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第95章 回復への道

源希は扉をノックした。表情は引き締まり、空には重たい雲が垂れ込め、街全体を憂鬱な灰色に染めていた。

扉を開けたのは麗花の父で、彼は何も言わずに源希を中へ招き入れた。

——また、この時間だ。

見慣れた柊家の廊下を進む。壁には昔の写真が並んでいた。

源希はそっと麗花の部屋の扉を開ける。電気は消え、彼女はベッドの上で膝を抱え、丸くなっていた。

顔を上げた麗花は、少し苛立ったように彼を見る。

「……また?」

源希は頷き、彼女の隣に腰を下ろす。掌の上に印が浮かび上がった。

「まただよ」

この一か月、彼は何度も彼女の暴走を封じてきた。訪問は、もはや日常になっていた。

玲司の危惧した通り、麗花の状態は悪化していた。

絶え間ないおしゃべりの代わりに訪れた不自然な静けさ——それは現実だった。

彼女は今や完全な闇の魔術師であり、その変化は隠しきれなくなっていた。

源希の掌の印が集まりつつある闇の魔力を吸い込む。だが、それは一時しのぎに過ぎない。

数か月もの間、麗花が源希の使い魔だったと知ったとき、両親は激怒した。

それを隠していた玲司に対してだ。

麗花は必死に庇ったが、話し合いは口論へと発展した。

それ以来、彼女は両親と口をきいていない。

魔力を封じ終えると、麗花は源希の手を取った。

声は、いつもよりずっと小さい。

「源希……怖いの。両親のことは大好き。でも、話そうと思うと……血が煮え立つみたいで。どうすればいいのか、分からない」

源希は優しく手を握り返し、表情を和らげた。

「怖いのは分かるよ、麗花。でも、その恐怖に飲み込まれちゃいけない。それが、黒鐵に起きたことだ。結果は……良くなかった」

麗花は無理に笑おうとしたが、すぐに崩れた。涙が瞳に滲む。

最近、何度も見てきたその表情に、源希は胸を痛めた。

「でも……私、彼みたいになってる。源希とも、みんなとも距離を取って……もう何週間も、心から笑ってない……」

源希はさらに強く手を握る。

「違う。君は彼とは違う、麗花。君は人を想える。

黒鐵は魔力を継いだときに、本性が露わになっただけだ。闇が彼を怪物にしたんじゃない。もともと、そういう人間だった。

君は違う。苦しくて、うまく表に出せないだけだ。それで怪物になるわけじゃない。

俺は助けたい。でも……何が怖いのか、ちゃんと教えてくれ。俺を信じてほしい」

麗花は何度か震えるように息を整えた。部屋は静まり返っている。

「怖いのは……源希が、もう私を必要としてない気がするから。

今は伊佐音がいるでしょ。気持ちのことは、全部あの子に任せて……

私はもう使い魔でもないし、戦う理由もない。役に立たない存在になって……そのうち、私のところから離れていくんじゃないかって……」

源希は目を見開き、すぐに納得したように表情を和らげた。

「麗花……俺が君を見捨てるわけないだろ。

昔みたいに必要としてない部分はあるかもしれない。でも、それとこれとは別だ。

君は、俺にとって一番の親友だ。彼女ができたとか、君が生き返ったとか、そんな理由で手放すわけない。

諦めろ。君は一生、俺に付き合うんだ。嫌でもな」

麗花は小さく、壊れそうな笑みを浮かべた。

——何週間ぶりかの、心からの笑顔だった。

「ありがとう……源希。思ってる以上に、嬉しい」

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