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第14話:泥棒たちと恐怖のからくり屋敷

草木も眠る丑三つ時。  工房『小さな巨人』は静寂に包まれていた。


 ――かに見えた。


「……へへっ、アニキ。ここが噂の店ですね?」 「しっ! 声がデカイ! ……ああ、そうだ。騎士団長が出入りしてるだの、聖女が使ってるだの、景気のいい噂が絶えない店だ」


 店の裏手の茂みに、二つの影があった。  この辺りで活動する小悪党コンビ、ボブとジムだ。  彼らは街で広まる『変な武器屋』の噂を聞きつけ、盗みに入る計画を立てたのだ。


「聞きました? 店主は12歳の幼女で、用心棒は片腕のデクの坊らしいですよ。チョロいもんですね!」 「ああ。金目のモン全部いただいて、ついでに幼女をさらって身代金でも……グヘヘ」


 下卑た笑いを浮かべ、二人は敷地内に足を踏み入れた。


「まずは裏口の鍵を……ん?」


 先頭を歩いていたジムが、庭の芝生を踏んだ瞬間だった。


 カチッ。


 小さな音がした直後。


「うおっ!? な、なんだ!? 体が勝手に……!?」


 ジムの体が、突然スクワットを始めた。  膝が勝手に曲がり、伸びる。曲がり、伸びる。その速度が尋常ではない。


「ア、アニキ! 助け……! 膝が! 膝が笑って止まらねえ!」 「な、何やってんだお前! 静かにしろ!」


 ボブが助けようと駆け寄ると、彼の足元の地面もカチリと鳴った。


「ぬおっ!? お、俺まで……! イチ、ニッ! イチ、ニッ!」


 深夜の庭で、二人の男が涙目で高速スクワットを続ける奇妙な光景。  これはガルネットがバードの訓練用に仕掛けた『強制筋トレ床(重力変動ルーン式)』だった。体重70キロ以上の人間が踏むと発動する設定だ。


「はぁ、はぁ……! も、もう限界……!」


 10分後。ようやく解放された二人は、生まれたての子鹿のように足をプルプルさせながら這い進んだ。


「くそっ……なんだこの家は! だが、ここまで来たら引き返せねえ!」


 二人は裏口のドアにたどり着いた。  ボブがピッキングツールを取り出し、鍵穴に差し込む。


「へっ、こんな田舎の鍵、5秒で……ギャアアアアアッ!!?」


 ボブが悲鳴を上げて飛び退いた。


「熱ッ!? な、なんだこのドアノブ!? 真っ赤に焼けてやがる!」


 見ると、鉄製のドアノブが赤熱し、ジュウジュウと音を立てていた。  『温度変化のルーン』。不正な解錠を感知すると、瞬時に500度まで加熱される防犯システムだ。


「ア、アニキ! 窓から行きましょう! 窓なら……!」


 ジムが窓枠に手をかける。鍵はかかっていないようだ。  ゆっくりと窓を持ち上げる。


 ――キィィィィィン!!


 その瞬間、鼓膜をつんざくような超高周波の「女の悲鳴」が響き渡った。


「「グアアアアアアッ!! 耳がァァァァッ!!」」


 二人はのたうち回った。  これは警報機ではない。  リナが自分の服にシミを見つけた時の「ヒステリー音波」を録音し、『拡声のルーン』で10倍に増幅した音響兵器だ。ゴブリンなら即死するレベルである。


「はぁ、はぁ……。な、なんなんだよこの店は……魔王の城か!?」 「アニキ、もう帰りましょうよぉ……!」 「馬鹿野郎! ここまで痛い目見て、手ぶらで帰れるか! 意地でも入ってやる!」


 二人はボロボロになりながら、ついに店内に侵入した。  中は静かだ。  カウンターには商品棚があり、月明かりに照らされて数本の剣が輝いている。


「あっ、アニキ! あれ! 絶対高そうですよ!」


 ジムが棚に駆け寄り、一本の剣に手を伸ばした。  その瞬間。


 カシャッ。


 カウンターの奥に設置されていたマネキン人形が、がくりと動いた。


「……え?」


 マネキンの腕が上がり、その手に握られていたクロスボウが火を噴いた。


 ドスッ! ドスッ!


「ぐべぇっ!?」 「あぎゃっ!?」


 二人の額に、矢が命中した。  だが、それは鉄の矢ではなかった。先端に『スライムの超粘着液』が詰まったゴム弾だ。


「んぐぐ……! 顔が! 粘着して取れねえ!」 「前が見えねえ! アニキどこだ!?」


 顔面をスライムで覆われ、視界を奪われた二人はパニック状態で暴れまわった。  棚が倒れ、商品が散乱する。


 その騒ぎで、ようやく店主たちが起きてきた。


「……なんじゃ、騒々しい。ネズミか?」


 二階から降りてきたのは、ナイトキャップを被り、目をこすっている金髪の幼女――ガルネットだった。  彼女はスライムまみれでのたうち回る二人組を見て、深くため息をついた。


「やれやれ。トラップの作動テストにはなったが……リナの悲鳴音波でも起きんとは、しぶといネズミじゃのう」


「な、なんだこのガキは!? お前がやったのか!?」 「ここから出せ! 殺すぞコラァ!」


 ボブがスライム越しに吠える。  ガルネットは冷めた目で彼らを見上げ、そして背後の部屋に向かって声をかけた。


「バード、起きろ。ゴミ出しの時間じゃ」


 ズゥゥゥン……。  奥の部屋から、地響きのような足音が近づいてくる。  現れたのは、天井に頭が届きそうなほどの巨漢。  寝ぼけ眼で、右腕の巨大な鋼鉄義手が鈍い光を放っている。


「……ふわぁ。なんだぁ、大将。まだ夜中だぞ……」


 バードはあくびをしながら、足元で暴れる泥棒たちを見下ろした。


「……ん? なんだこの汚ねぇのは」 「ヒィッ!? ば、化け物!?」 「く、来るな! 俺たちは……ギャアッ!」


 バードは面倒くさそうに、義手の小指で泥棒二人をまとめてデコピンした。


 ドォォォン!!


 二人はボールのように吹き飛び、壁に激突して気絶した。


          ***


 翌朝。  店の前には、縄で縛られ「私は泥棒です。二度としません」という看板を首から下げられた男二人が転がされていた。


「あら親方、またですの? 今月で3組目ですわよ」 「防犯トラップも考えものじゃな。掃除が面倒くさい」 「被害届出すより、身代金取った方が儲かるんじゃない?」


 ガルネットたちは朝食のパンをかじりながら、完全に日常茶飯事として処理していた。  工房『小さな巨人』。  そこは、王都の騎士団長すら顧客に持つ名店であり、同時に、並の盗賊団なら一晩で全滅する「恐怖のからくり屋敷」でもあったのだ。

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