第88章: 楽しかった
元気はその日一日、イサネと一緒に過ごした。カフェのあと、公園を歩き回り――そしてイサネが人生で初めてゲームセンターを見つけた瞬間、その子どものような輝いた表情に、元気は自分でも気づかないほど何度も笑っていた。
夕暮れどき、二人はベンチに座り、アイスを食べながら一日の終わりを楽しんだ。
元気はイチゴ味、イサネは「ホットチョコレートアイス」という謎の味を選んでいた。
「その名前おかしいだろ。」元気は彼女のコーンをまじまじと見つめて言う。
「アイスって冷たいものなんだから、ホットってどういうことだよ。」
イサネはくすっと笑い、少し眉を上げて挑発的に返す。
「元気くん、いつからアイスの専門家になったの? 名前の由来はね、マシュマロが入ってるからだよ。」
元気はため息をつき、肩をすくめた。
「はいはい。まあ、アイスの味としては変な名前だけど。」
しばらく心地よい沈黙が流れる。イサネはほんの少しだけ距離を詰めた。
地平線には沈む太陽が広がり、街並みを温かなオレンジ色に染めていく。
元気は深く息を吸い込み、ふっと優しい笑みを浮かべ、彼女を見た。
「イサネ……ありがとう。今日は、本当に楽しかった。」
イサネはそっと手を伸ばし、彼の指と絡める。
「こちらこそ、元気くん。私もすごく楽しかったよ。」
元気は喉を鳴らし、心臓の音が耳に響く。
「イサネ……その……もしよければ、正式に――」
「うん。」
イサネは即答し、目を輝かせた。
「元気くんの彼女になりたい。」
元気の目が見開き、次の瞬間、胸の力がふっと抜けた。
「ああ……思ったより簡単だった。」
彼はしっかりと彼女の手を握り直し、二人は手をつないだまま帰路についた。
家に着くと、イサネは一瞬だけためらい――それから勢いよく元気の頬にキスをして、顔を真っ赤にしてシャワーへ駆け込んでいった。
霊華がふわっと浮かび上がり、にやりと笑う。
「なんか幸せそうじゃん。」
元気は首の後ろをかきながら、ニヤけないよう必死で抑える。
「まあ……うん、そうかも。」
彼が部屋へ向かうと、霊華も後ろからぴったりついてくる。
「ほらほら、教えなよ! 手つないだ? ベンチでくっついた? それとも茂みの陰で――」
元気は無言で振り返り、真顔のまま扉をバタンと閉めた。
霊華は胸を押さえ dramat ic に息を呑む。
「ひどい! 親友が閉め出された! もし私が壁を通り抜けられたらいいのに!」
そしてそのまま、ニヤリとしながら頭だけ扉をすり抜ける。
「……あ、通れるんだった。」
そのまま部屋に入ると、腕を組み、元気よりもずっと堂々とドヤ顔を決める。
元気はただ目を回し、ベッドに倒れ込み、天井を見つめた。
霊華の声がふっとやわらぐ。
「ねえ……楽しかった?」
元気は小さく息を吐き、口元に微笑みを浮かべた。
「ああ……楽しかったよ。」




