第18話:王都の洗礼と、舐められる幼女
王都『グランド・フォージ』。 巨大な城壁に囲まれ、中央には王城と、国の象徴である「大溶鉱炉」の煙突がそびえ立つ、職人と騎士の都。
わしにとっては50年ぶりの帰郷だ。 馬車の窓から見える景色は、前世の記憶と少しも変わっていなかった。
「うわぁ……! 人がゴミのようだね親方!」 「ミヤ、言葉を選べ。人が多いと言え」 「あら、見てくださいまし! あそこの貴婦人のドレス、流行遅れですわ! 私の勝ちですわね!」
田舎者のミヤと、謎の対抗心を燃やすリナ。 バードは慣れない人混みに酔ったのか、青い顔をして荷台の隅で縮こまっている。
やれやれ、前途多難じゃ。
***
城門の前には、長蛇の列ができていた。 博覧会のため、各地から商人や職人が集まっているのだ。 わしたちの番が来た。
「次! 身分証と通行手形を!」
立ちはだかったのは、鉄仮面をつけた厳つい門番だった。 わしは王宮から届いた招待状を差し出した。
「工房『小さな巨人』じゃ。博覧会への招待で来た」
門番は招待状を受け取り、中身を確認し――そして、わしたちを見下ろして鼻で笑った。
「はっ! 『小さな巨人』だと? 騎士団長お気に入りの工房と聞いているが……なんだこのふざけた連中は」
門番の視線が突き刺さる。 金に汚そうな獣人。 場違いに派手なドレスを着たエルフ。 熊のような薄汚い大男。 そして、生意気な口をきく12歳の幼女。
「子供の使いか? ここは遊び場じゃないんだぞ。本物の『マエストロ(店主)』を連れてこい」
「だから、わしが店主じゃと言っておる」
「嘘をつくな! こんなガキに槌が握れるか! どうせ親父さんの招待状を盗んで遊びに来たんだろう。帰れ帰れ! 列が詰まってるんだ!」
門番が手を振り、わしの肩を乱暴に突き飛ばそうとした。 バードが「あっ」と声を上げ、義手を伸ばそうとする。 だが、それより速く。
ヒュゴォォォォォォッ!!
猛烈な突風が巻き起こり、門番が吹き飛ばされた。
「ぐわぁっ!? な、なんだ!?」
砂煙が舞う中、一台の豪華な白い馬車が、列を無視して滑り込んできた。 降りてきたのは、全身真っ白な服に身を包み、空気清浄機のようなマントを羽織った青年――ジュリアスだった。
「オエッ……! 汚らわしい! 僕のマエストロ(巨匠)に、その薄汚い手で触れないでいただきたい!」
ジュリアスはハンカチで口元を押さえながら、わしの前に立ちはだかった。 その背中にあるマント『白亜の拒絶外套』が、ブォンブォンと威嚇音を立てて空気を噴射している。
「じ、ジュリアス!? なぜここに?」
「お出迎えに来たんですよ! 貴女が王都に来ると聞いて、居ても立っても居られず!」
ジュリアスは門番に向き直り、冷ややかな目で見下ろした。
「君、クビになりたいんですか? このお方は、僕のこの『絶対領域マント』を作った創造主ですよ?」
「なっ……!? そ、そのマントは、噂の『白銀の貴公子』の……!?」
門番が顔色を変える。王都で話題の最強(最潔癖)の冒険者、その装備を作ったのが、この幼女だというのか。
さらに、追い打ちをかけるように。
「あらあら、騒がしいですね」
人混みを割って、聖職者の集団が現れた。 その先頭を歩くのは、フードを目深に被った小柄なシスター――フィーナだ。 彼女は手に、あの禍々しい『遠心粉砕杖』を握りしめている。
「どいてくださいな。そこは私の『神(製作者)』が通る道です」
フィーナが杖のスイッチを押す。 ジャララッ……! 鎖が伸び、鉄球が地面を削って火花を散らす。
「ヒィッ! 『撲殺聖女』まで!?」
門番だけでなく、周囲の野次馬たちも悲鳴を上げて道を開けた。 王都の二大有名人(変人)が、揃いも揃ってこの幼女に頭を下げている。
「お久しぶりです、店主様」 「貴女の作った杖のおかげで、今日もダンジョンは平和(死屍累々)ですわ」
二人はわしの前で跪いた。 まるで邪教の教祖を崇める信者のようだ。
「……あー、うん。元気そうで何よりじゃ」
わしは引きつった笑みを浮かべた。 目立つ。目立ちすぎる。 「舐められる」という問題は解決したが、代わりに「ヤバい奴の親玉」というレッテルを貼られた気がする。
「と、通ってよし! どうぞお通りくださいぃッ!」
門番が震え上がり、最敬礼で道を開けた。
***
城壁の中に入ると、ジュリアスが得意げに胸を張った。
「どうです? 僕の顔パス能力は。王都で僕に近づこうとする命知らずはいませんよ(物理的に弾き飛ばされるから)」
「助かったが……お主ら、王都でも暴れておるようじゃな」
「ええ。おかげで実家の商会も大繁盛です。……あ、そうだ。宿泊先は決まっていますか? もしよければ、僕の屋敷に……」
「いえ! 結構です!」 ミヤが食い気味に断った。 「ボクたちは博覧会の指定宿舎があるから! それに、あんたの家に行ったら、消毒液のお風呂に入れられそうだし!」
「ちっ、勘のいい獣人だ……」
ジュリアスとフィーナに見送られ、わしたちは指定された宿舎へと向かった。 すれ違う人々が、ヒソヒソと噂話をしているのが聞こえる。
「おい、見たか? あの子だよ」 「あの『貴公子』と『聖女』が敬語を使ってたぞ……」 「見た目は子供だが、中身は数百年生きる魔女らしい」 「いや、ドワーフの突然変異種だとか……」
噂に尾ひれがついている。 だが、悪くない。 職人にとって、無名は死だ。悪名でも、名が売れれば仕事になる。
「さあ、着いたぞ」
目の前には、王宮の別邸を利用した巨大な宿舎。 そこには、国中から選りすぐりの鍛冶師たちが集まっていた。 ムキムキの男たちが、可愛らしいわしたち一行を見て、またしても「迷子か?」という視線を向けてくる。
わしはニヤリと笑った。
「さて、第二ラウンドじゃ。どいつからへし折ってやろうかのう」
王都の洗礼は終わった。 ここからは、わしが彼らに洗礼を浴びせる番だ。




