第17話:王宮からの招待状
工房『小さな巨人』に、かつてない緊張感が漂っていた。 店の前には、王家の紋章――「双頭の鷲」が描かれた豪華な馬車が停まっている。 護衛の近衛兵がズラリと並ぶ中、一人の文官が店内に足を踏み入れていた。
「……君が、店主代理のお嬢ちゃんかな?」
鼻眼鏡をかけた文官は、カウンターに座るわし(12歳)を見下ろし、慇懃無礼な笑みを浮かべた。
「本物の店主……『マエストロ(巨匠)』はどこかな? 王宮からの重要な書状を持ってきたのだが」
またこれか。 わしはため息をつき、茶をすすった。
「だーかーらー! さっきから言ってるでしょう! この子が店主のガルネット! 全権責任者だよ!」
ミヤが横から噛みつくが、文官は信じない。 無理もない。金髪の美幼女が、あのごつい鉄塊のような武器を作っているとは、常識的に考えてありえない。
「ふん、まあいい。どうせ『お飾り』だろう」
文官は興味を失ったように、巻物を広げた。
「通達する。来週、王都にて開催される『王立技術博覧会』に、貴工房『小さな巨人』の参加を命じる」
「……博覧会?」
「そうだ。陛下が直々にご覧になる、国一番の職人を決める式典だ」
文官は嫌味たっぷりに続けた。
「近頃、騎士団長アルヴィス殿が、貴店の剣を愛用していると聞き及んでいる。 だが、王宮鍛冶師ギルドからは懸念の声が上がっていてね。『どこの馬の骨とも知れぬ者が作った武器など、危険で任せられない』と」
なるほど。読めてきたぞ。 アルヴィスがわしの剣(習作)を使っているせいで、王宮御用達の職人たちが面子を潰されたと騒いでいるのか。 これは「招待」ではない。「呼び出し」であり、「査定」だ。 衆人環視の中でわしの武器をテストし、欠陥品だと断じて工房を潰す気だろう。
「もし参加を拒否すれば、貴店には『危険物取扱法違反』で営業停止命令が出ることになるが……どうする?」
文官がニヤリと笑う。 完全に脅しだ。
「……ふん」
わしは茶碗を置いた。 コトッ、という小さな音が、静まり返った店内に響く。
「面白い。受けて立ってやろうじゃないか」
「ほう? 代理の分際で大きく出たな」
「勘違いするなよ、眼鏡。わしらが王都に行くのは、お主らに査定されるためではない」
わしは文官を睨みつけた。 その瞬間だけ、12歳の少女の瞳に、200年を生きた古強者の凄みが宿る。
「『本物』がどういうものか、井の中の蛙どもに教えてやるためじゃ」
文官がヒッ、と息を呑んで後ずさった。 彼はなぜか冷や汗をかきながら、「き、気概だけは認めてやろう! 当日、恥をかかぬようにな!」と捨て台詞を吐いて逃げるように帰っていった。
***
嵐が去った後。 工房は、別の意味での興奮に包まれていた。
「やったぁぁぁぁッ!! 王都だよ親方! 王都!」
ミヤが金貨袋を振り回して踊っている。
「博覧会で優勝すれば、『王家御用達』の称号がもらえる! そうなれば商品の単価は10倍……いや100倍だよ! ボロ儲けだぁぁッ!」
「あら、私も楽しみですわ」
リナも目を輝かせている。
「王都の最新モードが見られますわね! 田舎の素材だけじゃ私のセンスも錆びついてしまいますもの。ドレスを新調しなくては!」
「……俺は少し不安だがな。王都の連中は、余所者に冷たいぞ」
バードだけが常識的な心配をしている。 わしはニヤリと笑った。
「安心しろバード。技術の世界は実力主義じゃ。良いものを作った奴が偉い。単純明快なルールじゃよ」
それに、久しぶりの王都だ。 前世でわしが作った「国宝」たちが、今どうなっているのか確認するのも悪くない。 それに何より……。
「……売られた喧嘩は、最高品質で買い取るのが職人の流儀じゃからのう」
わしは拳を握った(フニフニだが)。 王宮鍛冶師ギルド。 既得権益にあぐらをかき、技術の研鑽を怠った古狸ども。 目にもの見せてくれる。
「総員、準備じゃ! 店はしばらく休業! これより我々は、王都へと殴り込みをかける!」
「「「おおーっ!!」」」
こうして、最強の幼女工房主と、がめつい獣人、美意識高い系エルフ、隻腕の元傭兵という奇妙な一行は、旅支度を始めた。 目指すは王都。 そこで待ち受けるのは、栄光か、それとも陰湿なイジメか。 どちらにせよ、ただで済むはずがない。




