』する時間を稼ぐんじゃ!」


 わしはハンマーの打撃面を、フェニックスの放つ熱波にかざして赤熱させた。  そして、ドロドロになりかけた鉄のヘッド部分に、ミヤが持ってきた『永久凍土の結晶』を無理やり押し込んだ。


 ジュワワワワッ!!


 猛烈な蒸気が上がる。  わしは素早くルーンを刻むタガネを取り出し、埋め込んだ結晶と鉄の接合部に、高速で模様を刻み込む。


「『結合ギフ』、『放出ソーン』……そして『急冷イサ』!」


 鉄が収縮し、氷の結晶をガッチリと噛み込む。  即席の対・炎属性兵器――**『氷塊の鉄槌フロスト・ハンマー』**の完成だ。


「バード! これを使え!」


 わしは完成したハンマーをバードに投げ渡した。


「いいか、チャンスは一回じゃ!  ハンマーの氷が溶け切る前に、奴の土手っ腹に叩き込め!」


「おうよ! 任せろ大将!」


 バードがハンマーを握りしめる。  ハンマーからは冷気が溢れ出し、周囲の熱波を押し返している。  フェニックスが脅威を感じ取り、大きく口を開けた。最大火力のブレスが来る。


「今じゃ! リナ、目くらまし!」 「はいですわ! 『ライトニング・フラッシュ』!」


 リナが閃光魔法を放つ。  フェニックスが一瞬ひるんだ隙に、ミヤが石を投げて注意を引く。  そして、その死角からバードが跳んだ。


「うおおおおおおッ!! 冷えて固まれやぁぁぁッ!!」


 バードの渾身の一撃が、フェニックスの胴体に炸裂した。


 ドゴォォォォォン!!!


 その瞬間、物理学(熱衝撃)が牙を剥く。  数千度の炎の体と、絶対零度に近い氷の結晶が激突。  急激すぎる温度差は、物質の結合を破壊し、強制的な凝固を引き起こす。


 パキパキパキパキッ……!!


「ギ、ギャ……!?」


 フェニックスの炎が瞬時に消え、その体が黒い溶岩の彫像のように固まった。  『焼き入れ』の要領による、急速冷却拘束だ。


「やった……! 固まった!」 「今じゃ! ヒヒイロカネを掘るぞ!」


 わしは固まったフェニックスの足元へ走り、ピッケルを振るった。  カィィィン!  伝説の金属ヒヒイロカネ。硬い。だが、わしの目はその「目(弱い部分)」を捉えている。


「ここ……そこ……よし、取れた!」


 拳大の真紅の鉱石を、ゴロッと掘り出した。  その直後。  ピキッ……と、固まったフェニックスの表面にヒビが入る。


「やべえぞ大将! 解凍が始まった!」 「長居は無用じゃ! ずらかるぞ!」


 わしは鉱石を抱え、ミヤの背中に飛び乗った。


「総員退避! ミヤ、全力ダッシュじゃ!」 「了解! 置いてかないでよー!」


 わしたちが火口を脱出した数秒後。  背後で凄まじい爆発音が響き、復活したフェニックスの怒りの咆哮が轟いた。


          ***


 火山の入り口まで戻ってきたわしたちは、ボロボロになりながらも笑い合った。


「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」 「でも、手に入れましたわね!」


 わしの手の中には、まだ熱を帯びて脈打つヒヒイロカネがある。  これがあれば、作れる。  『停滞』の呪いすら斬り裂く、最強の刃が。


「帰るぞ、みんな。  ここからが本番じゃ。最高の剣を打つぞ!」


 夕日に照らされたわしの顔は、煤だらけだったが、職人としての喜びに輝いていた。

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