第27話:対『停滞』兵器の理論
翌朝。 工房の作業場には、張り詰めた空気が漂っていた。 机には、昨夜回収されたアルヴィスの壊れた鎧の破片が置かれている。
わしは、その断面を指差して、集まった3人(ミヤ、リナ、バード)に語りかけた。
「よいか、諸君。敵の能力『停滞』の正体がわかった」
わしは、鎧の破片を金槌で軽く叩いた。 カキン、と硬い音がする。
「この呪いは、『衝撃』や『抵抗』を感知して発動する。 強く叩けば叩くほど、その反作用として『止める力』が強く働く。だから、アルヴィスの剛剣も、強力な魔法も、威力が高いほど完全に防がれてしまったんじゃ」
「じゃあ、どうすればいいの? 弱く叩けばいいってこと?」 ミヤが首を傾げる。
「半分正解で、半分間違いじゃ」
わしは黒板に、一本の線を引いた。
「答えは一つ。**『抵抗される前に斬る』**ことじゃ」
「……抵抗される前に?」 バードが眉をひそめる。
「うむ。敵の『停滞』が発動するのは、刃が当たって『衝撃』が生まれた瞬間じゃ。 ならば、衝撃すら生まないほど鋭く、滑らかに、分子の隙間を縫うように斬れば、呪いは反応できない」
わしは、手元の紙を一枚手に取り、空中に放り投げた。 そして、作業台にあったナイフをスッと振るった。 紙は音もなく真っ二つになり、ひらりと落ちた。
「これじゃ。 『切断』の本質とは、力ではない。物質の結合を解く『道筋』をなぞること。 限りなく薄く、硬く、そして歪みのない刃で、完璧な角度で斬り込む。そうすれば、物体は自分が斬られたことにすら気づかない」
「……なるほど。理論はわかりますわ」 リナが真剣な表情で頷く。 「でも、そんな芸当、人間業ではありませんわよ? 少しでも刃の角度がズレれば、抵抗が生まれて『停滞』に捕まり、剣は砕けますわ」
「その通り」
わしはニヤリと笑った。
「だからこそ、必要なのは二つの要素じゃ。 一つは、使い手の神懸かり的な技量。 彼には、剣の重さを消し、殺気を消し、ただ『線』をなぞるだけの極致に至ってもらう必要がある」
「そしてもう一つは?」
「その技量に応える、**『極限の剣』**じゃ」
わしは図面を広げた。 それは、一見すると何の変哲もない、シンプル極まりない長剣の設計図だった。 ギミックも、魔石エンジンもない。ただひたすらに、刀身の「美しさ」を追求した剣。
「今のアルヴィスの剣も名剣じゃが、あれは『頑丈さ』を優先した剛剣じゃ。今回の敵には相性が悪い。 必要なのは、ミクロン単位まで研ぎ澄まされた刃を持ち、それでいて折れない『強靭さ』を併せ持つ素材」
わしは黒板に、ある鉱石の名前を書いた。
『緋緋色金』
「伝説の金属ヒヒイロカネ。 この金属は、魔力を通すと熱を持つ性質があるが、真の価値はそこではない。 この金属は、**『完全な結晶構造』**を持つのじゃ。 不純物が一切なく、原子が整然と並んでいるため、極限まで薄く研いでも刃こぼれしない」
「でも親方……ヒヒイロカネなんて、おとぎ話の金属だよ? 市場に出回ったことなんてない」 ミヤが不安そうに言う。
「ああ。だからこそ、取りに行く」
わしは窓の外、南の空を指差した。
「文献によれば、この大陸の南にある『灼熱の火山ダンジョン』。 その最深部、星の熱が溜まる場所にのみ、ヒヒイロカネは生成されるという」
わしは3人を見回した。
「今回の武器に、派手なギミックはない。爆発もしない。 あるのは、**職人の『魂(鍛造)』と、剣士の『技』**だけじゃ。 それで呪いの王の理不尽な力をねじ伏せる。……燃えるとは思わんか?」
バードが、ニカっと笑った。 「ああ。そいつはいい。俺好みだ」
「わかりましたわ。最高の剣を作るためなら、地獄の果てまでお供します!」 「ボクは経費が心配だけど……まあ、伝説の金属なら元は取れるか!」
方針は決まった。 小手先の技術や奇策ではない。 鍛冶師としての「王道」で、最強の敵に挑む。
「よし、出発準備じゃ! 目指すは火山ダンジョン! 伝説の金属を叩き出し、最強の一振りを打つぞ!」




