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第84章 未知の世界へ

ゲンキは前へと体を押し出し、できる限りの速さで進んだ。世界が一気に流れ去り、景色が線のように引き伸びていく。立ち止まっても、流れは止まらなかった。風景そのものが猛烈な速度で駆け抜けていくように見え、この場所の存在が「動き」という概念そのものを歪めているようだった。


胸の奥でざわつく不安を無視し、さらに奥へ。


道はやがて、硫黄とマグマの森へと続いた。地中の血管のように火の河が脈打ち、流れ落ちている。焼けつくはずの熱は、むしろ凍えるような冷たさとなって肌を刺した。そのあと彼は巨大な雨粒の降る世界へ踏み込んだ──一滴一滴が彼と同じ大きさで、地面に落ちるたび大地を揺らす衝撃波が霊体を軋ませた。


だが奥へ進むほど、世界の法則は壊れていった。霊体のはずの身体が重く、物理的な痛みを感じるようになり、地面にぶつかるたび傷ができた。それらは時間をかけて霊力を消費しながらゆっくりと修復されていく。


やがて彼は──普通に見える場所へ出た。奇妙な炎も、逆さまの空もない。ただの崖、むき出しの土、そして無数の穴が穿たれた荒地。ゲンキはわずかに安堵の息をついた。


──その瞬間、腕が内側へとねじれ込むように消し飛んだ。


「なっ──!?」

地面に倒れ込み、のたうつ。腕の残骸を押さえる間にも、霊力が痛みを伴って集まり、ゆっくりと再形成されていく。


よろめきながら立ち上がり、必死に周囲を見渡す。そして見つけた。地面の一部が、静かに、音もなく内側へ吸い込まれるように歪み──消滅した。


ブラックホール。小さく、予測不能で、致命的。


ゲンキは凍りついたまま地形を注視した。規則性を探す。リズムを探す。何か一つでもヒントがあれば──

……何もない。

崩壊は完全にランダム。


つまり──行くには「運」に頼るしかない。


歯を食いしばり、走った。


世界が崩れ落ちる。足元が突然消え、横から地面が飲み込まれ、彼は必死に左右へ飛びのく。だが一つが足を捕らえた。


激痛が全身を貫き、片脚が一瞬で断ち切られる。転倒し、転がり、深い窪地へ落ち込む。そこでようやく崩壊は上方に集中していると気づいた。ここなら、少しは安全かもしれない。


精神を削りながらも、足が再び霊力で再生されていく。恐怖と決意だけが彼を動かしていた。ゲンキは低く身を伏せたまま走り、決して立ち止まらず、どれほどの時間が過ぎたのか分からないまま──ついに崩壊地帯を抜け出した。


地面に倒れ込み、再び立ち上がるまでしばらく動けなかった。呼吸は必要ないはずなのに、肺が悲鳴を上げているようだった。それでも──感覚は確かに続いていた。あの引力。あの静電気の囁き。あの“願い”に触れる約束。


「あと…少しだけ……」


どれほど歩いただろうか。もう奇怪な風景もない。世界のねじれもない。ただ、静寂。あの呼び声だけ。


そして──見えた。


遠く、高く、空の中に巨大な“封印”が浮かんでいた。どうして今まで気づかなかったのか分からない。だが今はもうどうでもよかった。


なぜか分からない。

だが──あれを解放しなくてはならない。


ゲンキは封印へ手を伸ばした──


大爆発が大地を砕いた。


地面が割れ、衝撃で吹き飛ばされ、砂塵の中で転がる。顔を上げた瞬間、心臓が凍りついた。


影が落ちていた。

巨大な影が。

山脈のような存在感で、地平線の果てまで伸び──世界を飲み込むようにのしかかっていた。


その中心に“そいつ”が立っていた。

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