第3話:売れない最高傑作
廃村のあばら家を仮の拠点として、数日が過ぎた。 わしとミヤは、最初の「商品」作りに取り掛かっていた。
ミヤが近隣の街や古戦場から回収してきた、折れた剣や槍の穂先。 それらを素材に、わしが再生する。 炉はまだないが、ミヤが仕入れた安物の燃料と、わしの「熱効率最大化」のルーン技術による即席の炉で、なんとか鉄を溶かすことに成功していた。
「できたぞ、ミヤ。わしの自信作じゃ」
わしは、冷やし終えた一本の剣を、ドヤ顔でミヤに差し出した。
「おおー! さすが親方、仕事が早い!」
ミヤは目を輝かせて駆け寄ってくる。 だが、その剣の全貌を見た瞬間、彼女の狐耳がぺたん、と力なく垂れ下がった。 そして、顔をひきつらせて言った。
「……なにこれ」
「なにって、剣じゃが」
「いや、どう見ても焼けた鉄パイプじゃん! しかもなんか、まだら模様で汚いし!」
失敬な。 わしはムッとして解説する。
「見た目に惑わされるな。これは複数の異なる金属を積層鍛造した結果、こういう独特の縞模様が出ているんじゃ。それにこの柄を見てみろ」
「布切れがグルグル巻きにされてるだけに見えるけど……」
「ただの布ではない。衝撃吸収性が高い魔獣の皮じゃ。多少臭いはキツイが、手触りはグリップ力抜群じゃぞ」
そう、この剣のコンセプトは『実用一点張り』。 切れ味と耐久性のみを極限まで追求した結果、装飾や研磨といった「無駄」を一切省いたのだ。 美しさなど、戦場では何の役にも立たん。敵を斬れればそれでいいのだ。
「これなら、岩でもバターのように斬れる。そこらの騎士が持っている剣など、オモチャ同然じゃよ」
「ふーん……」
ミヤは疑わしげな目で「鉄パイプ(仮)」を受け取ると、ため息交じりに言った。
「まあ、性能が凄いのはわかったよ。とりあえず、街の武器屋に卸してくるね」
***
数時間後。 ミヤが帰ってきた。 その背中には、わしが作った剣がそのままの状態で背負われていた。
「……売れんかったのか?」
「門前払いだったよ!!」
ミヤは剣を地面に放り投げた(コラ、商品を投げるな)。 彼女は肩を怒らせ、わしに詰め寄ってきた。
「どこの店に行っても、『ゴミを売りつけに来るな』って塩まかれたわ! 『うちはスクラップ回収業じゃない』だってさ!」
「なんと見る目のない……。試し切りでもさせてもらえば、すぐに価値がわかるはずじゃ」
「そこまで話がいかないの! 第一印象でアウトなの!」
ミヤは地面に「正」の字を書きながら、商売のイロハを説き始めた。
「いい、親方。武器を買うのは誰? 冒険者や騎士様でしょ? 彼らにとって武器は、命の次に大事な『ステータス』なの!」 「腰に下げててカッコ悪い剣なんて、誰も持ちたくないの! たとえ性能が良くても、見た目がボロかったら、舐められるだけなんだから!」
「くだらん見栄じゃな……。死んだら元も子もないというのに」
「その見栄で経済は回ってるの! とにかく、このままじゃ売れないよ。せっかくの親方の技術が、見た目のせいで台無し!」
痛いところを突かれた。 わしはドワーフだ。機能美こそ至高と信じている。 だが、人間の感性は違うらしい。 前世でも「ガンツの武器は性能はいいが、無骨すぎて女性騎士には人気がない」と言われたことを思い出す。
「……じゃあ、どうするんじゃ。わしに彫金やら宝石細工やらをやれと言うのか? できんことはないが、そんな暇があったら焼入れの一回でも多くやりたいぞ」
「だよね。親方の手、小さいし不器用そうだし(失礼な)」
ミヤはポンと手を打った。
「だから、専門家を雇おう」
「専門家?」
「うん。ボクの知り合いにさ、腕はいいんだけど、こだわりが強すぎてどこの工房も追い出された『ハーフエルフ』がいるんだ」
ハーフエルフ。 手先が器用で、魔法への適性も高い種族だ。
「その子、美的センスは抜群なんだけど……『美しくない武器は存在罪』とか言って、勝手に職人の作った武器に彫刻しちゃうんだって」
「……それはまた、厄介そうな奴じゃな」
「でも、親方のその『性能お化けの鉄クズ』を『美しい商品』に変えられるのは、あの子しかいないと思う」
ミヤはニヤリと笑った。
「行こう、親方。私たちの工房に、華やかな『看板娘(兼・装飾係)』を迎えに!」
性能厨のわしと、利益至上主義のミヤ。 そこに「見た目至上主義」のエルフが加わるというのか。 胃が痛くなりそうだが、背に腹は代えられん。
こうしてわしたちは、街の貧民街に住むという、その変わり者のエルフを訪ねることになったのである。




