第28話:灼熱の火山と銀のロザリオ
『紅蓮の古道』。 王都から南へ百キロ。活火山の地下に広がるそのダンジョンは、入り口の時点で空気が揺らぐほどの熱気に包まれていた。
「あつぅ……。もう無理だよ親方。これ以上進んだら、ボクの毛皮が焦げちゃうよ」 ミヤが入り口でへたり込む。 「私の肌も乾燥してボロボロですわ。どんな美容液も蒸発します」 リナも日傘をさしているが、汗だくだ。
外気温は50度。奥に行けば100度を超えるだろう。 生身の人間が立ち入る場所ではない。
「……ふむ。想定通りじゃな」
わしはリュックから、小箱を取り出した。 中には、銀色に輝く4つの首飾りが収められている。 中央には、青白い光を放つ宝石――『氷結晶』が埋め込まれている。
「これを着けろ。わしが昨晩、徹夜で彫り上げた**『氷紋のロザリオ』**じゃ」
「綺麗……! これ、すごく冷たいよ?」
「宝石の裏面に、微細な『吸熱』と『冷却』のルーンを二重螺旋で刻んでおる。 周囲の熱エネルギーを吸収し、それを変換して着用者の周囲に冷気の膜を作るんじゃ。 熱ければ熱いほど、冷却効果も高まる仕組みじゃよ」
全員がロザリオを首にかける。 その瞬間、スーッ……と清涼な風が体を包み込んだ。 まるで、木陰にいるような涼しさだ。
「すごいですわ! 汗が引いていきます!」 「これなら行けるぜ、大将」
「ただし、過信は禁物じゃ。宝石の魔力が切れたら終わりだ。 リナ、お主は定期的に宝石へ魔力を充填しろ。ミヤとバードは、決してロザリオを外すなよ」
わしは手袋を締め直した。 魔法のような便利アイテムではない。魔力管理とメンテナンスが必要な、職人の道具だ。 それを使いこなしてこそ、プロの探検というものだ。
***
ダンジョンの中層。 マグマの川が流れ、岩肌が赤熱する地獄のような光景が広がる。 だが、わしたちの足取りは軽かった。ロザリオのおかげで体温が守られているからだ。
「よし、少し休憩にするか」
わしは手頃な岩場を見つけ、荷物を下ろした。 バードが慣れた手つきで金網を取り出し、岩の亀裂から噴き出す蒸気の上にセットする。
「親方、ここで昼食ですか?」 「うむ。火を起こす手間が省けるからのう」
わしはバスケットから、タレに漬け込んだ肉と野菜、そして生卵を取り出した。 肉を金網に乗せると、ジュワッ!と食欲をそそる音が響く。 生卵は、お湯が湧いている水溜まり(熱湯)に沈める。
「火山の地熱は火力が強い上に安定しておる。 遠赤外線効果で、肉はジューシーに、卵はトロトロの温泉卵になるんじゃ」
数分後。 わしたちはロザリオの冷気に守られながら、アツアツの「火山焼き肉」と「温泉卵」を頬張っていた。
「んん~っ! 美味しい!」 ミヤが肉を口いっぱいに詰め込む。 「外はカリカリ、中は肉汁たっぷり……。これ、王都の高級レストランより美味しいですわ」 リナも優雅に舌鼓を打つ。
「過酷な環境も、知恵と道具があれば快適な場所に変わる。 それが『開拓』というものじゃ」
わしは温泉卵を啜りながら、ニヤリと笑った。
しかし、その平和な食事を邪魔する影があった。 マグマの川から、巨大な火炎トカゲ『サラマンダー』が這い上がってきたのだ。
「シャアアアアッ!!」
口から火炎弾を吐き出してくる。 だが、わしたちは動じない。
「バード、虫払いじゃ」 「あいよ」
バードが食べかけの串焼きを咥えたまま、大剣を抜く。 一閃。 サラマンダーの首が飛び、その巨体がマグマの中に沈んでいった。
「ふぅ。……お、ちょうどいい焼き加減になったな」 バードは剣を納め、何事もなかったように食事に戻った。
***
食事を終え、さらに奥へ。 最深部『星の火口』にたどり着いた。
そこは、世界の心臓部かと思うほど巨大な空間だった。 中央の島に、一際強く輝く真紅の鉱石が見える。
「あれじゃ……『ヒヒイロカネ』」
美しい。 ただ赤いだけではない。内部で光が脈打ち、まるで生きているかのような輝きを放っている。 あれならば、極限まで研ぎ澄ませても決して折れない「最強の刃」が作れるはずだ。
だが、その鉱石の上には、先客がいた。
キィィィィィィン……!!
全身が炎でできた、優美かつ強大な鳥。 『煉獄の不死鳥』。 この聖域の守護者だ。
「……厄介だな。あの炎、ロザリオの防御限界を超えてるぞ」 バードが険しい顔で剣を構える。 ロザリオの宝石にヒビが入り始めている。
「リナ、全魔力を防御に回せ! ミヤは水薬の準備! わしが合図をしたら、一気に駆け抜けるぞ!」
わしはハンマーを握りしめた。 ここからはピクニックではない。命懸けの「仕入れ」だ。
「行くぞ! あの最高級の素材、わしがいただく!」




