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第97章 別れを告げる

叔父の宣告から数日が経ち、源希は最後の荷物をまとめていた。

いつ戻れるか分からなかったからこそ、残された時間を大切に過ごしていた。

彼は最高警備施設にいるカイトの様子も見に行った。

表情は相変わらず虚ろだったが、食事と睡眠は取れる程度には正気を取り戻している。

暴れることもまだあったが頻度は減り、襲撃事件以降、ほとんど大人しい状態だった。

その後、源希は公園を歩いていた。少し後ろを春人がついてくる。

淡い霧が街を包み込み、どこか幻想的な光景を作り出していた。

源希は息を吐き、白く滲む自分の吐息を見つめる。

「時が経つのは早いな。全部が始まったのは夏だったのに、もう冬だ」

春人は小さく笑った。

「本当だな。あの頃はさ、俺、ずっと緊張してて……何をするにもお前頼りだった。ただ言われた通りについていくだけでさ」

源希は空を見上げる。

「でも、今のお前は違う。回復してる間に何があったのかは分からないけど……お前、確実に成長したよ、春人。悪い方向じゃない。今のお前を見たら、お父さんも誇りに思うはずだ」

春人は後頭部を掻いた。

「そうかもな。でも、親父の半分にもなれてない気がする」

源希はちらりと彼を見る。

「それでいいんだよ。父親みたいになる必要はない。

お前は炎城春人だ。新しい元素魔術師なんだから」

春人は薄く笑った。

「……そうだな。俺は俺か。分かってても、比べちまうけどさ」

源希は彼の肩に手を置いた。

「無理すんなよ、春人。他のみんなのことも頼む」

突然、春人が片腕で源希を引き寄せた。

源希は一瞬目を瞬かせ、それから笑って抱き返す。

「お前がハグするタイプだとは思わなかったぞ、炎城」

春人は小さく笑う。

「お前、俺のこと何でも知ってるつもりか? 相川」

彼は腕を離した。

「世界を旅するんだろ。ちゃんと楽しめよ。俺たちがここで待ってるの、忘れるなよ」

源希は鼻で笑った。

「忘れるわけないだろ。……またな、春人」

二人は別々の道を歩き出した。

静かな通りに源希の足音だけが響き、霧が彼の姿を飲み込んでいく。

家に着くと、玄関先に麗花が立っていた。

長ズボンに厚手のコートを着込み、寒そうに身をすくめている。

源希に気づくと、彼女は顔を上げて手を振った。

源希は隣に腰を下ろし、苦笑する。

「やっぱり寒いの苦手だよな」

麗花は身を震わせ、彼に寄り添う。

「うん。大嫌い」

しばらく沈黙が続いた後、源希が口を開いた。

「それで、今日はどうしたんだ?」

麗花の紅い瞳には、寂しさと覚悟が同居していた。

「もうすぐ出発するんでしょ。ちゃんとしたお別れを言いたくて……次があるか分からないから」

源希は彼女の肩を抱く。

「寂しくなるよ、麗花。こんなに長く離れるの、初めてだしな……」

麗花は彼に身を預けた。

「うん。正直、怖い。でも……これも必要なんだと思う。

ずっと支え合うだけじゃなくて、それぞれ自分の足で立つ時間」

源希は小さく微笑む。

「そうかもな。でも、やっぱり寂しいよ」

麗花はいたずらっぽく笑った。

「叔父さんと世界を回って戻ってきたら、みんなここにいるから。

その頃には、私も闇魔法の達人になってるし」

源希は彼女の頭を軽くくしゃっと撫でた。

「はいはい。でも、ちゃんと“心”は忘れるなよ。他人のくだらないことで、気分まで壊すな」

麗花は小さく息を吐く。

「頑張る。でも……正直、難しい。あなたがいないと……」

源希は立ち上がり、腕を引いた。

「大丈夫だ。俺がいなくても、お前ならやれる。

時間があれば必ず連絡する。嫌なこと全部、俺に愚痴っていい。どうだ?」

麗花も立ち上がり、柔らかく笑う。

「……約束ね」

源希は彼女を軽く抱きしめ、しばらくしてから手を離した。

麗花は最後に微笑み、両親の用事があると言い残して走り去っていった。

源希は家の中へ入る。

そして、そこにいた。

彼を待つ、最後の別れ。

——伊佐音だった。

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