第81章:余波
霊司は大きく息を吐き、気を失った静女の身体のそばに立っていた。視線は遠くの地平線へ向かう。甥と慎羅が激突した名残が、まだ空気に漂っている。
「止めとけって言ったんだけどな……」
小さく呟く。
崩れた地面を歩き、残りの仲間を探す。
早苗、リカ、陽斗、清司――全員が倒れてはいたが、生きていた。
そのすぐ近くの壁にもたれ、元気が荒い呼吸を繰り返している。
霊司は無言でその隣に腰を下ろした。
「――黒前は?」
元気を見ることもなく、前だけを見据えたまま尋ねる。
元気の身体がわずかに震えた。
「……死んだよ。」
霊司は目を閉じ、深いため息をもう一つ吐く。今度は苛立ちが混ざっていた。
「家にいろって言ったろ。」
元気は視線を逸らし、顔に罪悪感が滲む。
「分かってたけど……岡崎とカイトが関わってて……気付いたら、いろいろ巻き込まれてたんだ。」
霊司は立ち上がり、ズボンの埃を手で払うと、倒れた仲間たちの方へ歩く。
「もうすぐ救助が来る。心配すんな。全員助かる。」
元気は身体を起こし、真剣な表情で問いかけた。
「……黒沼はどうなった?」
霊司は一度だけ振り返る。
「捕まえた。生きてな。」
沈黙が落ちる。やがて元気が低い声で続けた。
「戦いの後……“何か”が見えたんだ。奇妙な場所だった。それに……霊司さんと天野さんもいた。あれ、なんだと思う?」
霊司は軽く首を傾げる。
「奇妙って……もっと言語化してくれねぇと。」
元気はしばらく考えこむ。
「うまく言えない。普通じゃなかった。ただ……全部が“おかしい”感じの場所。」
その言葉に、霊司の目がわずかに細くなる。
「ああ……心当たりはあるな。俺も一度だけ行った。ほんの一度だけ。」
元気は勢いよく向き直る。
「教えてくれない?」
霊司は一度元気をじろりと見てから、空を見上げて語り始めた。
「魔導士の間じゃ“可能性領域外”って呼ばれてる。理由は単純だ。あそこにあるもののほとんどが、この世じゃ起こり得ない。それでも存在してるんだ。
起源も正体も不明。だが危険度は桁違いだ。そこに住む“存在”は……黒前なんか比較対象にもならねぇ。」
少し間を置き、続ける。
「お前の見た俺と天野のことだが……まあ納得はできる。あそこに行けるのは、霊か空間の魔導士だけだ。霊の方は精神体で行ける。身体は傷つかねぇし、魔力さえあれば回復もできる。空間魔導士は……物理的に行けるが、帰れなきゃ終わりだ。」
元気はゆっくり頷いた。
「じゃあ……俺にも行き方を教えてもらえる?」
霊司は左右に首を振り、考え込むような仕草。
「まぁ……教えること自体はできるが……今はダメだ。全員が回復してからだな。早くても一、二週間後だ。」
そして急に目を細めた。
「つーか、その前に……おい、あれなんだ?」
近くで漂う“静電気の球体”を指差す。
元気は頭を掻きながら言う。
「たぶん……黒前の魔力だと思う。」
霊司は慎重に近づき、手を伸ばした瞬間――
球体は強烈な衝撃波で霊司を数メートル吹き飛ばした。
彼は難なく着地したが、鋭い目つきのまま言った。
「……なるほどな。これは動かせねぇ。」
それを無視するように、元気は歩み寄り、球に手を伸ばす。
霊司は止めようと飛び出した――が、動きが止まった。
元気が、いとも簡単にその球体を持ち上げたのだ。
霊司の目が驚愕に見開かれる。
「……マジかよ。どうやらお前……それと“相性”がいいらしいな。」
声に硬さが戻る。
「戦いの詳細は後で聞く。今は……それを安全な場所に移すぞ。」




